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魔物2
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「瘴気が発生したような気配は無いね」
ティナは周囲の様子を伺いながら瘴気の痕跡を探してみるが、今のところそれらしき場所は見当たらない。
瘴気が発生すると、不気味な黒いモヤのようなものが漂い、木々は枯れ、土は腐り、小動物や鳥の死骸が落ちているのですぐわかるのだ。
「一見、普通の森だよね。もっと奥に行けばわかるかもしれないけど」
トールもこれと言っておかしな気配は感じないようだった。
そうしてティナとトールがしばらく歩いていると、魔物の子供がもぞもぞと動き出した。
「あ、目を覚ました! うわ……っ! やっぱり可愛い……っ!!」
目を覚ました魔物の子供の瞳は金色で、キラキラと輝いている。まるで夜空に浮かぶ月のような瞳に、ティナはつい見惚れてしまう。
魔物の子供はつぶらな瞳でじっとティナを見上げると、嬉しそうにしっぽを振っている。
トールは神経を集中して警戒していたが、魔物の子供に敵意は全く無いようだった。トールはもしものためにと密かに発動させていた魔法を解除する。
「わっ! わわっ!! ふふふ、くすぐったい!」
ティナをじっと見ていた魔物の子供は、野生の勘か何かでティナに悪意がないとわかったらしく、ペロペロとティナの頬を舐めている。
「……」
魔物とはいえ、一見子犬に見える動物と戯れるティナはとても可愛い。しかし何となく面白くないトールは、魔物の子供の首根っこを掴んでティナから引っ剥がした。
「くぅーん!」
「え、トール?」
突然のことに驚いたティナがトールを見ると、何となく不機嫌そうな雰囲気を醸し出している。
そんなトールに掴まれた魔物の子供は、訴えるような瞳でティナを見る。どうやらトールの不機嫌オーラに怯えているらしい。
「……ティナ、何の魔物かわからないんだから、顔を舐めさせちゃ駄目だよ。もし唾液が酸性だったらどうする?」
「ひぇっ!! あ、そうだよね、気を付けなきゃダメだよね……ゴメン」
素直に謝るティナにトールの良心がチクっと痛む。
いつだってティナは、トールの言葉を疑いもせずに信じてくれるのだ。
「あ……いや、俺こそゴメン。ティナにそれらしいことを言ったけど、本当はコイツにヤキモチを焼いただけなんだ」
「えっ?! や、ヤキモチ……?」
トールの言葉にティナの顔がかぁっと赤くなる。相変わらずトールは意味深なことを言うので、どういう意味で受け取ればいいか困ってしまうのだ。
「ティナに素直に甘えられる魔物が羨ましかったんだ。あ、ティナの顔を舐めたいって意味じゃないから!!」
「……っ?! そ、そりゃそうだよね! うんうん、わかってるわかってる!」
トールの意味深発言は止まらない。トールの更なる追い打ちに、ティナも自分で何を言っているのかわからなくなってきた。
何とも言えない雰囲気になりかけた時、トールが掴んでいた魔物の子供がジタバタと暴れだした。
「わうわうっ!! わふぅっ!!」
「うわっ!!」
驚いたトールが思わず手を離すと、魔物の子供は再びティナへと飛びついた。
「え? え? どうしたの?!」
「くぅ~ん くぅ~ん」
まるで”抱っこして”とせがむような鳴き声に、ティナはそっと魔物の子供を抱き上げる。
すると、魔物の子供は安心したかのように丸まり、ティナの胸に顔を埋めた。その様子はそこが定位置だと言わんばかりだ。
「っ?! コイツ……っ!!」
「ト、トール落ち着いて! まだ子供だから!! きっと寂しいんだと思う!!」
再び魔物の子供を引き剥がそうとしたトールを、ティナが慌てて静止する。魔物の子供を庇うティナに、トールは「……ゴメン」と言って、伸ばしかけた腕を下ろした。
「有難う、トール。心配してくれて」
「……うん。でも、ソイツをどうする? もし一緒にクロンクヴィストへ連れて行くつもりなら、モルガンさんの所に戻ってもう一度相談する?」
ティナには懐いている様子の魔物の子供だが、他の人間に危害を加えないとは限らない。それにいくら魔物の子供でも忌避する人間はいるのだ。
「うん。モルガンさんにはこの子から全く害意を感じないから大丈夫だって……一緒に連れて行ってあげたいって言ってみようと思う」
「わかった。俺も協力するよ」
魔物の子供を人一倍警戒していたトールだから、きっと同行を反対するとティナは思っていた。それでも協力してくれるのは、ティナを想ってのことだろう。
「本当?! 有難う! やっぱりトールは優しいなぁ」
トールの気持ちが嬉しかったティナは、満面の笑顔でお礼を言う。
「……優しくなんてない」
そう素っ気なく言いながらも、トールの耳が赤くなっていることに気付いたティナは、トールをとても愛おしいと思う。
自分は意味深なことを言うくせに、言われるのは慣れていないトールに、今自分が考えている言葉を口にしたら──彼はどう反応するのだろう。
