【完結】月下の聖女〜婚約破棄された元聖女、冒険者になって悠々自適に過ごす予定が、追いかけてきた同級生に何故か溺愛されています。

五城楼スケ(デコスケ)

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宿2

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* * *


 イロナの占いの腕は確かで的中率が高く、占って欲しいと人が殺到するのを防ぐべく、正体を隠したり商会を通すなど色々制限を設けていたのだが、それでも希望者が殺到し、一年の順番待ちだったという。

 しかし、そんなに人気がある占術師で、商会の経営も好調だったモルガン一家はクロンクヴィストへの移住を突然決めた。
 その理由は、言わずもがなイロナの占いが、モルガン一家をそう導いたからだ。

 そしてイロナからその話を聞いた時、話の流れでティナの未来を占うことになったのだが、何故か占うことが出来なかった。こんなことはイロナも初めてだと言う。

「……もしかして、ティナちゃんの運命値が高すぎるのかもしれないわね」

「運命値?」

「私が勝手にそう呼んでるだけなんだけど、簡単に言うと運命値が高い人は、人々に称賛される人生を送る人が多いの。例えば救国の英雄とか、偉大な発明をした魔道士とか」

 ティナはイロナの話を聞いてドキッとする。今はもう剥奪された称号とは言え、人々から崇め奉られる立場だったのだ。運命値が高いというイロナの言葉に思わず納得してしまう。

「な、なるほど……。もしかして私、英雄かもしれないんですね!」

「ふふ、随分可愛い英雄さんね。……でも、何だかそれだけじゃない気がするのよ。何かに妨害されてるような……ティナちゃんって、すごく信心深いのかしら?」

「ええっ?! ど、どうしてですか?!」

「ティナちゃんがすごく神に愛されているような気がしてね。……まあ、私の考え過ぎかもしれないけれど」

 まだ占って貰っていないのに、それでもズバズバと言い当てるイロナにティナは戦慄する。
 これで実際占って貰ったとすると、自分が聖女だったことなんてすぐにバレてしまうだろう。

(別に聖女だったって隠してるわけじゃないけど……。それでも、今のように気さくに接して貰えなくなるのは嫌だな……)

 ティナはモルガン一家との今の関係を心地よく感じていた。だから自分のことを打ち明けるのをつい躊躇ってしまう。

 聖女としてティナをこの国の人間の誰もが敬い、尊敬し、その功績を賛美した。まるでティナを生き神のように崇拝する人間もいた。

 もちろんティナは普通の人間で感情だってある。好き嫌いもはっきりしているし、些細なことで腹を立てる普通の少女だ。

 しかし聖女の称号が、その類まれな<神聖力>がティナを普通の少女として認めてくれなかった。

 平等に慈愛の心で、人々のために別け隔てなく接することを、ティナは当然のように強いられた。そこにティナの感情など必要ないとでも言うように。

 だからティナは学院の生活に憧れた。同じ年代の少年少女が集まる学院なら自然な、年相応の自分に戻れるのではないかと期待して。

 結局、聖女という先入観が邪魔をし、誰も本来のティナを見てくれることはなかったのだが──ただ一人を除いて。

 ティナは気が付くとトールのことを考えている自分に戸惑ってしまう。そしてまるで恋する乙女そのまんまではないかと思う。

 正直、ティナはトールの本心を知りたいと思っている。彼の気持ちが友情なのか愛情なのか気になって仕方がない。
 だからイロナが占ってくれると言った時、一番初めに頭に浮かんだのは、”トールの気持ちが知りたい”だった。けれど、人の気持ちを占いで知るのは何かが違う、とティナは自重することにしたのだ。


* * *


 ティナは改めてイロナに何を占って貰おうかと考える。

(占って貰うとすれば、やっぱり月下草のことだよね。なんて聞けば良いのかな? イロナさんになら、正直に話して良いと思うけど)

 幻の月下草の群生場所を聞くべきか、栽培場所に適している場所は何処か聞くべきか悩むところだ。

『新月なら神の眼は閉じているし、妨害されないんじゃないかしら』

 ティナはイロナの言葉を思い出す。
 占星術に長けているからか、イロナは時々不思議なことを言う。それがまたティナにとっては新鮮で面白く、もっと話が聞きたいと思うほどだ。

 ティナはモルガン一家との不思議な縁に感謝しながら、明日からの野営に備えるべく、早く眠ることにしたのだった。
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