69 / 363
本編 平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。
56.『片思い』の結末は
しおりを挟む
いろんな偶然が重なってアイツと普通に話をする事ができた。
アイツは相変わらずお人好しで、少し臆病だ。
もっと自分に自信を持ったって良いのに。
『彼氏の振り』を提案したのは単にアイツの役に立ちたかったからだけど、それが本当だったらどんなに良いだろうと思う。
アイツは俺の事何とも思っちゃいないから俺の提案に怯んでいたけど、背に腹は代えられないのか最後には頷いてくれた。
「ヨモギ大福。限定品だから早く買わないと売り切れちゃうの。お礼に貰って?」
「お礼?」
「えっとー……その、『彼氏の振り』?助かったよ。結局まだ黛君の事は公表していないけど、提案して貰った事で随分気持ちが落ち着いたの。立川さんの誘いも断れたし、課の先輩にもちゃんと挨拶できた。岬さんにはまだ無視されるけど……」
成り行きが気になってアイツのバイト(ボランティア?)先に顔をだしたら思いもかけず『お礼の品』を渡された。
もう手に入らないと思っていたヨモギ大福。
手に取ると微かに温かい。何か別の物をこの手にしたような錯覚を覚える。
調子に乗ってダメ元で食事に誘ったら、何とOKの返事。
正直言ってすごく嬉しい。
その上アイツの家に上げてくれると言う。これまでずっと付き合いを続けてきて、初めての事だった。
部屋に入るとアイツの両親と五歳の弟、翔太がいて『友人』と紹介された。
ホッと胸を撫で下ろす。
俺はまだコイツの『友人』と認識されているらしい。
『宿題』に関しては「忘れてくれる?」と言われたけれど。
結局俺達の齟齬は何も解決しちゃいないのに、アイツから怒りの感情が消えたのは一体どういう心境の変化だろう?訝しみつつも許された事に安堵する。
これから両親と動物園へ出掛けると言う翔太と、アイツの家事が終わるまで存分に遊んだ。
ちっちゃい新ともこんな風に遊んだな、とふと記憶が蘇る。
笑いながら一所懸命に戦う翔太を、アイツにそっくりな優しいノホホンとした雰囲気を纏っている両親が優しい目で見守っている。
アイツが家事を終えた後、皆で一緒に家を出た。翔太を挟み三人で手を繋ぐ背中をを見送りながら思った。かつてアイツもあの小さな翔太のように父親と母親と手を繋いで歩いたのだろう。
俺の子供の頃の日常と正反対の環境。
こんな賑やかで温かい空気の中で育ったからこそ、今のアイツがあるんだと実感した。
アイツは立川を断ったと言っていた。
受け身な性質のアイツが彼氏を作ろうと思ったら、アプローチしてくる奴と付き合う流れしか思いつかなかったから、食事をしながらつい気になってシツコク追及してしまった。
本当にコイツ、彼氏を作る気が無いのでは?
もしかして結婚にも興味ないタイプなのか?
「お前、この先どうする気だ?立川って聞く限りは結構優良物件なんだろ?それを断るなんて―――他に当てがあるのか?……と言うか、そもそもお前はこの先、結婚をする気があるのか?」
「よ、余計なお世話よ!黛君には関係ないでしょ?」
「確かに……関係は無いけれども……」
グサッと傷を抉られる。確かにただの『友人』の俺には関係の無い事だ。
「自分はどうなのよ、二年も彼女いなくてさ。忙しくて彼女作る暇無いって言ってもこれからずっとそうなんでしょ?自分の心配をしなさいよ」
「俺は忙しいから彼女を作らないんじゃない」
容赦ない言葉に、がっつり傷つく自分がいた。
俺は彼女を作らないんじゃなくて、作れないんだ。
アイツの事が好きだから。
それが全く望みの無い『片思い』で、報われる事は到底無いだろう。
それを『片思い』の相手、当人に言われるとは……。
「モテる人はいいですねぇ。自慢は聞き飽きましたぁー」
と何故か拗ねたように言うアイツを振り返ると―――イーっと俺に向かって歯を剥きだしていた。
子供みたいな態度に思わず笑ってしまう。
深刻な空気が一気に吹き飛んで、変わらない態度が親しみの現れのように見え嬉しくなってしまう。『変わらないな』と言ったのはそんな気持ちから出た正直な感想だった。胸が温かくなって自然に口元が綻ぶ。
どうしてあんなに怒っていたアイツが俺を許す気になったのか分からないが、とにかくこんな時間が持てるなら『宿題』の答えなんかどうでも良いかな。しばらく彼を作る気も、結婚する気もなさそうだし……なんて上機嫌に考えていた。―――次のアイツの台詞を聞くまでは。
