落ちこぼれ子女の奮闘記

木島廉

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シトのダンジョンの現状2

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シトのダンジョンの第4階層。

サソリを倒し、砂漠の中を歩いていくと、この階層の最奥部の高い壁が見えて来た。

その岩壁には更に下層に行く階段があり、その手前に石碑が建てられている。
この石碑にタッチして帰途に向かうのが通常の行程だ。

間違っても下層に向かってはいけない。

心を病むような酷い状態で追い返されるだけで、何の収穫も無いからだ。

だがその石碑の前に大きな黒い塊りが鎮座している。

「多分・・・蜘蛛ね。近付けば動き出すわよ。」

リリスの言葉を聞きながらイライザが近付いて行くと、約20mほどの手前でその黒い塊りが動き始めた。
細い足で起き上がったその姿はやはり蜘蛛だ。
体長は胴部だけで5mほどもあるだろうか。
蜘蛛はブルっと身体を震わせて、触手をくるくると振り回すと、次の瞬間に口から緑色の毒液をこちらに向かって吹き出した。
イライザの手前5mほどの地面にそれは落ち、ジュッと音を立てて気化した。
緑色の毒の霧がその周囲に広がっていく。
毒耐性があるのでそれほどに身体に影響はないが、直撃を受けると厄介だ。

蜘蛛はその場を移動せず、時折こちらに向かって毒液を吐く。
石碑に近付けないためだけに特化して存在しているのだろう。

「動かない魔物なら丁寧に焼き上げてあげなさいよ。」

リリスの言葉にイライザはニヤッと笑いながら、ファイヤーボールを発動させた。
青白く輝く火球を放つと、それは蜘蛛に着弾して大きな爆炎を上げ、見事に蜘蛛を燃やし尽くしてしまった。
火球の威力はそれほどでもないが、燃焼時間がやたらに長い。

「イライザ。長く燃えるように工夫したのね。」

「うん。リリスが丁寧に焼き上げてあげろって言うから、少し工夫してみたのよ。」

イライザの言葉にリリスはふうんと声を上げて感心した。
ファイヤーボールに色々と調整を加える事に慣れて来た様だ。
元々持っている潜在能力が高いのだろう。
イライザの火魔法の急激な変化に、ゴーグも目を細めて喜んでいた。

だが、そのゴーグは岩壁の階段から下層に向かおうとしていた。
それを見たジークは顔色を変え、即座にゴーグを引き留めた。

「下に降りてはいかん! とんでもない目に遭うぞ!」

「うん? どうしてだ?」

階段を一歩降りてゴーグは振り返りながら尋ねた。
ジークは下層に降りると精神攻撃を掛けられて追い返される事を説明した。
だがゴーグはその説明を聞き入れなかった。

「命に別条が無いのなら、問題はないさ。」

そう言って階段を降りようとしたゴーグの傍を擦り抜けるように、ルイが階段を降りて行った。
そのルイを追う様にイライザも階段に向かおうとしている。

「イライザ。止めた方が良いわよ。私も夢想に取り込まれちゃったんだから。」

「あら、そうなの? でも命に別状は無いなら大丈夫よ。それに私は精神攻撃に耐性を持っているわよ。」

そんなのは私だって持っているわよ。
それでも騙されちゃったんだからね。

そう思ったリリスだが、イライザはお構いなくルイの後を追った。
当然、イライザの肩に憑依しているリリスも下層に行く事になる。

止めてよぉ~!

嫌がるリリスの意志に反して、目の前に紫の霧が立ち込めて来た。

またこのまま夢想の世界に取り込まれるのかと思った次の瞬間、リリスの視界が急に変わり、薄暗い石壁の広間の天井の近くから下を見下ろす視線に変わってしまった。

ええっ?
これって何?

その薄暗い広間でゴーグとルイとイライザが、まるで夢遊病者のようにフラフラと歩きまわっていた。
しかもイライザの肩にはリリスの使い魔のピクシーが固定されている。
それを見下ろしているリリスは既視感を覚えていた。

これって・・・ダンジョンの俯瞰スキルだ。
いつの間に発動したの?

