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9 止まらない噂
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結局、サロンでは詩を学ぶだけで終わってしまった。他の令嬢や貴婦人と仲良くすることもサロンの目的の一つなのに上手くいかない。
落ち込んだ気持ちのまま家に帰ると、お父様の書斎に呼ばれた。御者のことで話があるのだろう。
書斎のソファに座ると、お父様はすぐに本題を切り出した。
「御者のことだが、噂を流したのは彼ではなかったよ」
「そうですか」
長年仕えてくれた御者が犯人でなくて、嬉しかったのだけれど、出てきた言葉はそんなものだった。
「彼の手伝いをしている、御者見習いとでもいえばいいのかな? 一年程前に雇った下男がうちの情報をゴシップ記者に売っていたらしい」
「まあ・・・・・・」
その下男には覚えがあった。御者が自分の後継者にと育てていた男だった。御者は私にわざわざそう紹介してきたのに・・・・・・。
お父様によると、御者は可愛がっている下男を疑うことなく、私の予定や行動を何気なく話してしまったそうだ。
「下男はどうして情報を売ったのでしょう?」
「それがな、『エリナ・ランベール子爵令嬢の邪魔をするからやった』と下男は言うんだ」
私は首を傾げた。エリナの邪魔をした覚えはないのだけれど。
「お母様は、それを聞いて、エリナ嬢が主犯だと思い込みを強めたようでな・・・・・・。子爵家に乗り込んでいきそうな勢いだったから止めるのに苦労したよ」
そう言うお父様の顔から疲れが見える。怒ったお母様を止めるのはとても大変だったのだろう。
「下男は男爵家の出身の者でな。幼少期はエリナ嬢と親しくしていたそうだ。とは言っても、今では付き合いもなく、彼の一方的な感情と思い込みでやったとしか思えない」
「なるほど。では、エリナの指示ではないとお父様は考えるのですね」
お父様は頷いた。
「だから、彼には出て行ってもらったよ。彼はもう首都にある貴族の屋敷では働けないだろうから、安心しなさい」
お父様が下男の処分についてそう語ると、話は終わった。
※
下男がいなくなったから、うちの情報がゴシップ紙のネタにされないだろうと思っていた。
でも、事はそう簡単には収まってくれなかった。一ヶ月ほど経った頃に、また私に関する記事が掲載されたのだ。
"イザベラ嬢、次のデートは街で買い物 彼に何を買わせる?"
その見出しを見た途端、お母様は新聞を床に叩きつけた。
「ベラのことをたかり屋みたいに言って!」
お母様は相当頭に来ているらしい。
「旦那様、もう我慢なりません! この新聞社を潰して下さいませ!!」
「そうだな。いくら何でもこれは酷すぎるが・・・・・・」
お父様は私をちらりと見た。
「ベラはエドワード殿下と買い物に行く約束をしたのか?」
聞かれて私は頷いた。
「はい。殿下と手紙で絵の話を話をしていたんです。それで、画材を一緒に買いに行こうと言う話になって」
「そのことを誰かに話したのか?」
私は首を横に振った。
「誰にも」
「となると、手紙を投函する前にうちの使用人が読んだのか、あるいは殿下の周りでおしゃべりな人間がいるのか・・・・・・」
お父様は口元を押さえて考え込んだ。
「うちにまだ裏切り者がいるというの?」
お母様は近くにいたメイド達を睨みつけた。容疑者扱いをされたメイド達は表情を固くして俯いた。
「ルーシー、やめないか。何もうちの使用人だと決まったわけではないから」
お父様はお母様を宥めるために背中を撫でた。
「では、殿下の周りの人だというのかしら? その可能性の方が低いと私は思いますよ」
お母様の言葉にお父様は顔を顰めた。その意見には私も賛成だ。厳正な国王陛下と賢明なエドが、自分達の周囲に口の軽い者を置いておくとは思えなかった。
だから、まずは私の身の回りの人から調べていった方が良いのだけれど・・・・・・。
「ごめんなさい、犯人について私も考えたいんですけど、これから殿下との約束があるのです」
画材を買いに行く約束の日は今日だった。
「そうなの? エドワード殿下を待たせてはいけないわ。早く支度をして行ってきなさい」
