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魔物1

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 ティナが張った結界の境界部分から青白い火花が迸り、ティナとトールの間に緊張が走る。

「な、何だ何だ?! 何が燃えてんだよ!!」

 突然の出来事にモルガンが混乱している。
 結界に触れると燃えるとは聞いていたが、まさかあんなに高温の炎だとは思わなかったのだ。人間なら一瞬で灰になってしまうだろう。

「──っ?! あれは?!」

 トールが火花が散った方向を見て驚いている。髪の毛が視界を塞いでいそうなのに、トールはやけに目敏いのだ。

「この気配は一体……魔物じゃない……? え、でも……っ」

 結界に触れたものの情報が共有出来るティナは、伝わってきた情報に困惑してしまう。

 そんな困惑する二人を置いて、トールがいち早くツヴァイハンダーを背にして境界へと向かう。気付いたティナも慌ててトールを追いかけるが、身体能力の差は歴然であっという間に距離が空いてしまった。

 ティナが結界の境界まで来ると、一足先に到着したトールが何かを持ち上げているのが見えた。

「ト、トール速すぎ……! 何を持って……っ! えっ? ええーーっ!?」

 ティナが驚きの声を上げる。何故なら、トールが抱いているのは黒い子犬──のように見える魔物だったからだ。

「うわーっ! 可愛い……っ、じゃなくて、この子、魔物だよね……?」

「……だと思うけど。見たことがない魔物だね」

 物知りのトールも見たことがないという魔物の子供は、黒いフサフサとした毛並みで、頭から二本の角を生やしていた。

「何だコイツ? 変異種か?」

 モルガンも初めて見る魔物だったらしく、珍しそうにマジマジと魔物の子供を見ている。

「結界に触れて燃えていたはずなのに、どうして無事なんだろう?」

 トールが不思議そうに魔物の子供を撫でている。きっと優しい目で魔物の子供を見ているのだろう。
 そんなトールの姿に、ちょっぴり魔物の子供が羨ましいな、とティナは密かに思う。

 それはさておき、確かに悪意がない魔物であれば、結界に触れても問題なく入ってこれる。
 しかし、この魔物の子供が結界に触れた瞬間、確かに炎が上がっていたのだ。
 それはこの魔物の子供が瘴気を纏っていたということに他ならない。

「うーん、多分だけどこの子、瘴気にあてられていたんじゃないかな」

 魔物の子供が何かしらの原因でたまたま瘴気を浴びてしまい、たまたま張ったばかりの結界に触れ、結界がたまたま瘴気を浄化してしまったのではないか、と言うのがティナの仮説だ。

「なんかすげぇ偶然だな」

「もしティナの仮説通りなら、この辺りに瘴気溜まりがないのはおかしいんじゃないかな。俺が薪拾いに行った時はそんな気配しなかったよ」

「……そうだよね。私も怪しい気配は感じないし……。じゃあ、この子はどこで瘴気を浴びたんだろう?」

 結界に触れて気絶している、見たこともない魔物の子供をティナが不思議そうに見ていると、モルガンが言い難そうに言った。

「でもよぉ。その魔物は大丈夫なのか? 小さい子供とはいえ魔物だろ? 目が覚めたら暴れたりするんじゃねぇか?」

 モルガンの意見はもっともであった。まだ小さいアネタが一緒にいる以上、親として心配するのは当然だろう。

「じゃあ、目を覚ます前に森の奥へ戻しますか?」

「その方が良いだろうなぁ……。コイツの親が探してるかもしれねーしなぁ」

 トールとモルガンは、魔物の子供を森の奥へ連れて行くことに決めたようだ。ティナは少し残念に思いながらも、トールに付いて行くことにした。

「何かあったらすぐに逃げてこいよ!!」

「はーい!」

 モルガンに留守を頼み、魔物の子供を抱きしめたティナとトールは森の奥へと入っていく。

 ちなみに魔物の子供をティナが抱っこしているのは、トールに頼み込んで無理矢理許可を得たからだ。
 凶暴な魔物だったら、と心配したトールだったが、ティナが「何かあればすぐ結界に閉じ込める」と言うので、渋々了承したのだ。

 ティナの可愛いお願いに弱い自分を自覚したトールは、もし魔物の子供がティナに危害を加えるようであれば、速やかに自分が討伐しようと考えていた。
 既に魔物の子供に情が湧いているティナは、きっとこの魔物の子供に襲われても討伐を躊躇うだろう。ならば自分が悪者になってでもティナを守ろう、とトールは密かに決意する。
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