リリスがそう思ってゴーグ達を見ていると、リリスの視界の外側から黒い物体が近付いてくるのを感じた。
ふとその方向に目を向けると、黒い人影が近付いてくるのが見えた。
空中に浮遊しているが、大きさは大人のサイズなのでギースでは無さそうだ。
だとすると・・・。

「もしかしてシトなの?」

「ご名答!」

無機質ながら言葉が軽い。
間違いなくシトのダンジョンコアの疑似人格だ。

「お目に掛るのは二回目だね。ようこそリリス。」

「それにしても不思議な娘だね。こんなスキルを持っているなんて。ダンジョンマスターでも始めたのかい?」

不思議そうな口調のシトにリリスはギースのダンジョンの復興に関わった事を説明した。

「そうだったのか! それで君からギースのダンジョンの気配がしていたんだね。」

「それにしても感慨深いな。ギースのダンジョンが復興するんだね。 僕としても実に喜ばしい事だよ。」

シトにとってもギースのダンジョンの復興は嬉しいようだ。
だがシトの言葉にふとリリスは疑問を持った。

「・・・ダンジョンの気配なんてあるの?」

リリスの言葉に黒い人影はニヤッと笑った。とは言っても真っ黒な人影なので表情も無いのだが、ニヤッと笑ったような口の形が白く浮かび上がったので、おそらく笑ったのだろう。

「気配と言っても人族には分からないだろうね。言葉を変えれば、魔力の繋がりと言った方が分かり易いかも。」

「ああ、そう言う事なのね。ギースとの魔力の繋がりなら確かにあるわよ。私の左の手首に連結点があって、私の魔力を毎日少しだけ吸引しているからね。」

リリスの言葉にシトはほうっ!と驚きの声を上げた。

「まるで自分の子供を育てているみたいじゃないか。でもそうなると元のギースのダンジョンコアとは別な存在になっているんだろうな。」

シトは一呼吸置いてフフッと鼻で笑った。

「君のしている事はある意味、ダンジョンマスターの役割だと言っても良いと思うよ。」

ダンジョンマスターなんてなる気は無いんだけどね。

リリスはそう思いながらシトに問い掛けた。

「ダンジョンマスターと言えば、タミアはどうしたの?」

「ああ、タミアならどこかに出掛けたままだよ。しばらく会っていないね。」

ダンジョンマスターが不在でも良いの?

そう思ったリリスだが、ここでタミアを呼び寄せて貰っては厄介だ。
リリスは話題を変えてシトに尋ねた。

「ねえ、イライザ達はどうするの? まだ広間の中をウロチョロしているけど・・・。」

「ああ、大丈夫だよ。この連中なら一定時間が経過すれば、自動的に第4階層に転移されるからね。ここはそう言う仕様だよ。」

そうだったわね。

無言で頷くリリスにシトは指を立てて眼下のイライザ達を指した。

「ほら、もう直ぐ上の階に戻されるよ。」

「リリス。ギースのダンジョンの復興の様子をまた聞かせてくれよ。楽しみにしているからね。」

シトはそう言うとふっと消えてしまった。
それと共にリリスの視界が霧のように薄れていく。

フッと意識が飛び、気が付くとリリスの目の前には第4階層の砂漠が広がっていた。
岩壁の前にゴーグとルイが呆然と立っている。
その目は虚ろで表情も暗い。

イライザの顔を覗き込むと、彼女の目も虚ろで、その頬には涙の跡が幾筋も残っていた。

「大丈夫なの? イライザ・・・」

「・・・うん。大丈夫よ・・・多分。」

その言葉に力が無い。
余程の悪夢に取り込まれていたのだろうか?

