平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。

ねがえり太郎

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本編 平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。

55.『片思い』拗らせました(★)

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※なろう版と一部表現が変わります。
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 大学生になって日常的にアイツに会う事が無くなった。
 いい加減諦めなきゃと思いつつ日曜日に本田家で新とゲームをしていると、鹿島と一緒にアイツが現れる。

 相変わらずノホホンとゲーム機を握り、中学生のあらたに負かされ「ぎゃー」と叫ぶ様子を見ているとおかしくて腹を抱えて笑ってしまう。
 そんな俺にムッとする所も見ていて楽しい。アイツが持参した土産袋の中にヨモギ大福が入っているのを見ると何故かホッとする。意図しているかどうかは判らないが、俺の好きな物をちゃんと買って来てくれていると思うと、嫌われてはいないと感じるから。

 あれが限定品ですぐに売り切れてしまう物だと知ったのはついこの間。
 早い物勝ちか。だから俺が店に入った時はもう店頭に並んでいなかったのか。
 何かを暗示しているようで、ふと胸が塞がった。






 大学生の頃の俺は無謀な恋に見切りを付けようと決意した。
 と言う訳でアプローチを受けた相手と付き合ってみる事にする。大学生になって俺も少し相手に気を遣うようになった。アイツに言われた注意事項を思い出して対応すると一週間や二週間で振られるなんて事は無くなった。こういう風に対応していれば、アイツにも振られずに済んだのかなって、時折そんな考えが頭に浮かぶ。まあ虚しいだけなんだけれど。

 と言ってもやはり徐々にギクシャクはしてくる。
 彼女を優先しようとは思っていても、やはりアイツが来る集まりがあるとそちらに足が向かってしまう。付き合っていた彼女からその集まりに「私も行きたい」と言われ、何とか宥めて諦めて貰った事があった。

 アイツの目の前に自分の彼女を連れていくなんて絶対無理だと思った。
 そんな俺の態度に何か感じるものがあるらしく、向こうから別れを切り出される事もあったし、限界を感じて自分から別れを切り出す事もあった。

 何度かそんな試行錯誤を繰り返して―――俺はすっかり諦めた。



 アイツを思い切ろうとして誰かと付き合うのは、止めようと。
 ある時、ふと憑き物が落ちたような気がして、目の前がクリアになった。



 それから俺は、本田や鹿島抜きでアイツを飲みに誘うようになった。
 例え自分の事を好きになって貰う可能性がゼロだとしても、会いたいから会う。それで良いような気がした。一周回って中高生の素直な頃の自分に戻ったみたいだ。でも抱えている気持ちはその頃の物と雲泥の差がある。完全に拗らせているな、と思うけれどもこればっかりはどうしようも無いって分かってしまった。

 自分に素直になってみれば、ついつい距離が近くなったり言動に気持ちが籠ってしまう。
 知らず距離を詰めてしまったと気付くのは、アイツの態度が目に見えて変わる時だ。
 アイツは真っ赤になって動揺する。リトマス試験紙みたいに分かり易い。

(可愛いな)

 そう思うけどこれ以上引かれては困るし、やり過ぎて飲みに行くのを断られては本末転倒だ。口に出さないよう慎重に本心を押し込める。決定的な事を言って逃げられたくない。避けられて会えなくなるなんて絶対に嫌だと思った。

 しかしつい、耐えきれずに聞いてしまった。

「彼氏できたか?」

 するとどう考えても聞こえている筈なのに、無視された。
 何だかすごく気になって来て、つい深入りしてしまう。

「お前、ひょっとして処女?まさかキスもした事ないとか言わないよな?」

 だったら良いな、と言う希望を口にすると目の前の女は盛大にむせた。

 ホッと胸を撫で下ろす。まだ彼はいないらしい。大学時代から日常的に顔を合わせなくなって俺じゃない好みの誰かと付き合うようになるんだろうな……と諦めの気持ちを抱きつつ、往生際の悪い俺は気になってしょうが無かった。だから日曜日に本田の家に大福を持ってコイツが現れるたび、正直安堵していた。

 だけどコイツは今や社会人だ。学生に毛が生えた位の俺と違って周りは余裕のある大人ばかりなのだろう。振られた『顔だけ男』が口出しする権利が無いのは重々承知だが、いつ誰かと付き合ってもおかしく無い。
 しかし。と思う。
 これまでコイツは彼を作って来なかった。どうやら自分から誰かにアプローチすると言う考えはあまりないらしい。こんなイイ奴が今まで放って置かれたのが奇跡みたいなものだ。
ひょっとして今後も作る気が無いのではないか……?同年代でも早い奴は既に結婚している者もいる。

 ひょっとして結婚する気が無いのだろうか?全く焦りのようなものを感じさせない、のんびりとした態度に疑問を抱いた。もっと若いうちから『結婚』を気にしてソワソワしている女も大勢いるのに。大学生になって知合った女性や彼女のうち何人かは、かなり『結婚』と言う単語に敏感だった。勿論まだまだ先の事と思っている人間も多かったが。

 ひょっとしてコイツは―――縁が無ければ一生独身でも良いと言うタイプなのだろうか?

