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決闘2
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アレクシスが驚く様子を気にすること無く、トールは条件を提示する。
「俺が勝ったら命を助けてやる代わりに、アコンニエミ聖国とセーデルルンド王国が二度とティナに関わらないよう協力すると約束すること。ティナはもう聖女じゃなくて冒険者なんだ。彼女の意志を尊重して欲しい」
「そ、それは……っ!! 私の独断で決めていいことでは無い! まずは大神官様にお伺いしないと……っ」
聖女とは、ラーシャルード神から愛され、神聖力と治癒の力を授けられた選ばれし者のことだ。
その存在はラーシャルード神が齎す奇跡の体現であり、ラーシャルード教の総本山であるアコンニエミ聖国の教皇や大神官たちにとっても、最優先で保護すべき対象なのだ。
聖女は本来、聖国の大神殿で神に祈りを捧げながら余生を過ごすのだが、当然全ての聖女が聖国で産まれるわけではない。
聖国以外で生まれた聖女は、その国が手放さない限り、出身国の神殿預かりとなる。
しかし貴重な聖女の中でも、突出して能力が高いクリスティナを巡り、アコンニエミ聖国とセーデルルンド王国は常に張り合っていた。
その均衡が、今回の婚約破棄と称号剥奪の件で崩れたのだ。これを機に、聖国はクリスティナを招聘しようと動くだろう。
そう言う意味では、先日聖国へ赴いたのは僥倖だったのかもしれない、とアレクシスは考えていたのだが──。
「でもアレクシス卿は、教皇と直接会話が出来るような重職に就いているんだろ? そこら辺の神官たちよりよっぽど偉いじゃないか」
「……っ!?」
トールの指摘にアレクシスがギョッとする。
「えっ?! それ本当?! でも、アレクシスは聖女付きとは言え、ただの聖騎士のはずで……」
ティナは不思議に思いながらも、そう言えば……と、先程のアレクシスの発言を思い出す。
『……クリスティナ様を大聖女に、と教皇に進言するためで──!!』
「あれ……? 本当だ。え? アレクシスってそんな権限を持っていたの?」
聖騎士の中にも階級はあるが、それでも教皇と直接言葉を交わせるのは、精々聖国を守護する騎士団の隊長格クラスまでだろう。
聖国の神官ですら、姿を見るのがやっとだと言うのに、他国の神殿の聖騎士がそうやすやすと会える存在ではないのだ。
「………………」
ティナの質問に、アレクシスは答えない。それは肯定と同じ意味だった。
トールと出会う前のティナにとって、アレクシスは兄のような存在で、友人だと思っていた。彼のことなら何でも知っていると思っていたのは、ティナの勘違いだったらしい。
「これ以上の追求は決闘の後にするとして、俺の条件飲んで貰えるよね?」
トールの言葉にティナははっと我に返る。トールの言う通り、アレクシスの地位のことより、今は決闘の方が重要なのだ。
アレクシスはトールをひと睨みすると、「わかった。受けて立とう」と言って純白の剣を鞘から引き抜いた。
対するトールも漆黒のツヴァイハンダーを構え、アレクシスと対峙する。
睨み合う二人の間に、ピリピリとした空気が流れる。まるで二人の周辺だけ空間が歪んでいるようだ。
「行くぞっ!!」
先手を打ったのはアレクシスで、爆発的な瞬発力でトールに接近し、純白の剣を振り上げた。
一瞬で懐に飛び込んで来たアレクシスの剣を、トールがツヴァイハンダーで受け止めると、”ガキィイイインッ!!”という硬質な音が森の中に響く。
「俺が勝ったら命を助けてやる代わりに、アコンニエミ聖国とセーデルルンド王国が二度とティナに関わらないよう協力すると約束すること。ティナはもう聖女じゃなくて冒険者なんだ。彼女の意志を尊重して欲しい」
「そ、それは……っ!! 私の独断で決めていいことでは無い! まずは大神官様にお伺いしないと……っ」
聖女とは、ラーシャルード神から愛され、神聖力と治癒の力を授けられた選ばれし者のことだ。
その存在はラーシャルード神が齎す奇跡の体現であり、ラーシャルード教の総本山であるアコンニエミ聖国の教皇や大神官たちにとっても、最優先で保護すべき対象なのだ。
聖女は本来、聖国の大神殿で神に祈りを捧げながら余生を過ごすのだが、当然全ての聖女が聖国で産まれるわけではない。
聖国以外で生まれた聖女は、その国が手放さない限り、出身国の神殿預かりとなる。
しかし貴重な聖女の中でも、突出して能力が高いクリスティナを巡り、アコンニエミ聖国とセーデルルンド王国は常に張り合っていた。
その均衡が、今回の婚約破棄と称号剥奪の件で崩れたのだ。これを機に、聖国はクリスティナを招聘しようと動くだろう。
そう言う意味では、先日聖国へ赴いたのは僥倖だったのかもしれない、とアレクシスは考えていたのだが──。
「でもアレクシス卿は、教皇と直接会話が出来るような重職に就いているんだろ? そこら辺の神官たちよりよっぽど偉いじゃないか」
「……っ!?」
トールの指摘にアレクシスがギョッとする。
「えっ?! それ本当?! でも、アレクシスは聖女付きとは言え、ただの聖騎士のはずで……」
ティナは不思議に思いながらも、そう言えば……と、先程のアレクシスの発言を思い出す。
『……クリスティナ様を大聖女に、と教皇に進言するためで──!!』
「あれ……? 本当だ。え? アレクシスってそんな権限を持っていたの?」
聖騎士の中にも階級はあるが、それでも教皇と直接言葉を交わせるのは、精々聖国を守護する騎士団の隊長格クラスまでだろう。
聖国の神官ですら、姿を見るのがやっとだと言うのに、他国の神殿の聖騎士がそうやすやすと会える存在ではないのだ。
「………………」
ティナの質問に、アレクシスは答えない。それは肯定と同じ意味だった。
トールと出会う前のティナにとって、アレクシスは兄のような存在で、友人だと思っていた。彼のことなら何でも知っていると思っていたのは、ティナの勘違いだったらしい。
「これ以上の追求は決闘の後にするとして、俺の条件飲んで貰えるよね?」
トールの言葉にティナははっと我に返る。トールの言う通り、アレクシスの地位のことより、今は決闘の方が重要なのだ。
アレクシスはトールをひと睨みすると、「わかった。受けて立とう」と言って純白の剣を鞘から引き抜いた。
対するトールも漆黒のツヴァイハンダーを構え、アレクシスと対峙する。
睨み合う二人の間に、ピリピリとした空気が流れる。まるで二人の周辺だけ空間が歪んでいるようだ。
「行くぞっ!!」
先手を打ったのはアレクシスで、爆発的な瞬発力でトールに接近し、純白の剣を振り上げた。
一瞬で懐に飛び込んで来たアレクシスの剣を、トールがツヴァイハンダーで受け止めると、”ガキィイイインッ!!”という硬質な音が森の中に響く。
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