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休息3
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ベルトルドが用意してくれた装備はどれも一級品で、マットも例に漏れずとても寝心地が良いものだった。
被った毛布も柔らかく、隣りにいるトールの体温も相まって、ガチガチに緊張していた身体から、徐々に力が抜けていく。
(うわぁ……すごく気持ち良い……)
トールを意識してしまい、きっと今日は眠れないだろう、と思っていたティナは早々に意識を手放した。
自分で張った結界の効力が相乗効果となり、ティナを深い眠りへと導いたのだ。
すうっと眠りについたティナを少し残念に思いながら、トールはその寝顔を微笑ましく見つめている。
ティナと気兼ねなく話がしたくて、一緒のテントで寝ようと誘ってみたが、無防備であどけない寝顔を見れたのなら、それはそれで役得だ。
正直、ティナが一緒に寝ることを了承してくれるとは思わなかった。
それだけ自分を信用してくれていることなのだろう、と思うものの、男として意識されていないのではないか、と心配になる。
ティナには級友か冒険者仲間以上に慕われているはずだと思うものの、恋愛感情を持たれているかどうかは、恋愛経験が乏しいトールにはわからない。
そもそもアレクシスの言う通り、素顔も正体も明かさない怪しい自分を、ティナが好きになってくれるとは思えなかった。
──もう間もなく、一行はクロンクヴィストに到着する。
これから先も、ティナと一緒にまだ見ぬ世界を冒険したい、彼女と驚きや感動を共有したい、とトールは心から願う。
しかし、ティナが自分の正体を知れば、その願いは叶わないのだと、トールは嫌でも理解している。
だから彼女が自分から離れていくその瞬間を迎えることが、トールは何よりも怖かった。
でも、それでも今だけは──。
この愛おしい存在と共にいられる幸せに浸らせて欲しい、と神に祈ることしか、今のトールには出来なかった。
* * * * * *
聖女時代の名残で早朝に目を覚ましたティナは、何かに包まれているような心地良い感覚に、もう一度眠りに落ちそうになる。
(う~ん……気持ちいい……ずっとこのままでいたい……)
いつもはすぐ身体を起こすティナであるが、今日は何故かここから出たくないと思ってしまう。
(抱きしめられるのがこんなに心地良いなんて知らなかったなぁ…………ん?)
微睡みながら、自分が抱いた感想に違和感を覚えたティナが、はっ!と意識を覚醒させた。
(…………あれ? あれあれ? 今は一体どういう状況…………?)
ティナの思考が急速に加速する。
自分の身体の感覚を研ぎ澄ませてみると、どうやら自分はトールと同じ毛布の中で、抱きしめられながら眠っていたようだ。
(ぎゃーーーーーーーっ!!! どどど、どうなってるのっ?!)
ティナは心の中で絶叫する。
眼の前は真っ白で、それはショックを受けたわけではなく、トールが着ているシャツが視界いっぱいに広がっていたからだ。
しかもティナの額にトールの胸板が当たっているし、彼の長い腕がティナの背中と腰に回されていて、すっぽりと抱き込まれている。
よくよく感じてみれば、無意識だろうがティナもトールの背中に手を回していて、抱きついている状況だ。
(ど、どうしよう……! トールが目を覚ます前に抜け出した方がいいの……? で、でも……っ!!)
こっそりと起きようにも、ガッチリと抱き込まれているので脱出は難しそうだ。
(でも……。もう少しこうしていたい気もするし……って、あれ?)
