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10 あなたを好きかもしれない

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 エドは、家の前まで迎えに来てくれた。馬車に乗り込むと、私は前のデートの時と同じように彼の隣に座った。

「お待たせしました」
 両親と話し込んでいたから、約束の時間より少し遅れてしまった。
「ベラが遅刻なんて珍しいね」
 確かに学園生活では、遅刻なんて一度もしたことがなかったけれど。エドがそんなことまで覚えていた事に驚いた。

「ごめんなさい」
「いいよ。・・・・・・もしかして遅刻の原因って、あのゴシップ記事のせいだったりする?」
「エドもあんな低俗な新聞を読むんですか?」
「いや。普段は全く読まないよ。ただ、君に関することが書いてあるって、侍従に教えられてね」
「そうでしたか」
 あんな記事をエドにまで読まれてしまったと思うと恥ずかしい。
「ごめんなさい、私のせいでエドも噂の標的になってしまって」
「ベラは気にするところを間違えているよ」
 エドは私の手を握った。
「俺は、ベラのことを軽々しくネタにするのは許せない。だから、婚約の発表を早めたいと思っているんだ」
 私は、彼の言葉に目を丸くした。
「でも、まだフィリップ様との婚約を解消してから二ヶ月も経っていませんよ?」
「何も問題ない」
「国王陛下は認めて下さいますか?」
「陛下はむしろ早期の結婚を望んでらっしゃるよ」
「どうしてですか」
「ベラのことを心配してるから」
 お忙しい陛下との面会はまだかなっていないというのに。心配されていると言われても今ひとつ実感が湧かない。

「このことは後日、改めて侯爵に提案するつもりだ」
「そうですか」
「本当は、俺のことを好きになってもらってから婚約したかったけど・・・・・・」
 そう言われて、エドに対する気持ちを意識した。

「好き、かもしれませんよ」
「え?」
 エドは目を丸くしていた。
「本当に、本当に俺のことが好きなの?」
 期待に満ちた目で見つめられると、少し不安になった。
「はっきりとは、分からないのですが」
 私が言うと、エドは少しがっかりしたようだった。

 ━━違う。彼をがっかりさせたかったわけじゃない。

「でも、エドに関心があるのは分かるんです」
 かつての婚約者だったフィリップ様に対して、私は何の関心もなかった。彼がどこで何をしようとも気にならなかったし、彼の趣味や好悪すら知らない。フィリップ様に何と思われようともどうでもよかった。
 でも、エドは違った。
「自然公園のデートをしてから今日会う日まで、『次のデートはいつだろう』と、『早く会いたい』と思って待ち遠しかったんです」
「ベラ・・・・・・」
 デートでの作法についても、あれから私なりに調べもした。でも、そんなことを言えば必死になっていると思われるかもしれないから黙っておく。

「ベラ、俺は嬉しいよ」
 エドは急に抱きしめてきた。
「エド?」
 どうすればいいか分からなくて戸惑いを隠せないでいると、彼は私の身体を離してくれた。
「ごめん、びっくりさせたね」
「いえ」
 びっくりはしたけど、嫌ではなかった。

 ━━本当、エドといると初めての経験ばかりだわ。

 エドはそわそわして落ち着きがなかった。もしかしたら、私が怒っていると勘違いしているのかもしれない。
 私は彼の手を握った。こういう時は、口で怒っていないというよりも、行動で示した方がいいと誰かが言っていた。

 ━━私は怒っていないし、不快でもなかったとエドに伝わればいいけれど。

 そう思っていたら、エドは私の手を握り返してきた。
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