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目が覚めたらエルドノア様に抱きしめられていた。私は局部を露出した状態で横になっていた。それまで何をしていたのかを思い出して嫌になった。
途中からの記憶が曖昧だけど、はしたないことを自らすすんでしていた気がする。
それから、何かを口走った気もするけど・・・・・・。どうせ聞くに耐えない下品なことを言ったんだと思う。思い出さない方がいい。
「おはよう。かわいい私の信徒」
エルドノア様は私の頬に口づけた。
「今は」
「深夜2時だよ」
エルドノア様は鞄からネグリジェを取り出すと私に手渡した。私は彼に背を向けて服を着替え始める。後ろから視線を感じるけど、徹底して無視を決め込んだ。エルドノア様は、「今さらじゃないか」と言って笑うけど、恥ずかしいものは恥ずかしい。
着替え終わって彼の方を向いたら、ベッドの縁に腰をかけて座っていた。
「おいで」
そう言って腕を広げてくる。私は大人しく彼に従った。彼の膝の上に横抱きにされるようにして座らされる。
「約束を、覚えていますよね」
「勿論だよ。無知なお前のために、まずはこの世界が創造された時の話をしてあげる。ちゃんと聞くんだよ」
そう言って彼は私の髪を指で梳き始めた。
「昔、昔。天界にいた神々は、新しい世界を作ることにしました。時空を統べるシトレディスが、まず、新たな空間を生み出しました。そして、彼女は出来上がった空間に時の流れを吹き込みました」
エルドノア様は指先で私の髪を搦めて遊び始めた。
「シトレディスが作った空間に、炎の女神ナーシャ、水の女神フレディア、風の男神ファーダ、土の兄妹神アレスとイリスがそれぞれの力を吹き込みました。こうしてできた世界には命が宿る土台が出来上がったのです。だから、エルドノアは世界に命を吹き込みました」
「エルドノア様が?」
「ふふっ、驚いた?」
エルドノア様は私の頬にキスをした。
「世界には、多くの生命が誕生しました。神々は天界で新たな世界を見守り続けます。時に、助けを求める声があれば、天界から降りてきて力を貸すこともありました。こうして、新たに作られた世界は少しずつ発展していき、豊かになっていきました。めでたし、めでたし」
そう言ってエルドノア様は「理解できた?」と聞いてきた。
「エルドノア様は、何の神様なんですか」
「生命神とでも言えばいいのかな。命を吹き込み、時には奪うことさえする。そんな存在だよ」
「じゃあ、エルドノア様の"食事"って」
「吹き込んだ命を私の下へと還す行為だね。今はシトレディスのせいでこの世界に顕在し続けるためにはそれなりの活力が必要になるから」
エルドノア様は私を抱き上げると窓辺に連れて行った。
外では焚き火を囲む人々がいた。彼らは祈るように手を組んでいる。
「今、彼らはナーシャを喚び出そうとしている。お前には聞こえないだろうけど、祈る声がするんだ。ナーシャがこちら側に来るには足りないけど、きっと聞こえてはいるはずだ」
「魔法陣は、必要ないんですか」
「ああ。あれは絶対に必要というわけではないよ。あれば便利だけど」
エルドノア様は窓辺から離れて再びベッドに腰を下ろした。
「シトレディスの邪魔がなければ、人が私達を喚ぶことは簡単なんだよ? 祈りを捧げて、神に来て欲しいと言葉にする。そして神がそれに応えたいと思ったらこちらの世界にやってくる」
シンプルでしょ? と、エルドノア様は笑った。
「かつての人は、私達にちゃんと声が届くように、場所を見誤らないように魔法陣を描いた。心付けとして、その神に由来するものを近くに置いておく風習があったかな。ナーシャなら炎、私なら生物をね」
「それが今でも忘れられていなくて、魔法陣を書いたり焚き火をしたりしているんですか」
「忘れていないというよりも曖昧に伝わったんじゃないかな。神を喚ぶことを禁じられてから少なくとも600年は経過しているから」
エルドノア様は少し寂しそうに笑った。
「とにかく、重要なのは、"祈ること"、そして神に来て欲しいと言葉にすることだよ。心の底から"自分の願い"を込めて祈るんだ。願いが強ければ強いほど、原始的であればあるほど、私達を導く輝きとなる。それが、私達にとって世界を分断するシトレディスの妨害を越えられる唯一の手段だ」
