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中編
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図書館で私は惚れ薬についてひたすら調べた。
「あれ、惚れ薬の効き目は持って三日間って……」
ロイ君が惚れ薬を飲んでから一週間は経っている。どういうことなんだろう、効き目が強すぎた?
あの時はよくできたと思ったけど、もしかしたら失敗していたのかもしれない。ありそうなことだ。とりあえず解毒薬について書いていないか一通り惚れ薬についての記述がある本は調べたが、どこにも載っていない。
もしかしたら、解毒薬なんてものはないんだろうか。確かに、魔法薬には必ず解毒薬が存在するというわけではない。でもじゃあ、私はどうしたらいいんだろう……。
悩みまくった私は、人に相談をしてみることにした。よく考えたら、魔法薬学の前知識がほとんどない私だけの力でなんとかしようと思う方が間違っていたのだ。
幸い、私には魔法薬学に精通した友人がいた。今私の前の席に座っているベルは、ロイ君と同じくらいの秀才だ。
「ねえねえベル。聞いて欲しいことがあるんだ、これは知り合いの話なんだけどね」
「知り合いの話だって前置きする時は、だいたい本人の話らしいけど」
いつもの冷めたような目でこちらをじとりと見てくるベル。
私は両手をぶんぶん振って慌てて否定した。
「ちっ違うよ、知り合いだよ! あのね、知り合いが惚れ薬を調合して好きな人に飲ませたらしいの。それで恋人になれたらしいんだけど、効果が期限である三日を過ぎても切れる気配がないんだって。それで、どうしようかって困ってるの」
「恋人になれたのに、なんで困るの」
「それはほら。……相手の気持ちを魔法で操った罪悪感が遅ればせながら湧いてきたらしく」
それを聞いて、ベルは「なるほどね」と頷いた。
「でも、惚れ薬の効果が三日以上持続した例なんて聞いたことないな。そんなことがあるなら大発見じゃない? それなら、惚れ薬を飲む前からその知り合いに惚れてて薬が効かなかったって考える方がまだ妥当だと思うね」
驚いて、思わず「ええっ、まさか」と声を上げる。
ロイ君が私のことを好きだったってこと?
私はなんだか胸がどきどきした。もしそんなことがあったなら、どんなに素敵だろうか。
でもそんなことがありえるかな? この平凡でなんの取り柄もない私を、あの完璧にかっこいいロイ君が好いている?
「うわあ、そうなのかな。だったら嬉しいけど、じゃなかった、嬉しいだろうけど! いやでも本当にそうなのかはわからないよね、うわあ……」
しばし頬に手を当てて悶える。ベルの冷たい視線を感じ、自分が一人で浮かれまくっていたことに気づいた。
冷静になろうと思い、こほん、と咳払いをする。
「あの、もし惚れ薬の効果だった場合、解毒薬ってあるの? 本で調べてたんだけど、見つからなくて」
「解毒薬は確か、なかったんじゃないかな。本に載ってないなら尚更、その可能性が高いよね。ただ、恋愛感情を抑える魔法薬はあるから、解毒薬の代わりにすることはできるかも」
「そんな魔法薬があるんだ! ありがとう、調べてみるね」
「言っておくけど、その知り合いの状況が魔法薬のせいかそうじゃないか、魔法薬が失敗していたのかそうじゃないかはわかってないんだから、あまり先走らないほうがいいよ」
そう最後に告げて、彼女は机に向き直って本を読みだした。
やっぱりベルはすごいな、と改めて感心した。
とりあえずその日の放課後から、その恋愛感情を抑制する薬について図書館で調べ始めた。
人の感情を操作するタイプの魔法薬について書いてある本をいくつか見てみると、ベルの言っていた魔法薬やその調合法はすぐに見つかった。だが問題は、その「恋愛感情抑制薬」の調合が惚れ薬とは比較にならないくらい難しかったことだ。
「ええ、こんな材料手に入らないよ。しかも材料があったとしても調合は最短で1ヶ月か……」
あまりの困難さに、小さくぼやいてしまった。私、一体どうしたらいいんだろうか。
「ソフィー、また何か悩み事?」
お昼ご飯を一緒に食べていたロイ君が、心配そうに声をかけてくれた。
「あっ、ううん! ごめんね、心配かけちゃって」
ご飯を食べる手が止まっていたことに気づき、急いで食べ進める。
いけないいけない、せっかくロイ君と一緒にご飯を食べられるという夢のような時間なのに、悩んでばかりで楽しめていないどころか、彼に心配をかけてしまうなんて。あれ、でもこれが惚れ薬の効果なら楽しんじゃダメなのかな。なんだかよくわからなくなってきちゃった。
ご飯を食べ終わった後もまだぐるぐると考え続けてしまう私。
突然「あーん」と声をかけられ、反射的に開けてしまった口に何か甘いものが入ってきた。
とりあえずもぐもぐと咀嚼する。
「……チョコレート?」
「ソフィー、チョコレート好きでしょ? クラスで友達とよく食べてるよね。何に悩んでるのかはわからないけど、無理しないでね」
にこりと微笑むロイ君。
好き!
