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本編 平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。
31.怪しい男の車に乗せられました
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「会社まで送ってやる」
「え、でも……黛君も仕事でしょ?」
「車で来た。大学に行くついでだ」
「……」
全く逆方向だった。
黛のマンションから七海のマンションまで車で約三十分。そして黛が研修医として勤める大学病院は黛のマンションから七海のマンションと反対方向に走ってこちらも約三十分の距離にあった。交通事情によってはもっと掛かる。
「全然ついでじゃないじゃない」
「大学に行く途中にお前の会社があるだろ。昨日当直した病院がここから近いんだ。いいから早く乗れ、ここで無駄口きいた分到着が遅れるぞ。ったく、もう少し降りて来るのが遅かったら電話しようと思っていた所だ」
随分勝手な言い分だ。もうちょっと言い方があるではないか、と七海は思った。
しかしそんなぶっきらぼうな言葉が、何だか照れ隠しに聞こえるのは何故だろうか。
だから七海は戸惑いつつも、促されるまま黛の車の助手席に大人しく乗り込む事にした。そこでまたしても彼に驚かされてしまう。
黛が助手席のドアを開けたからだ。
「乗れ」
乱暴な言葉と裏腹な紳士的な態度に、思わず頬が熱くなった。
(そうだ、こういう奴だった!)
黛の不意打ちイケメン行動に、七海はこれまで何度も振り回されて来た事だろうか。七海はギュッと目を瞑りながら、恥ずかしさを振り払わなければならなかった。
一方黛の方に照れる様子は微塵も無い。
黛には普通の流れのようだ。促されるまま車のシートに腰掛けながら、七海はふと思った。
(今までの彼女達にも、こんなふうにエスコートしていたのかな?)
「おい、シートベルト」
ムスっとしたまま七海を睨みつけ、ボーっとしている彼女に不意に黛が体を寄せた。近づく距離にドキリとして、思わず七海はシートの背にギュっと体を寄せて縮こまる。黛はそんな七海に気を払う様子も無く、シートベルトを引っ張ってカチリと彼女の体を固定した。
自らにもシートベルトを装着し、黛は無言で車を発進させる。
そしてハンドルを握ったままボソリと呟いた。
「何?俺くさい?一応当直先でシャワー借りたんだけど」
珍しく七海の態度を気にした様子で黛が聞いた。
七海はブンブンと首を振ってから―――運転手がこちらを見れない事に気が付き声に出して否定した。
「ううん、全然」
むしろ石鹸の良い香りがしてドキドキしてしまったくらいだ。
恥ずかしくなって、七海は話題を変えた。
「あの……随分可愛い車だね。これ黛君の?」
黄色い外国製の可愛らしい車だった。女性が好んで使いそうな。
「母親の。暫く家にいないから使えって言われてるんだ。定期的にエンジン掛けないとバッテリー上がって動かなくなるからな」
そう言えば、黛の母親に会った事が無い。外科医で超多忙だと言う父親とも勿論顔を合わせた事は無いが、黛は母親の話も滅多にする事は無かった。
子供の頃から家族同然に育っている本田家の人達は、当然黛の母親を知っている筈だが―――今までそう言った話題が口に上る事は無かった。
「お母さん、旅行にでも行ってるの?」
「仕事でな。ところでお前―――なんかあったんだろ?大丈夫なのか」
「あっ」
ハンドルを握り前を向いたまま黛がそう切り出したので、七海はやっと会社の事を思い出した。
朝いきなり会う筈の無い人間に出くわし、そのいつもと違う格好に驚き、久し振りに彼の不用意な行動にドギマギさせられ―――その事はすっかり頭の中から抜け落ちていたのだ。
「え、でも……黛君も仕事でしょ?」
「車で来た。大学に行くついでだ」
「……」
全く逆方向だった。
黛のマンションから七海のマンションまで車で約三十分。そして黛が研修医として勤める大学病院は黛のマンションから七海のマンションと反対方向に走ってこちらも約三十分の距離にあった。交通事情によってはもっと掛かる。
「全然ついでじゃないじゃない」
「大学に行く途中にお前の会社があるだろ。昨日当直した病院がここから近いんだ。いいから早く乗れ、ここで無駄口きいた分到着が遅れるぞ。ったく、もう少し降りて来るのが遅かったら電話しようと思っていた所だ」
随分勝手な言い分だ。もうちょっと言い方があるではないか、と七海は思った。
しかしそんなぶっきらぼうな言葉が、何だか照れ隠しに聞こえるのは何故だろうか。
だから七海は戸惑いつつも、促されるまま黛の車の助手席に大人しく乗り込む事にした。そこでまたしても彼に驚かされてしまう。
黛が助手席のドアを開けたからだ。
「乗れ」
乱暴な言葉と裏腹な紳士的な態度に、思わず頬が熱くなった。
(そうだ、こういう奴だった!)
黛の不意打ちイケメン行動に、七海はこれまで何度も振り回されて来た事だろうか。七海はギュッと目を瞑りながら、恥ずかしさを振り払わなければならなかった。
一方黛の方に照れる様子は微塵も無い。
黛には普通の流れのようだ。促されるまま車のシートに腰掛けながら、七海はふと思った。
(今までの彼女達にも、こんなふうにエスコートしていたのかな?)
「おい、シートベルト」
ムスっとしたまま七海を睨みつけ、ボーっとしている彼女に不意に黛が体を寄せた。近づく距離にドキリとして、思わず七海はシートの背にギュっと体を寄せて縮こまる。黛はそんな七海に気を払う様子も無く、シートベルトを引っ張ってカチリと彼女の体を固定した。
自らにもシートベルトを装着し、黛は無言で車を発進させる。
そしてハンドルを握ったままボソリと呟いた。
「何?俺くさい?一応当直先でシャワー借りたんだけど」
珍しく七海の態度を気にした様子で黛が聞いた。
七海はブンブンと首を振ってから―――運転手がこちらを見れない事に気が付き声に出して否定した。
「ううん、全然」
むしろ石鹸の良い香りがしてドキドキしてしまったくらいだ。
恥ずかしくなって、七海は話題を変えた。
「あの……随分可愛い車だね。これ黛君の?」
黄色い外国製の可愛らしい車だった。女性が好んで使いそうな。
「母親の。暫く家にいないから使えって言われてるんだ。定期的にエンジン掛けないとバッテリー上がって動かなくなるからな」
そう言えば、黛の母親に会った事が無い。外科医で超多忙だと言う父親とも勿論顔を合わせた事は無いが、黛は母親の話も滅多にする事は無かった。
子供の頃から家族同然に育っている本田家の人達は、当然黛の母親を知っている筈だが―――今までそう言った話題が口に上る事は無かった。
「お母さん、旅行にでも行ってるの?」
「仕事でな。ところでお前―――なんかあったんだろ?大丈夫なのか」
「あっ」
ハンドルを握り前を向いたまま黛がそう切り出したので、七海はやっと会社の事を思い出した。
朝いきなり会う筈の無い人間に出くわし、そのいつもと違う格好に驚き、久し振りに彼の不用意な行動にドギマギさせられ―――その事はすっかり頭の中から抜け落ちていたのだ。
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