私はあんなに惨めな状況でも"生きたい"と、"死にたくない"と願った。それは心の底から強く湧き出た原始的な願いだったと思う。でも、エルドノア様に来て欲しいなんて言った覚えはない。
「お前はあの時、確かに私に来て欲しいと言ったんだよ。古代の言葉だったけどね」
エルドノア様は笑った。
「古代語? あの変な呪文のことですか」
「そうだよ。"生命の神、エルドノアよ。私の下へと来て下さい。私の声に応じて下さい"、だったかな。あの時、お前が言っていた言葉は」
今ではどんな呪文だったかもよく覚えていないけど、そんなことを言っていたのか。
「小さくて舌足らずな物言いだったけど、私にはちゃんと聞こえたよ」
首筋にキスをされた。少しくすぐったい。
「では、なぜフィアロン公爵は、私を使ってエルドノア様を喚び出そうとしたのでしょう」
「さあ? 私には分からないよ。あんな薄汚い男に呼ばれたって私は応じないけどね」
エルドノア様は不機嫌そうに言った。私はそんな彼の手を優しく包みこんだ。
「まあ、考えられるのは、召喚の方法が間違って伝えられていたんじゃないか。あるいは、自分自身で神と契約をしたくなかったのか」
「神との契約?」
「そういえば、お前には私との契約について詳しく話していなかったね」
「生贄を捧げることではないのですか」
「それは対価を払うための一つの手段に過ぎないよ」
私は生贄を捧げること以外、特別なことをしたことはないんだけど。
「神は人の願いを叶える代わりに、対価を求める。そして、その対価の内容は、願ったものとその神の趣向によって異なるんだ」
「私はエルドノアにどんな対価を払っいるんです?」
「私がお前に求めた対価はね、"お前の願いが叶うまで、お前とともにあること"だ」
「なぜ、それを?」
「この世界が今、どうなっているのかこの目でしっかり見たかった。もう一つは、シトレディスに対する嫌がらせかな」
「嫌がらせ?」
「そう。嫌がらせ。私がこの世界にいるだけで、停滞していた"命の流れ"が活発になるから」
そう言ってエルドノア様はまた語り始めた。
途中からの記憶が曖昧だけど、はしたないことを自らすすんでしていた気がする。
それから、何かを口走った気もするけど・・・・・・。どうせ聞くに耐えない下品なことを言ったんだと思う。思い出さない方がいい。
「おはよう。かわいい私の信徒」
エルドノア様は私の頬に口づけた。
「今は」
「深夜2時だよ」
エルドノア様は鞄からネグリジェを取り出すと私に手渡した。私は彼に背を向けて服を着替え始める。後ろから視線を感じるけど、徹底して無視を決め込んだ。エルドノア様は、「今さらじゃないか」と言って笑うけど、恥ずかしいものは恥ずかしい。
着替え終わって彼の方を向いたら、ベッドの縁に腰をかけて座っていた。
「おいで」
そう言って腕を広げてくる。私は大人しく彼に従った。彼の膝の上に横抱きにされるようにして座らされる。
「約束を、覚えていますよね」
「勿論だよ。無知なお前のために、まずはこの世界が創造された時の話をしてあげる。ちゃんと聞くんだよ」
そう言って彼は私の髪を指で梳き始めた。
「昔、昔。天界にいた神々は、新しい世界を作ることにしました。時空を統べるシトレディスが、まず、新たな空間を生み出しました。そして、彼女は出来上がった空間に時の流れを吹き込みました」
エルドノア様は指先で私の髪を搦めて遊び始めた。
「シトレディスが作った空間に、炎の女神ナーシャ、水の女神フレディア、風の男神ファーダ、土の兄妹神アレスとイリスがそれぞれの力を吹き込みました。こうしてできた世界には命が宿る土台が出来上がったのです。だから、エルドノアは世界に命を吹き込みました」
「エルドノア様が?」
「ふふっ、驚いた?」
エルドノア様は私の頬にキスをした。
「世界には、多くの生命が誕生しました。神々は天界で新たな世界を見守り続けます。時に、助けを求める声があれば、天界から降りてきて力を貸すこともありました。こうして、新たに作られた世界は少しずつ発展していき、豊かになっていきました。めでたし、めでたし」
