無能は不要だと追放された最弱魔術師、実は時空魔術の才能を持つ最強魔術師だった 〜奈落にて覚醒した時空魔術師、王女の護衛となり学園で無双する〜

浮島悠里

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【第一章】

25 決着

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 ナイア・リュングベリは俺が『牢獄世界コキュートス』に落ちてしばらく経ってから知り合った少女だ。
 
 どうやら何らかの罪で落ちてきたらしいが――本人は冤罪だと断言していたが、俺としてはあまり信じてはいない――、具体的な罪の内容までは聞いていないため不明である。

 ナイアが何か呪文のようなものを唱えると、ニーナ・シンフォニアの身体が光に包まれる。
 しばらくして現れたのは、俺の良く知るナイア・リュングベリという少女の姿だった。

 ニーナ・シンフォニアの容姿は紫紺の長髪に赤い瞳というものだったが、ナイアの容姿はそれとは大きく異なっている。
 本来の彼女の容姿は水色の長髪に青い瞳だ。

 それに、髪や瞳の色だけではない。
 そもそもの容貌や体型などもまるで違っている。恐らくは何らかの魔術か魔道具アーティファクトによってその姿を変えていたのだろうが……。

「本物のニーナ・シンフォニアはどうした?」

 少なくとも、俺が学園に来たときには既に入れ替わりは終わっていたはずだ。

 ニーナは初対面の時点から俺に殺気をぶつけてきていたし、メリルの方はどことなくニーナに怯えていた――メリルの怯えに気付いたのは、街で遭遇して喫茶店に赴いたときだったが。

 両者の反応が演技である可能性も考慮していた。
 しかしニーナが敵で、メリルが脅されていたという現実の構図と一致している以上、あれは演技ではなかったのだろう。

「ふふ、ニーナ・シンフォニアは元々『深層アンテノラ』が地上で動かせるように用意してあった人員よ。まあ、私と代わるときに邪魔だから『深層アンテノラ』の側で処理されたみたいだけど」
「そうか……」

 それを聞いて、メリルがショックを受けたような表情を浮かべた。
 無理もない。ニーナ――正確にはニーナに成り代わったナイアだが――が言っていたように、彼女とニーナは学園に入って以来の友人であったのだ。

 あれがナイアの嘘ではなく、純然たる事実であることは、彼女たち二人を疑っていたために二人の過去の情報を調べた際に判明している。

「だが、どうしてお前がここにいる? お前は――『深層アンテノラ』には所属していなかったはずだ」
「そうだね、私は『牢獄世界コキュートス』の中で威張り散らしてる『深層アンテノラ』が大嫌いだし、それは今でも変わらないけど……」

 そこで一旦言葉を区切ると、ナイアは頬を染め、どろりとした眼差しでこちらを睨む。

「キミだよ――キミに逢うために、『深層アンテノラ』に入ったんだよ。『牢獄世界コキュートス』の外へと出ようと思ったら、『深層アンテノラ』に入るのが一番だからね」
「そんなにお前に恨まれるようなことしたか、俺……?」

 記憶にない。
 ない、が――まあ、どうでもいいか。

 こうして敵対した以上、ナイア・リュングベリという存在は俺にとって敵でしかない。
 躊躇う必要などなく、叩きのめせばいいだけの話だ。

 俺の呟きを聞き咎め、ナイアが爆発した。

「恨んでる? 当たり前でしょ――私を捨てて『牢獄世界コキュートス』から出て行った癖にッ!」
「……はぁ?」
「どうして私に何も言わずに、勝手にいなくなったのよ!」
「別に、それをお前に言う必要があるか?」

 ナイアとは『牢獄世界コキュートス』にいた頃から知人であるが、逆に言えばただの知人でしかない。
 彼女が『牢獄世界コキュートス』に来たばかりの頃に多少世話をしてやったから懐かれてはいたが、それだけだ。
 
 それに、伝えたら伝えたで、自分も着いて行くなどと言われそうで面倒だと思い、何も言わずに『牢獄世界コキュートス』を抜け出したのだ。
 実際にこの反応からしても、そのことを伝えていたら俺の予想通りの反応をしていただろうと思った。

「……なんなの、あなたたち? 痴話喧嘩なら私のいないところでやってくれないかしら?」
「そんな良いものじゃねぇよ」

 リリーが呆れたように首を振った。

「――ねえ、どうして王女様と楽しそうに話してるの? 私が折角こうして逢いに来たのに」

 ぞっとするような声色で、ナイアは囁いた。

「別にお前は俺がいなくても『牢獄世界コキュートス』でやって行けるだろ?」
「そういうことじゃないッ!」

 ナイアが絶叫した。
 同時に彼女の背後が歪み、そこから黒一色の、巨大な腕のようなものが現れる。その先端には鋭い鉤爪が煌く。

 ナイアの得意とする、洗脳した他者を経由した幻想の具現化。
 それによって生成された巨大な腕型の使い魔――巨人の腕タイラントだ。

「――もういい。王女様は殺して、アークを『牢獄世界コキュートス』に連れ帰って、二度と逃げられないように閉じ込めてやるッ!」
「お断りだ。後、その名前で呼ぶんじゃねぇよ。俺の今の名前はノアだ」
「煩いッ!」