「ありがとう!」
私が悩んでるから心配して気遣ってくれたんだ。好き!
嬉しくてへらりと笑うと、彼は「もっと食べる?」と聞きながらまた箱からチョコレートを摘んで口の前に差し出してきた。
「自分で食べられるよ」
「俺がソフィーに食べさせたいの。ダメ?」
少ししゅんとしたように言われると断れなくて、結局彼に食べさせてもらうことになった。恥ずかしかったけど、ものすごく幸せだった。
優しいロイ君。彼が私を好きだと言ってくれるその気持ちが本物であればいい。だけど、もしそうじゃなかったとしたら、私はあなたに嫌われてしまったとしても絶対にあなたの本当の気持ちを取り戻してみせる。
惚れ薬の効果が三日以上持続することか本当にありえないことなのか、ちゃんと調べよう。そして彼の気持ちが本物ではなかったと判明した時に備えて、恋愛感情抑制薬の調合も同時並行で進めていくんだ。
「あれ、惚れ薬の効き目は持って三日間って……」
ロイ君が惚れ薬を飲んでから一週間は経っている。どういうことなんだろう、効き目が強すぎた?
あの時はよくできたと思ったけど、もしかしたら失敗していたのかもしれない。ありそうなことだ。とりあえず解毒薬について書いていないか一通り惚れ薬についての記述がある本は調べたが、どこにも載っていない。
もしかしたら、解毒薬なんてものはないんだろうか。確かに、魔法薬には必ず解毒薬が存在するというわけではない。でもじゃあ、私はどうしたらいいんだろう……。
悩みまくった私は、人に相談をしてみることにした。よく考えたら、魔法薬学の前知識がほとんどない私だけの力でなんとかしようと思う方が間違っていたのだ。
幸い、私には魔法薬学に精通した友人がいた。今私の前の席に座っているベルは、ロイ君と同じくらいの秀才だ。
「ねえねえベル。聞いて欲しいことがあるんだ、これは知り合いの話なんだけどね」
「知り合いの話だって前置きする時は、だいたい本人の話らしいけど」
いつもの冷めたような目でこちらをじとりと見てくるベル。
私は両手をぶんぶん振って慌てて否定した。
「ちっ違うよ、知り合いだよ! あのね、知り合いが惚れ薬を調合して好きな人に飲ませたらしいの。それで恋人になれたらしいんだけど、効果が期限である三日を過ぎても切れる気配がないんだって。それで、どうしようかって困ってるの」
「恋人になれたのに、なんで困るの」
「それはほら。……相手の気持ちを魔法で操った罪悪感が遅ればせながら湧いてきたらしく」
それを聞いて、ベルは「なるほどね」と頷いた。
「でも、惚れ薬の効果が三日以上持続した例なんて聞いたことないな。そんなことがあるなら大発見じゃない? それなら、惚れ薬を飲む前からその知り合いに惚れてて薬が効かなかったって考える方がまだ妥当だと思うね」
驚いて、思わず「ええっ、まさか」と声を上げる。
ロイ君が私のことを好きだったってこと?
