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手掛かり3
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「さっきの質問の答えだけど、精霊を見たけりゃ自然に触れてみることだね。精霊は自然が作るものの一つ一つに宿っているんだ。自然に触れてその存在を感じ取れれば、見ることが出来るんじゃないかねぇ」
「自然と……? うーん、わかりました! やってみます!」
店主の言葉は抽象的でよくわからないものだったが、きっとこのアドバイスは重要な意味を持っているのだろう、とティナは思う。
「まあ、素質も影響するからね。見えなくてもがっかりすることはないよ」
「はい! 教えていただき有難うございます!」
ティナは店主に心から感謝した。はたから見れば気難しそうな人だが、こうして会話してみればとても優しい人だということがわかる。
「じゃあ、そろそろ帰んな。旅の準備で忙しいんだろう? 早くしないと日が暮れちまうよ」
店主はそう言うと、椅子から立ち上がろうとするが、ずっと座りっぱなしで体が固まってしまったのか、「いたたた……」と唸っている。
「大丈夫ですか?! どこか悪いところでも?」
ティナは慌てて店主に駆け寄ると、転ばないように身体を支えた。
「ああ、随分前に腰を痛めてねぇ。こうして動くのも一苦労だよ。すまないが、奥の部屋まで連れて行ってくれないかい?」
「はい、もちろんです」
ティナは店主を支えながら指示された部屋の扉を開き、ベッドに横たえられるように補助する。
「手伝わせてすまないね。助かったよ。わたしは大丈夫だからもうお帰り」
店主はティナに帰るよう促すが、ティナは首を振って否定する。
「いいえ。せっかくですし、店主さんの腰を診せてくれませんか?」
「何だい。お嬢ちゃんは医術の心得でもあるのかい?」
「……まあ、そんなもんです」
正直ティナに医術の心得はなかったが、今まで怪我人や病人を治癒して来たのだ。あながち嘘ではないだろう。
「じゃあ、頼もうかねぇ。そういえばまだ名前を聞いていなかったね。お嬢ちゃんの名前を教えておくれ」
「えっと、ティナと言います。あの、店主さんのお名前も教えて貰えませんか?」
「そうかい。ティナか。良い名前だね。わたしの名前はアデラだよ」
「アデラさん……。素敵な名前ですね!」
ティナはアデラに名前を教えて貰えたことに喜んだ。アデラみたいなタイプは今日初めて会った人間に名前を教えないかも、と思っていたのだ。
「ふん……! そんな良い名前でもないさ」
きっと照れ隠しだろう、アデラはぷいっとそっぽを向いてしまう。
ティナは構わずアデラの腰を摩り、そっと神聖力を流し込んでいく。
するとティナの神聖力が心地良かったのか、アデラがウトウトしだした。
そうしてティナが神聖力を流し終える頃、すっかりアデラは熟睡していた。ティナは起こさないように、そっとアデラにブランケットを掛ける。
アデラが起きた時にはきっと、身体は元通り元気になっているだろう。腰以外の悪いところも治癒したから、すごく驚くかもしれない。
「じゃあ、帰りますね。おやすみなさい、アデラさん」
ティナは部屋の扉をそっと閉めると、アウルムと一緒に店を出た。
「アウルム、買い物の続きをしようか」
『うんー! 僕お肉食べたいよー!』
アウルムはティナたちが話している間にまたお腹が空いたらしい。
「そういえば私もお腹が空いてるみたい。ついお話に夢中になっちゃった」
アデラの店の居心地が良かったからか、気が付けばとっくに昼を過ぎていた。アウルムに言われ、ティナは自分のお腹も空いているのだとようやく自覚する。
「じゃあ、アウルムのオススメのお店を教えてくれる?」
「わかったー!」
ティナはアデラに貰ったブレスレットを着けると、大通りへと繰り出した。
(またアデラさんのお店に行きたいな……)
そして月下草探しの旅の途中、またクロンクヴィストに来ることがあれば、その時はアデラに会いに行こうと思う。
