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大魔導士1

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 ティナを追って森の中を進んでいると、ルシオラが何者かの魔力を感じ取った。

 トールはその魔力の持ち主が誰なのか確認するため、ルシオラに魔力の持ち主がいる場所へ案内を頼む。

 そうして魔力を辿った先でトールたちは、ポツンと建っている小さな小屋を発見する。

「人が住むにしては随分小さいな」

《小人族でもいるのかしら?》

 警戒したトールたちが近づいてみると、その小屋は思ったよりも小さかった。もしかすると住居ではなく休憩所のようなものかもしれない。

「とりあえず、誰かいないか確認しよう」

 そう言ったトールがドアをノックしようとした時、中から出て来た人物と鉢合わせしてしまう。

「わ、すみません!」

「ほうほう。こりゃまた珍しい客人だわい。今度は精霊を連れとる坊ちゃんか」

「え……っ」

 トールは小屋から出て来た老人を見て目を見開いた。

 一目でルシオラに気付いたこともそうだが、老人が持っている魔力が尋常ではなかったからだ。
 それに老人の顔をどこかで見たような記憶があるのも気になった。

「あの、俺とどこかでお会いしませんでしたか?」

「んん~~? はて、人違いじゃないかのう。ワシはこの森からもう何年も出ておらんぞい」

「あれ……? おかしいな……」

 自分の記憶力の良さに自信があったトールは疑問に思う。確かに、老人の顔に見覚えがあったのだが……。

「まあまあ、中に入って休憩でもしていかんか。見たところかなり疲れておるようじゃしな」

「……はい、ではお言葉に甘えてお邪魔させていただきます」

 老人の申し出を受け、トールは小屋の中で少しだけ休ませてもらうことにした。
 本当はすぐにでもティナの後を追いたいところではあるが、この老人が何故か気になったのだ。

 トールは馬を近くの木に繋ぐと、装備やツヴァイハンダーを外し、まとめて木の影に置いた。

「ふぉっふぉっふぉ。美味い茶を淹れてやろうな」

 老人は老人で、トールを全く警戒していない。初対面とは思えないフランクさだ。
 そんな老人の後について小屋に入ったトールは、小屋の中を見て驚愕する。

「な……っ! これはまさか空間魔法?!」

 小屋の外から見た面積と中の面積が全く噛み合っていなかった。小屋の大きさの何倍もの空間が目の前に広がっているのだ。

「ふぉっふぉっふぉ。坊ちゃんはすぐ気がついたのう」

「こんな大規模な空間魔法を見るのは初めてです! 貴方は一体……?!」

 トールは至難の業だと言われている、空間魔法を行使した本人であるこの老人が何者なのか知りたかった。

「ワシか? ワシはノアじゃ。とうの昔に隠居したただの老人じゃよ」

「いや、ただのご老人がこんな難易度の高い魔法を構築するのは……って、あれ?」

 老人の名前を聞いたトールは、ふと記憶に残っていたとある場面を思い出す。それは、トールとティナが通っていた学院で受けた魔法学の授業で──

「──っ! まさか……貴方は大魔導士デュノアイエ様ですか?!」

 トールの頭の中で、ノアの顔と教科書に載っていた偉人の肖像画が一致した。

 時系列がおかしいが、それでもトールは目の前の老人ノアが、大魔導士デュノアイエと同一人物だと確信する。
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