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※
それから、リアは1ヶ月もしないうちに本邸に移った。
そして、彼女は両親に手紙を書き、彼らを公爵邸へと招いた。
「リア、久しぶりね」
母はそう言ってリアを抱きしめ、傍らにいた義父の子爵は、彼女達を優しく見守っていた。
そこにカイルが現れた。両親は固い表情で彼と向き合う。
「公爵閣下、娘がお世話になっております」
子爵が挨拶をすると、リアの母もお辞儀をした。
「どうぞおかけになって下さい」
カイルの一言で、彼らは椅子に座った。緊張した面持ちでカイルに向き合う両親に向けて、彼は言った。
「リアとの契約の件ですが、破棄させていただきます」
カイルの言葉にリアの両親は揃って顔を上げた。目を見開いたまま、状況が呑み込めないように呆然としている。
「どういう事でしょうか」
母の声には、不安と困惑が混ざっていた。
カイルは隣に座ったリアの肩を抱いた。
「私が探していた人は、リアだったのです」
その言葉に、空気が変わった。子爵がわずかに目を細め、母がリアを見つめた。
「出会った時と目と髪色が違ったから気付けませんでしたが。俺が探していたあの少女はリアだったのです」
「もしかして、・・・・・・リアを助けてくれたという男の子なの?」
母の問いかけにカイルは頷いた。
「俺は彼女を心から愛しています。この婚姻は政略でも契約でもなく、私の意思で続けたい。だからどうか、今後も彼女の夫でいる事をお許し下さい」
「・・・・・・閣下」
子爵はしばらく沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。
「その様子だと、閣下はリアの秘密を知っているのですね?」
子爵の問いかけにカイルは頷いた。
「妻も娘も、祝福されるべきはずの聖痕が原因で、長年苦しめられてきました。息を潜め、窮屈に暮らす事でしか、私は彼女達を守れなかったのですが・・・・・・」
「お父様、窮屈だなんて・・・・・・」
リアは心の底から反論する。
「そうよ。あなたのおかげで私達母娘は幸せを手に入れたんですもの」
母はそう言うと、子爵の手を握った。
「俺にも、そのお手伝いをさせて下さい」
三人を見ていたカイルはつぶやいた。
「今までの不誠実な結婚生活を償うためにも、そして、これからのリアの幸せのためにも、彼女を真の公爵夫人として迎え入れたいのです」
カイルの真剣な眼差しを、子爵は受け入れた。
「娘を、どうかよろしくお願いいたします」
子爵は穏やかな声で言った。そして、母は涙ぐみながら、何度も頷いた。
※
その後、リアの両親は公爵邸の離れに住むことになった。リアのためにした提案だったが、両親にとっても安心できる環境となった。
そして、リアは魔法使いの助言のもと、長年使い続けていた目薬をやめる決意をした。恐怖に怯える必要がなくなった今、それは必要のないものだった。
侯爵の不正と贈賄の証拠を手に入れたカイルはそれを元に彼の罪を追及した。その事実が明るみになると、侯爵は公的な場から完全に排除される事となった。
こうして、侯爵は公爵家とリアに二度と近づけないようにされたのだ。
だから、リアはもう、聖痕を狙う卑劣な侯爵に怯えて過ごすこともなくなった。
それからは、穏やかな日々が続いた。
穏やかな陽の光が差し込む庭園で、リアとカイルは並んで腰を下ろしていた。
リアの赤い瞳が、優しくカイルを見つめる。
「お飾り妻だった時も申し分のないくらい幸せだったけれど・・・・・・。今とは比べ物にならないわ」
リアの頭をカイルは撫でた。
「そう言ってもらえて、俺も幸せだよ」
彼の言葉にリアはふふっと小さく笑った。
「幸せ過ぎて夢みたい」
そのつぶやきをカイルは否定する。
「夢じゃない。これが、君と生きる現実だ」
カイルがそう言ってリアの手を握る。リアはその手をぎゅっと握り返し、そっと微笑んだ。
過去の苦しみも、痛みも、今ではすべて彼と繋がるための道だったのかもしれない。彼の隣にいられるなら、それも意味のあることだと思えた。
こうして、彼らは幸せな未来へと、静かに歩き出した。