──この時のティナは知らなかった。アデラの店には簡単に辿り着けないよう隠蔽の術式が施されていたことを。
そしてティナが治癒したことで、余命幾許も無いアデラを無意識に救っていたことを。
「自然と……? うーん、わかりました! やってみます!」
店主の言葉は抽象的でよくわからないものだったが、きっとこのアドバイスは重要な意味を持っているのだろう、とティナは思う。
「まあ、素質も影響するからね。見えなくてもがっかりすることはないよ」
「はい! 教えていただき有難うございます!」
ティナは店主に心から感謝した。はたから見れば気難しそうな人だが、こうして会話してみればとても優しい人だということがわかる。
「じゃあ、そろそろ帰んな。旅の準備で忙しいんだろう? 早くしないと日が暮れちまうよ」
店主はそう言うと、椅子から立ち上がろうとするが、ずっと座りっぱなしで体が固まってしまったのか、「いたたた……」と唸っている。
「大丈夫ですか?! どこか悪いところでも?」
ティナは慌てて店主に駆け寄ると、転ばないように身体を支えた。
「ああ、随分前に腰を痛めてねぇ。こうして動くのも一苦労だよ。すまないが、奥の部屋まで連れて行ってくれないかい?」
「はい、もちろんです」
ティナは店主を支えながら指示された部屋の扉を開き、ベッドに横たえられるように補助する。
「手伝わせてすまないね。助かったよ。わたしは大丈夫だからもうお帰り」
店主はティナに帰るよう促すが、ティナは首を振って否定する。
「いいえ。せっかくですし、店主さんの腰を診せてくれませんか?」
「何だい。お嬢ちゃんは医術の心得でもあるのかい?」
「……まあ、そんなもんです」
正直ティナに医術の心得はなかったが、今まで怪我人や病人を治癒して来たのだ。あながち嘘ではないだろう。
「じゃあ、頼もうかねぇ。そういえばまだ名前を聞いていなかったね。お嬢ちゃんの名前を教えておくれ」
「えっと、ティナと言います。あの、店主さんのお名前も教えて貰えませんか?」
「そうかい。ティナか。良い名前だね。わたしの名前はアデラだよ」
「アデラさん……。素敵な名前ですね!」
ティナはアデラに名前を教えて貰えたことに喜んだ。アデラみたいなタイプは今日初めて会った人間に名前を教えないかも、と思っていたのだ。
「ふん……! そんな良い名前でもないさ」
きっと照れ隠しだろう、アデラはぷいっとそっぽを向いてしまう。
ティナは構わずアデラの腰を摩り、そっと神聖力を流し込んでいく。
するとティナの神聖力が心地良かったのか、アデラがウトウトしだした。
そうしてティナが神聖力を流し終える頃、すっかりアデラは熟睡していた。ティナは起こさないように、そっとアデラにブランケットを掛ける。
アデラが起きた時にはきっと、身体は元通り元気になっているだろう。腰以外の悪いところも治癒したから、すごく驚くかもしれない。
「じゃあ、帰りますね。おやすみなさい、アデラさん」
ティナは部屋の扉をそっと閉めると、アウルムと一緒に店を出た。
「アウルム、買い物の続きをしようか」
『うんー! 僕お肉食べたいよー!』
アウルムはティナたちが話している間にまたお腹が空いたらしい。
「そういえば私もお腹が空いてるみたい。ついお話に夢中になっちゃった」
アデラの店の居心地が良かったからか、気が付けばとっくに昼を過ぎていた。アウルムに言われ、ティナは自分のお腹も空いているのだとようやく自覚する。
「じゃあ、アウルムのオススメのお店を教えてくれる?」
「わかったー!」
ティナはアデラに貰ったブレスレットを着けると、大通りへと繰り出した。
(またアデラさんのお店に行きたいな……)
そして月下草探しの旅の途中、またクロンクヴィストに来ることがあれば、その時はアデラに会いに行こうと思う。
──この時のティナは知らなかった。アデラの店には簡単に辿り着けないよう隠蔽の術式が施されていたことを。
そしてティナが治癒したことで、余命幾許も無いアデラを無意識に救っていたことを。
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