「すまないな。出かける前にこんな嫌な話をしてしまって」
「いえ。この事はまた後で話しましょう」
私が言うと二人は頷いた。
落ち込んだ気持ちのまま家に帰ると、お父様の書斎に呼ばれた。御者のことで話があるのだろう。
書斎のソファに座ると、お父様はすぐに本題を切り出した。
「御者のことだが、噂を流したのは彼ではなかったよ」
「そうですか」
長年仕えてくれた御者が犯人でなくて、嬉しかったのだけれど、出てきた言葉はそんなものだった。
「彼の手伝いをしている、御者見習いとでもいえばいいのかな? 一年程前に雇った下男がうちの情報をゴシップ記者に売っていたらしい」
「まあ・・・・・・」
その下男には覚えがあった。御者が自分の後継者にと育てていた男だった。御者は私にわざわざそう紹介してきたのに・・・・・・。
お父様によると、御者は可愛がっている下男を疑うことなく、私の予定や行動を何気なく話してしまったそうだ。
「下男はどうして情報を売ったのでしょう?」
「それがな、『エリナ・ランベール子爵令嬢の邪魔をするからやった』と下男は言うんだ」
私は首を傾げた。エリナの邪魔をした覚えはないのだけれど。
「お母様は、それを聞いて、エリナ嬢が主犯だと思い込みを強めたようでな・・・・・・。子爵家に乗り込んでいきそうな勢いだったから止めるのに苦労したよ」
そう言うお父様の顔から疲れが見える。怒ったお母様を止めるのはとても大変だったのだろう。
「下男は男爵家の出身の者でな。幼少期はエリナ嬢と親しくしていたそうだ。とは言っても、今では付き合いもなく、彼の一方的な感情と思い込みでやったとしか思えない」
「なるほど。では、エリナの指示ではないとお父様は考えるのですね」
お父様は頷いた。
「だから、彼には出て行ってもらったよ。彼はもう首都にある貴族の屋敷では働けないだろうから、安心しなさい」
お父様が下男の処分についてそう語ると、話は終わった。
※
下男がいなくなったから、うちの情報がゴシップ紙のネタにされないだろうと思っていた。
でも、事はそう簡単には収まってくれなかった。一ヶ月ほど経った頃に、また私に関する記事が掲載されたのだ。
"イザベラ嬢、次のデートは街で買い物 彼に何を買わせる?"
その見出しを見た途端、お母様は新聞を床に叩きつけた。
「ベラのことをたかり屋みたいに言って!」
お母様は相当頭に来ているらしい。
「旦那様、もう我慢なりません! この新聞社を潰して下さいませ!!」
「そうだな。いくら何でもこれは酷すぎるが・・・・・・」
お父様は私をちらりと見た。
「ベラはエドワード殿下と買い物に行く約束をしたのか?」
聞かれて私は頷いた。
「はい。殿下と手紙で絵の話を話をしていたんです。それで、画材を一緒に買いに行こうと言う話になって」
「そのことを誰かに話したのか?」
私は首を横に振った。
「誰にも」
「となると、手紙を投函する前にうちの使用人が読んだのか、あるいは殿下の周りでおしゃべりな人間がいるのか・・・・・・」
お父様は口元を押さえて考え込んだ。
「うちにまだ裏切り者がいるというの?」
お母様は近くにいたメイド達を睨みつけた。容疑者扱いをされたメイド達は表情を固くして俯いた。
「ルーシー、やめないか。何もうちの使用人だと決まったわけではないから」
お父様はお母様を宥めるために背中を撫でた。
「では、殿下の周りの人だというのかしら? その可能性の方が低いと私は思いますよ」
お母様の言葉にお父様は顔を顰めた。その意見には私も賛成だ。厳正な国王陛下と賢明なエドが、自分達の周囲に口の軽い者を置いておくとは思えなかった。
だから、まずは私の身の回りの人から調べていった方が良いのだけれど・・・・・・。
「ごめんなさい、犯人について私も考えたいんですけど、これから殿下との約束があるのです」
画材を買いに行く約束の日は今日だった。
「そうなの? エドワード殿下を待たせてはいけないわ。早く支度をして行ってきなさい」
「すまないな。出かける前にこんな嫌な話をしてしまって」
「いえ。この事はまた後で話しましょう」
私が言うと二人は頷いた。
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