ティナがそうっとトールを見上げると、いつも掛けている眼鏡がないことに気が付いた。
鉄壁の防御を誇るトールでも、寝る時は眼鏡を外すらしい。
トールの素顔が気になったティナが、長い前髪を掻き上げたいと思った時、「わふっ! わふわふっ!」とアウルムが二人の間に飛び込んできた。
「うわっ!!」
「わわっ?!」
突然飛び込んできたアウルムに驚いたトールが目を覚ます。その拍子に自分を抱きしめていた腕が離れ、ティナは少し残念に思う。
「わふぅ~!」
アウルムがティナの膝の上でゴロンと転がり、撫でるように催促する。
「ふふ、アウルムおはよう。あ、トールもおはようっ」
遂に素顔が拝めると期待したティナが、トールの方を振り向いたけれど……既にトールは眼鏡を装着した後だった。
被った毛布も柔らかく、隣りにいるトールの体温も相まって、ガチガチに緊張していた身体から、徐々に力が抜けていく。
(うわぁ……すごく気持ち良い……)
トールを意識してしまい、きっと今日は眠れないだろう、と思っていたティナは早々に意識を手放した。
自分で張った結界の効力が相乗効果となり、ティナを深い眠りへと導いたのだ。
すうっと眠りについたティナを少し残念に思いながら、トールはその寝顔を微笑ましく見つめている。
ティナと気兼ねなく話がしたくて、一緒のテントで寝ようと誘ってみたが、無防備であどけない寝顔を見れたのなら、それはそれで役得だ。
正直、ティナが一緒に寝ることを了承してくれるとは思わなかった。
それだけ自分を信用してくれていることなのだろう、と思うものの、男として意識されていないのではないか、と心配になる。
ティナには級友か冒険者仲間以上に慕われているはずだと思うものの、恋愛感情を持たれているかどうかは、恋愛経験が乏しいトールにはわからない。
そもそもアレクシスの言う通り、素顔も正体も明かさない怪しい自分を、ティナが好きになってくれるとは思えなかった。
──もう間もなく、一行はクロンクヴィストに到着する。
これから先も、ティナと一緒にまだ見ぬ世界を冒険したい、彼女と驚きや感動を共有したい、とトールは心から願う。
しかし、ティナが自分の正体を知れば、その願いは叶わないのだと、トールは嫌でも理解している。
だから彼女が自分から離れていくその瞬間を迎えることが、トールは何よりも怖かった。
でも、それでも今だけは──。
この愛おしい存在と共にいられる幸せに浸らせて欲しい、と神に祈ることしか、今のトールには出来なかった。
* * * * * *
聖女時代の名残で早朝に目を覚ましたティナは、何かに包まれているような心地良い感覚に、もう一度眠りに落ちそうになる。
(う~ん……気持ちいい……ずっとこのままでいたい……)
いつもはすぐ身体を起こすティナであるが、今日は何故かここから出たくないと思ってしまう。
(抱きしめられるのがこんなに心地良いなんて知らなかったなぁ…………ん?)
微睡みながら、自分が抱いた感想に違和感を覚えたティナが、はっ!と意識を覚醒させた。
(…………あれ? あれあれ? 今は一体どういう状況…………?)
ティナの思考が急速に加速する。
自分の身体の感覚を研ぎ澄ませてみると、どうやら自分はトールと同じ毛布の中で、抱きしめられながら眠っていたようだ。
(ぎゃーーーーーーーっ!!! どどど、どうなってるのっ?!)
ティナは心の中で絶叫する。
眼の前は真っ白で、それはショックを受けたわけではなく、トールが着ているシャツが視界いっぱいに広がっていたからだ。
しかもティナの額にトールの胸板が当たっているし、彼の長い腕がティナの背中と腰に回されていて、すっぽりと抱き込まれている。
よくよく感じてみれば、無意識だろうがティナもトールの背中に手を回していて、抱きついている状況だ。
(ど、どうしよう……! トールが目を覚ます前に抜け出した方がいいの……? で、でも……っ!!)
こっそりと起きようにも、ガッチリと抱き込まれているので脱出は難しそうだ。
(でも……。もう少しこうしていたい気もするし……って、あれ?)
ティナがそうっとトールを見上げると、いつも掛けている眼鏡がないことに気が付いた。
鉄壁の防御を誇るトールでも、寝る時は眼鏡を外すらしい。
トールの素顔が気になったティナが、長い前髪を掻き上げたいと思った時、「わふっ! わふわふっ!」とアウルムが二人の間に飛び込んできた。
「うわっ!!」
「わわっ?!」
突然飛び込んできたアウルムに驚いたトールが目を覚ます。その拍子に自分を抱きしめていた腕が離れ、ティナは少し残念に思う。
「わふぅ~!」
アウルムがティナの膝の上でゴロンと転がり、撫でるように催促する。
「ふふ、アウルムおはよう。あ、トールもおはようっ」
遂に素顔が拝めると期待したティナが、トールの方を振り向いたけれど……既にトールは眼鏡を装着した後だった。
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