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12  魔導列車にて

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 私達が席に着いてから程なくして魔導列車は走り出した。
 馬車とは格段に違うスピードで列車は進んでいく。窓の向こうの風景を見ていたら、少しずつ胸のドキドキが治まってきた。

「すごい! 早いね!」
 ベッキーも私と同じように窓の外を見て言った。
「でしょ?」
「エリーが作ったわけでもないのに何でそんなに誇らし気なのよ」
 ベッキーに笑われてしまった。そんな私達を見て、アーサー様とライオネル伯爵は笑っていた。
「二人とも喜んでもらえて嬉しいよ」
 アーサー様が言うと伯爵は頷いた。
「すみません、年甲斐もなくはしゃいでしまって」
 ベッキーは照れ笑いを浮かべながら言った。私も前の時みたく浮かれ過ぎていた。もう大人何だからしっかりしないと。
「いいんだよ。こんなに喜んでくれるのなら改良のし甲斐があったものだよ」
 伯爵がそう言うとアーサー様も同意した。

 折角の機会だったから、私は二人に質問をした。改良にどれほどの期間をかけたのかとか、線路をもっと広げないのかとか。具体的な質問から曖昧なものまで。それに対してアーサー様と伯爵は嫌がることなく丁寧に答えてくれた。
「エリーったら、いつもは大人しいのに。かわいいんだから」
 私達の様子を見ていたベッキーがいきなりそんなことを言った。彼女に笑われてハッとする。私ったら、大人の態度でいようと思っていたのに、また一人ではしゃいでいたみたい。

「ごめんなさい、またはしゃいでしまって」
「いいんだよ」
 アーサー様は優しく笑って許してくれているけど。大人の女性として失格だわ。
「そんなに顔を赤くしなくてもいいじゃない。普段のクールなエリーも良いけど、好きなことに熱中して笑顔の絶えないあなたも素敵よ」
 そう言うとアーサー様はうんうんと頷いた。
「それに、魔導列車が時代を大きく変えると断言できるだなんて。モニャーク公爵令嬢は商才がありそうだ」
 ライオネル伯爵のお世辞に思わず照れてしまう。
「商才なんてそんな・・・・・・。交通の便がよくなれば人の往来と物の流通が活発になるはずですから。社会のあり方が変わって新しい時代になると思うのは当然ですわ」
「素晴らしい考えだよ」
 アーサー様はにこやかに言った。
「当然と言うけれど、貴族のお偉いさん達はなかなか分かってくれなくてね。魔導列車の線路を敷くのに何年かかったことか」
「まあ! そんなことが」
「もう10年近く前のことだけどね」
「懐かしいね。まだ俺達は学園にいて、事業の主導は、ライオネルのお父さんが担っていた時だった。俺達も大人顔負けで各方面に説得してたんだけど・・・・・・。まあ、話を聞いてくれない」
 アーサー様は当時のことを思い出したのだろう。苦笑して言った。
 それから、アーサー様と伯爵は昔話に花を咲かせた。話を聞けば聞くほど、二人が積極的な活動家だってことが分かる。若くしてその才能を評価されて、大公の位を与えられた理由もだ。

 ーー私、こんな立派な人の妻になれるのかしら。

 二人の話を聞いていたら、そういう考えが頭の中で渦巻いた。







 あれやこれやと雑談をしていたら、あっという間に、目的の駅にたどり着いた。
 ホームに降りると、ミランダのヒステリックな声が聞こえた。

「ちょっと、シリナ湖まで歩くってどういうことよ!」
「さっきから言っているだろう? 道中の風景も見て、インスピレーションを高めたいって」
「それだけのために15分も私を歩かせるなんてありえない!」
「ミランダ。君は何か勘違いをしていないかい? 俺達は遊びに行くわけじゃないんだ。君が、どう言おうと俺は歩いて行くから。嫌なら自腹で馬車に乗ることだね」
「そうさせてもらうわ!」
 ミランダは眉間にしわを寄せて馬車へと向かった。

「イアン卿、大丈夫?」
 ベッキーが声をかけると彼は「恥ずかしいところを見られましたね」と苦笑まじりに言った。
「彼女は君の助手として同行しているのかい?」
 ライオネル伯爵の問いにイアンはそうですと答えた。
「絵の勉強をしたいと言うから助手になってもらったんですけどね。実際は遊んでばかりで・・・・・・」
「余計なおせっかいかもしれないけど、早くクビにした方がいいと思うよ? 面倒事を起こす前に」
 伯爵が言うとイアンは頷いた。
「昔馴染みの人だからついわがままを許容していましたが。今日でおしまいにしようと思います。すみません、心配をおかけして」
「イアン卿は謝ることないわ。お仕事頑張ってね」
 ベッキーはイアンを慰めるように彼の手を取って言った。
「ありがとう。ライネ伯爵令嬢」
 彼は優しく笑うと私達に別れの言葉を告げて歩いて行った。
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