「ゴーグ。大丈夫か?」

第4階層で待機していたジークがゴーグに声を掛けた。
だがゴーグは直ぐには返答出来なかった。
しばらくしてゴーグはふうっと深いため息をつき、

「お前の言う通り、止めておけば良かったよ。忘れかけていたトラウマを鮮明に蘇らせやがった。」

そう言ってまたため息をついた。

余程心の中の辛い部分を突かれたのだろう。

「私も・・・同じようなものよ。」

ゴーグの言葉を聞き、イライザが小声で呟いた。

シトったら、人の心の闇を抉るのね。
最近の第5階層はそう言う仕様になったのかしら?
私も変なものを見せられなくて良かったわ。

リリスは自分の心の闇、特に以前の世界でのトラウマを刺激されなくて良かったと思い、胸を撫で下ろした。

「とりあえず今日はこれで終わりにしよう。」

ゴーグのたどたどしい言葉を合図に、ジークが懐から転移の魔石を取り出し、リリス達は魔法学院の地下訓練場に転移した。

そのまま流れ解散となり、リリスはイライザと別れて学生寮に戻っていった。









その日の夜。

ベッドで眠りに入ったリリスは突然、解析スキルに起こされた。

『お知らせです。』

私を起こした事への謝罪は無いのね。

解析スキルはリリスの思いをスルーして、リリスの脳内に語り掛けた。

『ダンジョンコアとの連結点が改変されました。』

えっ?
それって何の事?

『ご自分の左の手首を確かめてください。』

リリスはベッドから左手を突き出して、その手首を見つめた。
小さなほくろのような黒い点の傍に、もう一つ黒い点が出現している。
そこからうっすらと細い皺が出て、元の黒い点に繋がっているようにも見えるのだが・・・。

「これって何なの?」

『それは恐らく別のダンジョンコアとの連結点ですね。ただしこちらから何かを働きかける為のものではなく、向こうから様子を見るためのようなものだと類推されます。』

様子を見るって・・・何の?

『連結点同士の微かなつながりから見て、ギースのダンジョンの様子・・・でしょうね。』

ギースのダンジョンの様子!
と言う事は、この新しい黒い点はシトが付けたのかしら?

「そうだと思います。念のため、元の黒い点に魔力を流して念を送り、確認してみれば良いと思います。」

それってギースに聞いてみろと言う事ね。
分かったわ。

リリスはおもむろに左の手首の黒い点に魔力を流し、問い掛けの念を送ってみた。

ギース。
少し聞いて良いかしら?

リリスの問い掛けに即座に脳裏に言葉が浮かび上がった。

『リリスお姉様。どうしました?』

あっ!
忙しい処をお邪魔してごめんね。

忙しいかどうかは分からないのだが、これはあくまでも挨拶の定型文のようなものだ。

『ギースとの連結点の傍に、もう一つ小さな黒い点が出現したんだけど、これって何?』

ああ、それはシトのダンジョンのコアとの連結点ですね。
お姉様には何の影響もないので心配いりません。

やはりシトのダンジョンコアとの連結点なのね。
でも何の目的でこんなものを付けられたの?

『それは僕の成長を気遣って、時折アドバイスをくれる為だそうです。』

ふうん。
シトったらそう言うつもりなのね。
それなら構わないわ。

でも・・・それなら私にも一言説明してくれれば良かったのにね。

『リリスお姉様と別れる間際に思いついたそうです。それで説明する時間が無かったのではないかと思うのですが。』

そうなのかしらねえ。
まあ良いわ。
ギースの為になるのなら良いわよ。

『そう言っていただけると感謝です。』

うんうん。
礼儀正しい子ね。
もしもシトから何かアドバイスがあったら、私にも教えて頂戴ね。

『はい。了解です。』

うんうん。
それじゃあね。

『はい。おやすみなさい。』

リリスはギースとの連絡を断ち、再び眠りに就いた。





一夜明け、ルイとイライザは魔法学院の授業に聴講生として参加し、放課後には生徒会の役員達と歓談の場を持った。
明日には帰国すると言うので、学生寮で一泊する事になったのだが、イライザがリリスの部屋を見せて欲しいと言い出した。

拙いわね。
散らかっているんじゃないかな?