 勿体無い。

 そう思った。

 コイツは誰か俺と掛け離れた男と付き合い、幸せになるのだと思っていた。
 だけどそんなつもりが全く無いのだとしたら?そう言えばあまりそう言う事に頓着しなさそうな性質たちだし、相手から迫られなければそのままで良いと考えているとしたら?



 コイツは優しいから、押しが弱くて受け身な所がある。
 もしかして俺が頼み込んだら流されてくれたりして。

 いやいやいや……無いよな?まさか。
 『顔だけ男』に靡く奴じゃない……。でももし可能性があったとしたら?



 なんて事を考えていたからなのか分からないが―――寝落ちした俺を送ってくれたアイツに俺は思わず甘えるように「泊まってけよ」と口走ってしまった。

単純に離れてしまうのが寂しかった。
 仕事が忙しかった所為もあるが、一ヵ月も会えなかったのは流石に堪えた。もう少し一緒にいたかった。ただ帰って欲しく無くてそう言ったのに。

「なあに?もしかして寂しいの?」

 図星を差されてぐうの音も出ない。
 その後あっさりと帰ろうとするアイツにイラっとして、気付いた時には手首を掴んで引き寄せていた。

「な、何する気……」

 と動揺する顔が面白くて、思わず噴き出してしまう。
 そんな方向に思考が向くとは思っていなかった。少しは自分の事を男として意識してくれたのかと、俄かに嬉しくなってしまう。

 するとすごく楽しくなってしまった。
 調子に乗って、思わず軽いキスを落とす。
 アルコールの所為だろうか?眠気で記憶は混濁していたが、酩酊すると言うほど飲んではいなかった筈なのだが。

 するとピタリと固まって動かなくなってしまった。
 本当にキスもした事がないのだろうか?
 ビックリ顔があまりにも可愛らしくて、つい軽口を言った。

「……続きもするか?」

 そう呟いて更にもう一度啄むようにキスを重ねた。
 するとみるみるうちに顔が真っ赤に染まっていく。反応がある事に嬉しくなって、とても有難い気持ちになってしまった。白い額にも感謝を込めて口付けるとギュッと瞼を閉じられたしまった。初心な様子があまりにも美味しそうで更に調子に乗って瞼をペロリと舐めてしまった。


 「続き」について促したのは……冗談半分、本気半分。
 アルコールが理性を薄ーく引き延ばし、つい本能が透けてしまったからなのか。

 もし流されてくれたら?
 そしたら優しいコイツは情に絆されて、『顔だけ男』の俺とでも付き合ってくれるかもしれない。

 付き合うまで至らなかったかったとしても。
 例え付き合う事を断られたとしても―――一度でも自分から好きになった相手を抱けるなら―――こんな幸せな事は無いのじゃないか?諦めていたものが一部でも手に入るなら。

 だけどその後会えなくなるのは―――嫌だな。

 そんな葛藤が俺の台詞から重さを奪った。
 まるで軽口を言うように誘った逃げ腰の言葉が―――余計にアイツの怒りを煽っていたなんて分かったのはずっと後の話だ。



 そもそもいまだに俺は、アイツが怒っている意味を理解していない。
 推測は出来る。でも単純明快に思考する事をモットーとする俺にとって、突飛な発想をするアイツの思考回路の正答を発見するのは、国家試験より難解な事だ。

 断りも無く、アイツの唇に触れたから?
 先に尋ねれば良かったのか?
 でも俺がキスしたのは多分に衝動的なもので―――事前に確認するのは実際は無理だと思う。アイツは俺にどうして欲しかったんだろう。

 それとも俺に触れられる事自体が―――嫌だったのか?
 友達だと思えても、男としては絶対無理!と。そう言う意味で怒ったのか?






 拗らせた『片思い』は……俺をブンブンと振り回した。

 出口が見えずにアイツに蹴られた翌日俺は焦った。翌朝徐々に記憶が戻って来て―――蒼ざめた。
 このまま繋がりが無くなるのは嫌だった。もう恥も外聞も無い。答えは出なくともとにかく許して欲しいと思った。そうして必死で謝ったのに―――何故かまた地雷を踏んでしまったらしい。『絶交継続宣言』をされてしまったのだ。

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