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第三章 解き放ち神具

episode 40 聖なる王が存在した地

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 後から来た女性を一瞥した男は剣を腰元に戻すと、そっぽを向いて座り直した。

「どうかしたの?
 何かあったの?
 何かあったんだから剣を抜いてたんでしょ?
 まさか剣舞でもやってたってことはないんだから何かあったに違いないわね。
 ってことで、どちら様?」

 質問責めしているなと思っていたのも束の間、急にこちらへ顔を向けた。

「え?
 そう、あたし達ーー」

「と尋ねるなら私から名乗るべきよね。
 私はタグリード、この地ではさえずりって意味なの。
 まさに名は体を表すといったところよね。
 自分でもそう思うわ。
 今となっては合ってるとしか言い様がないわね。
 それで、あなた方はどういったご用件で?」

 礼儀正しいと言うべきか何と言うべきか。
 可愛らしいとまではいかないものの、真面目そうな容姿からあたしより少しお姉さんの雰囲気が出ている。

「あ、あたしはアテナ。
 この地にさっき来たのだけど、ちょっと知りたいことがあって話しかけたのよ。
 なんでも剣にけてるようだっから声をかけてみたのよ」

「そうね、そうね。
 見た目からして砂漠には居そうにないものね。
 どちらから来たの?
 何が知りたいの?
 その様子だと何も聞いてなさそうよね?
 なんでカマルは教えてないのよ。
 教えてあげなさいよ、困ってる人は助けてあげなきゃなのよ」

 カマルと呼ばれた男はタグリードに言われても顔を向けようとはしなかった。

「ごめんね。
 本当は強くて優しくて誰にでも好かれるような人だったんだけど」

「だった?」

「ううん、気にしないで。
 私で良いなら教えられることは話してあげるから、何でも聞いてちょうだい。
 あ、椅子ね。
 ちょっと待っててね、今探してくるから」

 タグリードはそそくさとこの場を去り、辺りを見回している。

「い、いい人みたいね」

「だな。
 どうする?
 このまま話してみるかい?」

「あたしは良いと思うわよ。
 聞いてくれるって言うんだし」

「オレは良くないんだがな。
 早く去ってくれないか」

 カマルが憮然と言い放つが、そこはあたしだって簡単に頷けない。

「あんたの連れがいいって言ってるんだから、あんたは聞かなきゃいいでしょ?
 聞いたとしても応えなきゃさ。
 それとも何?
 二人の邪魔はされたくないってこと?
 それならそれではっきり言ってくれたら邪魔はしないけど?」

「はんっ!
 勝手に一緒にいる女だ。
 好きにすればいいさ。
 邪魔だと感じたら切るだけだからな」

「そっ。
 だったら好きにさせてもらうわ。
 それに今度は簡単にいくなんて思わないことよ」

 さっきは不意を突かれた。
 だが、今度は警戒心も持っているし、レディの稽古でそれなりに自信もついてきている。

「よいしょ、よいしょ。
 ささ、座って座って」

 ミーニャの手伝いの元、三脚の椅子が運ばれるとあたし達は二人の対面に座って話し始めた。

「あたし達はある謎かけリドルを追ってここまで来たの。
 でもこの地には疎いし、そもそもこの大陸で合っているのかも分からないで来たの。
 その謎かけっていうのがーー」

 あたしの後を継いだレディが説明するとタグリードは身を乗りだしながら何度も頷いていた。

「なるほどね、なるほど。
 それが何でカマルに聞く必要があったの?
 それだったら他の人でも良かったと思ったのが私の率直な感想。
 そりゃあ港街の酒場だからここの人ばかりだとは言えないけど、見た目で大概は判別出来るはずなのにわざわざカマルに声をかける必要はなかったと思うの」

「それは、あたし達が探しているのが剣だからよ。
 それにはある程度、剣をたしなんでいないと噂も聞いたことがないと思ってのこと。
 それでたまたま店主からカマルが報酬を手に入れて大盤振る舞いしたって聞いたから話しかけてみたの」

「納得いったわ。
 生活が潤うほどの報酬があったのに、ほぼ店主に預けてしまったからね。
 あの報酬だって命懸けだったのにそれが一瞬で無くなるんだもの。
 あれはホントに大変だったわ。
 よく一人で大砂蚯蚓サンドワームを倒せたものよ。
 私も手伝ったけど、狂暴化した大砂蚯蚓なんて一人二人じゃ普通は無理な話よ。
 ……で、何の話だっけ?
 ああ!
 そうね、謎かけね。
 私には分からないわ。
 カマルはどう?
 どう思う?」

「……ちっ。
 この地で合ってるだろうな」

「だそうよ。
 良かったわね。
 そうじゃなきゃ違うところに行かなきゃならないものね」

 あたしがこれほど聞き役に回ったことがあっただろうか、何も喋らずとも話が進んでいく。

「えぇと、何を根拠にこの大陸だと分かったの?
 それが分かればもしかしたら剣の在処ありかまで辿り着けると思うんだけど」

「だって、カマル。
 なんで分かるの?
 私も気になるわ、砂漠なんて他にもあるだろうし」

「……んだよ。
 聖なる王ってのがこの地には存在したんだよ」

 カマルは未だ顔を合わせようともせず、嫌々ながらタグリードの問いに応えていた。
 だが、これで進展があった。
 あたし達がこの地に来たこと、話しかけた人物に間違いがなかったのだ。
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