リリスは若干の不安を覚えながらもイライザを自室の前まで案内した。
散らかっているようなら、イライザに少し外で待ってもらって、片付けようと思っていたのだ。

だがそのリリスの思いの斜め上を行くように思わぬ事態が待っていた。

自室のドア越しに複数の亜神の気配がある。
使い魔なのだろうが、明らかに見知っている気配だ。
しかも既にリリスはドアノブを握ってしまっている。

ううっ!
どうしよう?

リリスは一瞬迷ったが、反射的にドアを開けてしまった。

「「「お帰り!」」」

ウっと呻いてリリスは言葉を失ってしまった。

ソファの上に赤とブルーの衣装を着たピクシーとノームが座っている。

よりによって3体も揃っちゃって・・・・・。

リリスは動揺を隠して、さも平然と使い魔達に言い放った。

「ただいま!」

「今日は他国からの大事なお客様を連れて来たのよ。悪いけど少しの間だけ席を外してね。」

そう言ってリリスはドア越しに中を見ているイライザに目を向けた。
イライザは不思議そうな表情を見せている。

「初めまして。イライザです。イシュタルト公国から来ました。」

たどたどしく挨拶するイライザを見て、ブルーの衣装のピクシーがふと呟いた。

「う~ん。今日はお邪魔だったのかな? みんな、どうする?」

「そうね。少し外に居た方が良いかもね。チャーリーはどうする?」

赤い衣装のピクシーの言葉にノームが言葉を続けた。

「そうやね。ちょっとだけ外に居た方が良さそうやね。」

そう言いながらノームがソファから立ち上がり、ピクシー達もパタパタと羽ばたきながら外に出ようとした。

ああ、良かったわ。

リリスも意外な展開にホッと胸を撫で下ろした。

「この使い魔の持ち主は友達なの?」

イライザが小声でリリスに尋ねた。

「そう。そんなものよ。赤い衣装のピクシーがタミア、ブルーの衣装のピクシーがユリア、ノームがチャーリー。それぞれに火の亜神の使い、水の亜神の使い、土の亜神の使いって名乗っているわ。」

リリスの軽い口調の言葉を聞きイライザは、

「そう言う設定なのね。」

そう言って使い魔達に笑顔を振り向けた。

だが、部屋を出て行こうとしたノームがふと立ち止まって首を傾げた。

「おかしいなあ。リリス。君の左手の手首から複数のダンジョンコアの気配がするんやけど・・・」

拙い!
こいつってやたらと敏感だったわよね。

リリスは焦って手を身体の後ろに向けた。
だが、その位置は偶然にもピクシー達が通り過ぎようとしていた位置だった。

ブルーの衣装のピクシーの目の前に、リリスの左手首が向けられたのだ。
当然その手首が視界に入る。

「あっ! 本当だ! リリス、これってしかもギースのダンジョンの気配がするわよ。」

「あんた、何をしたのよ?」

「もしかして私から、リースの地下神殿のダンジョンを奪うつもりじゃないでしょうね!」

矢継ぎ早にまくしたてるユリアにリリスはキレてしまった。

「違うわよ! あんたがギースのダンジョンからもぎ取ったダンジョンコアの僅かなかけらを、私が育てているのよ!」

ああ!
聞かれてしまった・・・・・。

後悔と共にリリスはイライザの方に目を向けた。
だがイライザは何の事だか分からないと言う雰囲気だった。

「ふうん。そうなの。」

そう言いながらブルーの衣装のピクシーは、リリスの左手首を穴が開くほどに見つめた。
嫌な視線だ。
少し間を置いて何かが閃いたようにブルーの衣装のピクシーが口を開いた。

「リリスの持つダンジョンの気配に、うちのダンジョンコアがどんな反応を示すか、見てみたいわね。」

「あんた達、今からリースの地下神殿のダンジョンに来て頂戴。悪いようにはしないからさ。」

そう言うとブルーの衣装のピクシーはパチンと指を鳴らした。

「ユリア!ちょっと待って!」

リリスの叫びも虚しく、リリスとイライザはその場から、リースの地下神殿のダンジョンに転移されてしまったのだった。





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