──本当は魔物の子供が、トールにとても似ていたから抱きしめたかったのだと。
ティナは周囲の様子を伺いながら瘴気の痕跡を探してみるが、今のところそれらしき場所は見当たらない。
瘴気が発生すると、不気味な黒いモヤのようなものが漂い、木々は枯れ、土は腐り、小動物や鳥の死骸が落ちているのですぐわかるのだ。
「一見、普通の森だよね。もっと奥に行けばわかるかもしれないけど」
トールもこれと言っておかしな気配は感じないようだった。
そうしてティナとトールがしばらく歩いていると、魔物の子供がもぞもぞと動き出した。
「あ、目を覚ました! うわ……っ! やっぱり可愛い……っ!!」
目を覚ました魔物の子供の瞳は金色で、キラキラと輝いている。まるで夜空に浮かぶ月のような瞳に、ティナはつい見惚れてしまう。
魔物の子供はつぶらな瞳でじっとティナを見上げると、嬉しそうにしっぽを振っている。
トールは神経を集中して警戒していたが、魔物の子供に敵意は全く無いようだった。トールはもしものためにと密かに発動させていた魔法を解除する。
「わっ! わわっ!! ふふふ、くすぐったい!」
ティナをじっと見ていた魔物の子供は、野生の勘か何かでティナに悪意がないとわかったらしく、ペロペロとティナの頬を舐めている。
「……」
魔物とはいえ、一見子犬に見える動物と戯れるティナはとても可愛い。しかし何となく面白くないトールは、魔物の子供の首根っこを掴んでティナから引っ剥がした。
「くぅーん!」
「え、トール?」
突然のことに驚いたティナがトールを見ると、何となく不機嫌そうな雰囲気を醸し出している。
そんなトールに掴まれた魔物の子供は、訴えるような瞳でティナを見る。どうやらトールの不機嫌オーラに怯えているらしい。
「……ティナ、何の魔物かわからないんだから、顔を舐めさせちゃ駄目だよ。もし唾液が酸性だったらどうする?」
「ひぇっ!! あ、そうだよね、気を付けなきゃダメだよね……ゴメン」
素直に謝るティナにトールの良心がチクっと痛む。
いつだってティナは、トールの言葉を疑いもせずに信じてくれるのだ。
「あ……いや、俺こそゴメン。ティナにそれらしいことを言ったけど、本当はコイツにヤキモチを焼いただけなんだ」
「えっ?! や、ヤキモチ……?」
トールの言葉にティナの顔がかぁっと赤くなる。相変わらずトールは意味深なことを言うので、どういう意味で受け取ればいいか困ってしまうのだ。
「ティナに素直に甘えられる魔物が羨ましかったんだ。あ、ティナの顔を舐めたいって意味じゃないから!!」
「……っ?! そ、そりゃそうだよね! うんうん、わかってるわかってる!」
トールの意味深発言は止まらない。トールの更なる追い打ちに、ティナも自分で何を言っているのかわからなくなってきた。
何とも言えない雰囲気になりかけた時、トールが掴んでいた魔物の子供がジタバタと暴れだした。
「わうわうっ!! わふぅっ!!」
「うわっ!!」
驚いたトールが思わず手を離すと、魔物の子供は再びティナへと飛びついた。
「え? え? どうしたの?!」
「くぅ~ん くぅ~ん」
まるで”抱っこして”とせがむような鳴き声に、ティナはそっと魔物の子供を抱き上げる。
すると、魔物の子供は安心したかのように丸まり、ティナの胸に顔を埋めた。その様子はそこが定位置だと言わんばかりだ。
「っ?! コイツ……っ!!」
「ト、トール落ち着いて! まだ子供だから!! きっと寂しいんだと思う!!」
再び魔物の子供を引き剥がそうとしたトールを、ティナが慌てて静止する。魔物の子供を庇うティナに、トールは「……ゴメン」と言って、伸ばしかけた腕を下ろした。
「有難う、トール。心配してくれて」
「……うん。でも、ソイツをどうする? もし一緒にクロンクヴィストへ連れて行くつもりなら、モルガンさんの所に戻ってもう一度相談する?」
ティナには懐いている様子の魔物の子供だが、他の人間に危害を加えないとは限らない。それにいくら魔物の子供でも忌避する人間はいるのだ。
「うん。モルガンさんにはこの子から全く害意を感じないから大丈夫だって……一緒に連れて行ってあげたいって言ってみようと思う」
「わかった。俺も協力するよ」
魔物の子供を人一倍警戒していたトールだから、きっと同行を反対するとティナは思っていた。それでも協力してくれるのは、ティナを想ってのことだろう。
「本当?! 有難う! やっぱりトールは優しいなぁ」
トールの気持ちが嬉しかったティナは、満面の笑顔でお礼を言う。
「……優しくなんてない」
そう素っ気なく言いながらも、トールの耳が赤くなっていることに気付いたティナは、トールをとても愛おしいと思う。
自分は意味深なことを言うくせに、言われるのは慣れていないトールに、今自分が考えている言葉を口にしたら──彼はどう反応するのだろう。
──本当は魔物の子供が、トールにとても似ていたから抱きしめたかったのだと。
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