それから、リアは1ヶ月もしないうちに本邸に移った。
そして、彼女は両親に手紙を書き、彼らを公爵邸へと招いた。
「リア、久しぶりね」
母はそう言ってリアを抱きしめ、傍らにいた義父の子爵は、彼女達を優しく見守っていた。
そこにカイルが現れた。両親は固い表情で彼と向き合う。
「公爵閣下、娘がお世話になっております」
子爵が挨拶をすると、リアの母もお辞儀をした。
「どうぞおかけになって下さい」
カイルの一言で、彼らは椅子に座った。緊張した面持ちでカイルに向き合う両親に向けて、彼は言った。
「リアとの契約の件ですが、破棄させていただきます」
カイルの言葉にリアの両親は揃って顔を上げた。目を見開いたまま、状況が呑み込めないように呆然としている。
「どういう事でしょうか」
母の声には、不安と困惑が混ざっていた。
カイルは隣に座ったリアの肩を抱いた。
「私が探していた人は、リアだったのです」
その言葉に、空気が変わった。子爵がわずかに目を細め、母がリアを見つめた。
「出会った時と目と髪色が違ったから気付けませんでしたが。俺が探していたあの少女はリアだったのです」
「もしかして、・・・・・・リアを助けてくれたという男の子なの?」
母の問いかけにカイルは頷いた。
「俺は彼女を心から愛しています。この婚姻は政略でも契約でもなく、私の意思で続けたい。だからどうか、今後も彼女の夫でいる事をお許し下さい」
「・・・・・・閣下」
子爵はしばらく沈黙した後、ゆっくりと口を開いた。
「その様子だと、閣下はリアの秘密を知っているのですね?」
子爵の問いかけにカイルは頷いた。
「妻も娘も、祝福されるべきはずの聖痕が原因で、長年苦しめられてきました。息を潜め、窮屈に暮らす事でしか、私は彼女達を守れなかったのですが・・・・・・」
「お父様、窮屈だなんて・・・・・・」
リアは心の底から反論する。
「そうよ。あなたのおかげで私達母娘は幸せを手に入れたんですもの」
母はそう言うと、子爵の手を握った。
「俺にも、そのお手伝いをさせて下さい」
三人を見ていたカイルはつぶやいた。
「今までの不誠実な結婚生活を償うためにも、そして、これからのリアの幸せのためにも、彼女を真の公爵夫人として迎え入れたいのです」
カイルの真剣な眼差しを、子爵は受け入れた。
「娘を、どうかよろしくお願いいたします」
子爵は穏やかな声で言った。そして、母は涙ぐみながら、何度も頷いた。
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その後、リアの両親は公爵邸の離れに住むことになった。リアのためにした提案だったが、両親にとっても安心できる環境となった。
そして、リアは魔法使いの助言のもと、長年使い続けていた目薬をやめる決意をした。恐怖に怯える必要がなくなった今、それは必要のないものだった。
侯爵の不正と贈賄の証拠を手に入れたカイルはそれを元に彼の罪を追及した。その事実が明るみになると、侯爵は公的な場から完全に排除される事となった。
こうして、侯爵は公爵家とリアに二度と近づけないようにされたのだ。
だから、リアはもう、聖痕を狙う卑劣な侯爵に怯えて過ごすこともなくなった。
それからは、穏やかな日々が続いた。
穏やかな陽の光が差し込む庭園で、リアとカイルは並んで腰を下ろしていた。
リアの赤い瞳が、優しくカイルを見つめる。
「お飾り妻だった時も申し分のないくらい幸せだったけれど・・・・・・。今とは比べ物にならないわ」
リアの頭をカイルは撫でた。
「そう言ってもらえて、俺も幸せだよ」
彼の言葉にリアはふふっと小さく笑った。
「幸せ過ぎて夢みたい」
そのつぶやきをカイルは否定する。
「夢じゃない。これが、君と生きる現実だ」
カイルがそう言ってリアの手を握る。リアはその手をぎゅっと握り返し、そっと微笑んだ。
過去の苦しみも、痛みも、今ではすべて彼と繋がるための道だったのかもしれない。彼の隣にいられるなら、それも意味のあることだと思えた。
こうして、彼らは幸せな未来へと、静かに歩き出した。
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