私はなんだか胸がどきどきした。もしそんなことがあったなら、どんなに素敵だろうか。
でもそんなことがありえるかな? この平凡でなんの取り柄もない私を、あの完璧にかっこいいロイ君が好いている?
「うわあ、そうなのかな。だったら嬉しいけど、じゃなかった、嬉しいだろうけど! いやでも本当にそうなのかはわからないよね、うわあ……」
しばし頬に手を当てて悶える。ベルの冷たい視線を感じ、自分が一人で浮かれまくっていたことに気づいた。
冷静になろうと思い、こほん、と咳払いをする。
「あの、もし惚れ薬の効果だった場合、解毒薬ってあるの? 本で調べてたんだけど、見つからなくて」
「解毒薬は確か、なかったんじゃないかな。本に載ってないなら尚更、その可能性が高いよね。ただ、恋愛感情を抑える魔法薬はあるから、解毒薬の代わりにすることはできるかも」
「そんな魔法薬があるんだ! ありがとう、調べてみるね」
「言っておくけど、その知り合いの状況が魔法薬のせいかそうじゃないか、魔法薬が失敗していたのかそうじゃないかはわかってないんだから、あまり先走らないほうがいいよ」
そう最後に告げて、彼女は机に向き直って本を読みだした。
やっぱりベルはすごいな、と改めて感心した。
とりあえずその日の放課後から、その恋愛感情を抑制する薬について図書館で調べ始めた。
人の感情を操作するタイプの魔法薬について書いてある本をいくつか見てみると、ベルの言っていた魔法薬やその調合法はすぐに見つかった。だが問題は、その「恋愛感情抑制薬」の調合が惚れ薬とは比較にならないくらい難しかったことだ。
「ええ、こんな材料手に入らないよ。しかも材料があったとしても調合は最短で1ヶ月か……」
あまりの困難さに、小さくぼやいてしまった。私、一体どうしたらいいんだろうか。
「ソフィー、また何か悩み事?」
お昼ご飯を一緒に食べていたロイ君が、心配そうに声をかけてくれた。
「あっ、ううん! ごめんね、心配かけちゃって」
ご飯を食べる手が止まっていたことに気づき、急いで食べ進める。
いけないいけない、せっかくロイ君と一緒にご飯を食べられるという夢のような時間なのに、悩んでばかりで楽しめていないどころか、彼に心配をかけてしまうなんて。あれ、でもこれが惚れ薬の効果なら楽しんじゃダメなのかな。なんだかよくわからなくなってきちゃった。
ご飯を食べ終わった後もまだぐるぐると考え続けてしまう私。
突然「あーん」と声をかけられ、反射的に開けてしまった口に何か甘いものが入ってきた。
とりあえずもぐもぐと咀嚼する。
「……チョコレート?」
「ソフィー、チョコレート好きでしょ? クラスで友達とよく食べてるよね。何に悩んでるのかはわからないけど、無理しないでね」
にこりと微笑むロイ君。
好き!
「ありがとう!」
私が悩んでるから心配して気遣ってくれたんだ。好き!
嬉しくてへらりと笑うと、彼は「もっと食べる?」と聞きながらまた箱からチョコレートを摘んで口の前に差し出してきた。
「自分で食べられるよ」
「俺がソフィーに食べさせたいの。ダメ?」
少ししゅんとしたように言われると断れなくて、結局彼に食べさせてもらうことになった。恥ずかしかったけど、ものすごく幸せだった。
優しいロイ君。彼が私を好きだと言ってくれるその気持ちが本物であればいい。だけど、もしそうじゃなかったとしたら、私はあなたに嫌われてしまったとしても絶対にあなたの本当の気持ちを取り戻してみせる。
惚れ薬の効果が三日以上持続することか本当にありえないことなのか、ちゃんと調べよう。そして彼の気持ちが本物ではなかったと判明した時に備えて、恋愛感情抑制薬の調合も同時並行で進めていくんだ。
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