そう言ってエルドノア様は「理解できた?」と聞いてきた。
「エルドノア様は、何の神様なんですか」
「生命神とでも言えばいいのかな。命を吹き込み、時には奪うことさえする。そんな存在だよ」
「じゃあ、エルドノア様の"食事"って」
「吹き込んだ命を私の下へと還す行為だね。今はシトレディスのせいでこの世界に顕在し続けるためにはそれなりの活力が必要になるから」
エルドノア様は私を抱き上げると窓辺に連れて行った。
外では焚き火を囲む人々がいた。彼らは祈るように手を組んでいる。
「今、彼らはナーシャを喚び出そうとしている。お前には聞こえないだろうけど、祈る声がするんだ。ナーシャがこちら側に来るには足りないけど、きっと聞こえてはいるはずだ」
「魔法陣は、必要ないんですか」
「ああ。あれは絶対に必要というわけではないよ。あれば便利だけど」
エルドノア様は窓辺から離れて再びベッドに腰を下ろした。
「シトレディスの邪魔がなければ、人が私達を喚ぶことは簡単なんだよ? 祈りを捧げて、神に来て欲しいと言葉にする。そして神がそれに応えたいと思ったらこちらの世界にやってくる」
シンプルでしょ? と、エルドノア様は笑った。
「かつての人は、私達にちゃんと声が届くように、場所を見誤らないように魔法陣を描いた。心付けとして、その神に由来するものを近くに置いておく風習があったかな。ナーシャなら炎、私なら生物をね」
「それが今でも忘れられていなくて、魔法陣を書いたり焚き火をしたりしているんですか」
「忘れていないというよりも曖昧に伝わったんじゃないかな。神を喚ぶことを禁じられてから少なくとも600年は経過しているから」
エルドノア様は少し寂しそうに笑った。
「とにかく、重要なのは、"祈ること"、そして神に来て欲しいと言葉にすることだよ。心の底から"自分の願い"を込めて祈るんだ。願いが強ければ強いほど、原始的であればあるほど、私達を導く輝きとなる。それが、私達にとって世界を分断するシトレディスの妨害を越えられる唯一の手段だ」
私はあんなに惨めな状況でも"生きたい"と、"死にたくない"と願った。それは心の底から強く湧き出た原始的な願いだったと思う。でも、エルドノア様に来て欲しいなんて言った覚えはない。
「お前はあの時、確かに私に来て欲しいと言ったんだよ。古代の言葉だったけどね」
エルドノア様は笑った。
「古代語? あの変な呪文のことですか」
「そうだよ。"生命の神、エルドノアよ。私の下へと来て下さい。私の声に応じて下さい"、だったかな。あの時、お前が言っていた言葉は」
今ではどんな呪文だったかもよく覚えていないけど、そんなことを言っていたのか。
「小さくて舌足らずな物言いだったけど、私にはちゃんと聞こえたよ」
首筋にキスをされた。少しくすぐったい。
「では、なぜフィアロン公爵は、私を使ってエルドノア様を喚び出そうとしたのでしょう」
「さあ? 私には分からないよ。あんな薄汚い男に呼ばれたって私は応じないけどね」
エルドノア様は不機嫌そうに言った。私はそんな彼の手を優しく包みこんだ。
「まあ、考えられるのは、召喚の方法が間違って伝えられていたんじゃないか。あるいは、自分自身で神と契約をしたくなかったのか」
「神との契約?」
「そういえば、お前には私との契約について詳しく話していなかったね」
「生贄を捧げることではないのですか」
「それは対価を払うための一つの手段に過ぎないよ」
私は生贄を捧げること以外、特別なことをしたことはないんだけど。
「神は人の願いを叶える代わりに、対価を求める。そして、その対価の内容は、願ったものとその神の趣向によって異なるんだ」
「私はエルドノアにどんな対価を払っいるんです?」
「私がお前に求めた対価はね、"お前の願いが叶うまで、お前とともにあること"だ」
「なぜ、それを?」
「この世界が今、どうなっているのかこの目でしっかり見たかった。もう一つは、シトレディスに対する嫌がらせかな」
「嫌がらせ?」
「そう。嫌がらせ。私がこの世界にいるだけで、停滞していた"命の流れ"が活発になるから」
そう言ってエルドノア様はまた語り始めた。
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