 爆発した。
 巨人の腕タイラントが膨張し、高速で振り下ろされる。
 『阻空ブロック』を展開して防御するも、圧倒的な威力の攻撃によって即座に食い破られ、時間稼ぎにしかならない。

 だが――その僅かな時間があれば十分だ。
 俺はリリーとメリルの首根っこを抱え、横に跳躍して攻撃を回避。

 漆黒の腕が地面に叩きつけられる。
 床が抉れ、大穴が開く。衝撃の余波で前方の壁と床が爆音と共に吹き飛んだ。

「――開け、邪悪の門」

 更に詠唱。
 ナイアの周囲に、教室を埋め尽くすような数のおぞましい怪物が次々と現れる。

 牙を持つ十三本足の蛸や、巨大な一つ目を持つ蝙蝠。
 そして、海産物をぐちゃぐちゃに混ぜ込んだような正体不明の怪物など――巨大な怪物共が、総数十匹。

「『圧空サプレッション』」
 
 俺は術式を綿密に制御し、先程の巨人の腕タイラントの一撃の余波で散らばった生徒を巻き込まないように、怪物の一体に向かって『圧空サプレッション』を放つ。

 大気が歪むほどの重圧。
 一瞬だけ拮抗したものの、怪物の一匹はすぐに耐え切れずに潰れた。
 それを連続して三度ほど。十体のうち、三体が潰れて動かなくなる。

 しかしナイアは笑みを絶やさず、すぐさま追加の怪物を顕現させた。

「ちっ……キリがないな」

 詠唱を含んだ完璧な『圧空サプレッション』ならばこの教室一帯に、怪物共を潰せるほどの圧力を加えることは可能である。

 だがそんなことをした暁には――俺以外のほとんどが耐え切れずに死んでしまう。
 リリーの魔力量から推察できる魔術耐性ならばぎりぎり耐えられるだろうが、それ以下の生徒たちでは無理だ。目の前の怪物と同じ末路を辿ることになる。

「ふふ、どうするのかな、アーク? 諦めて大人しく私に捕まろう? 私と『牢獄世界コキュートス』に戻って爛れた生活を送りましょう?」
「断る」
「ふうん――そう」

 ナイアが苛立たしげにこちらを睨みつける。
 召喚者である彼女の感情の高ぶりに応じてか、異形の怪物共がおぞましい雄叫びの合唱を響かせた。

「ひっ……」

 メリルが怯えたように頭を抱え、やがて気絶した。
 無理もない。碌に魔獣セリオンと戦ったことのないような貴族の令嬢がこの光景を見て怯えない方が難しい。
 俺ですら、恐怖こそ感じないものの、見ているだけで気分が悪くなるような光景だ。

 だが、リリーは身体を恐怖で震わせながらも、メリルを守るように怪物共の前に立った。
 王女の癖に精神力が強すぎる……。

「さあ――蹂躙なさい、『贋作悪魔ストレンジ・カース』」

 教室で眠っている生徒たちが呻き声を上げた。
 見るだけで精神を削る姿形をした怪物の群れ――それをナイアの精神操作によって強制的に想像させられているため、彼らの精神にはかなりの負荷が掛かっているのだろう。

 短時間なら問題ないが、この状態が長時間続いた場合には精神に後遺症が残る可能性すらある。
 実際、『牢獄世界コキュートス』時代に彼女の魔術によって廃人になった奴らを何度も見てきた。

 見知らぬ大半の生徒についてはどうでもいいが……。
 しかし、学園にはアイリスや妹もいる。早急に片を付ける必要があった。

「ちっ――『銀の鍵』ヴォイド・ゲート

 時計の針が停止する。

 全てが止まった世界の中。
 俺はナイアと、彼女に召喚された魔獣セリオンのいる空間に、周囲の生徒を巻き込まないように繊細な制御でもって、『圧空サプレッション』を重ね掛けし――。

 二十二秒後。

 時計の針が動き出す。

「ぐっ……」

 気色悪い魔獣セリオンが一瞬で全て圧殺され、青白く発光する液体を教室内に撒き散らす。腐った海のような、吐き気を催す臭いが漂う。
 ……毒とかないよな。普通に倒れてる生徒に掛かってるんだが。

 これと同時に、ナイアにも同じ数の『圧空サプレッション』を仕掛けている。
 しかし、彼女の場合は重圧によって教室の床に押し付けられてはいるものの、魔獣セリオン共のように潰れてまではいない。

 ――大量の人間を同時に洗脳して操るという怪物じみた真似を可能とする彼女の魔力量は、非常に膨大だ。
 そのため、それに比例して魔術に対する耐性も高い。

「ぐっ、どうして……ッ」
「これがお前と俺の力の差だ」

 否――時間停止の魔術『銀の鍵』ヴォイド・ゲートを使わなければ、全員を守りきったまま勝利するのは困難だっただろう。

 だが、相手に弱みを見せる必要はない。
 ナイアに『銀の鍵』ヴォイド・ゲートを見せたことは今までなかったため、俺の戦闘能力を誤って評価していたようだ。
 
 ともあれ、ナイアは『圧空サプレッション』で押し潰されていて動けない。
 倒れ伏すナイアを睥睨し、俺は宣言した。

「俺の――勝ちだ」
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