「こんな子供な私でも―――結婚して欲しいって言ってくれる人はいるんだから、ほっといてよ」
思わずカーブを回るタイミングを逸してしまい、車体が急ハンドルに傾ぐ。
「信さんにこの間、言われたの。『結婚を前提に付き合って欲しい』って」
正直驚いた。
だけど同時に納得もした。
「信が好きなんだろ?」
「……そりゃ好きだけど……」
俺は目を閉じ、溜息を吐いた。
信なら―――コイツを幸せにするだろう。
細かいトラブルは抱えているが、信が本気でコイツと結婚する気ならキチンとそれなりに対処する筈だ。俺の目には、これまで信は八割程度の力しか出していないように見えた。奴が本気を出せばきっと大方の問題は解決するだろう。
優しいし、立派な社会人だ。人付き合いも上手で俺のように他人の感情を逆撫でするような事は無い。
少なくとも―――俺のようにコイツを揶揄って怒らせるような真似をする事はないだろう。
「良かったじゃん」
と言って肩を叩くと、アイツは俺の言葉に柔らかい笑顔で返事をした。
その途端胸は痛んだけれども。
俺はしっかりと頷いてから前を向き、ハンドルを握って車を再び動かした。
「……ホントに良かったな」
発した言葉は、心からの物だった。
気持ちの一部を置き去りにして、俺は車のアクセルを踏み込んだのだった。
アイツは相変わらずお人好しで、少し臆病だ。
もっと自分に自信を持ったって良いのに。
『彼氏の振り』を提案したのは単にアイツの役に立ちたかったからだけど、それが本当だったらどんなに良いだろうと思う。
アイツは俺の事何とも思っちゃいないから俺の提案に怯んでいたけど、背に腹は代えられないのか最後には頷いてくれた。
「ヨモギ大福。限定品だから早く買わないと売り切れちゃうの。お礼に貰って?」
「お礼?」
「えっとー……その、『彼氏の振り』?助かったよ。結局まだ黛君の事は公表していないけど、提案して貰った事で随分気持ちが落ち着いたの。立川さんの誘いも断れたし、課の先輩にもちゃんと挨拶できた。岬さんにはまだ無視されるけど……」
成り行きが気になってアイツのバイト(ボランティア?)先に顔をだしたら思いもかけず『お礼の品』を渡された。
もう手に入らないと思っていたヨモギ大福。
手に取ると微かに温かい。何か別の物をこの手にしたような錯覚を覚える。
調子に乗ってダメ元で食事に誘ったら、何とOKの返事。
正直言ってすごく嬉しい。
その上アイツの家に上げてくれると言う。これまでずっと付き合いを続けてきて、初めての事だった。
部屋に入るとアイツの両親と五歳の弟、翔太がいて『友人』と紹介された。
ホッと胸を撫で下ろす。
俺はまだコイツの『友人』と認識されているらしい。
『宿題』に関しては「忘れてくれる?」と言われたけれど。
結局俺達の齟齬は何も解決しちゃいないのに、アイツから怒りの感情が消えたのは一体どういう心境の変化だろう?訝しみつつも許された事に安堵する。
これから両親と動物園へ出掛けると言う翔太と、アイツの家事が終わるまで存分に遊んだ。
ちっちゃい新ともこんな風に遊んだな、とふと記憶が蘇る。
笑いながら一所懸命に戦う翔太を、アイツにそっくりな優しいノホホンとした雰囲気を纏っている両親が優しい目で見守っている。
アイツが家事を終えた後、皆で一緒に家を出た。翔太を挟み三人で手を繋ぐ背中をを見送りながら思った。かつてアイツもあの小さな翔太のように父親と母親と手を繋いで歩いたのだろう。
俺の子供の頃の日常と正反対の環境。
こんな賑やかで温かい空気の中で育ったからこそ、今のアイツがあるんだと実感した。
アイツは立川を断ったと言っていた。
受け身な性質のアイツが彼氏を作ろうと思ったら、アプローチしてくる奴と付き合う流れしか思いつかなかったから、食事をしながらつい気になってシツコク追及してしまった。
本当にコイツ、彼氏を作る気が無いのでは?
もしかして結婚にも興味ないタイプなのか?
「お前、この先どうする気だ?立川って聞く限りは結構優良物件なんだろ?それを断るなんて―――他に当てがあるのか?……と言うか、そもそもお前はこの先、結婚をする気があるのか?」
「よ、余計なお世話よ!黛君には関係ないでしょ?」
「確かに……関係は無いけれども……」
グサッと傷を抉られる。確かにただの『友人』の俺には関係の無い事だ。
「自分はどうなのよ、二年も彼女いなくてさ。忙しくて彼女作る暇無いって言ってもこれからずっとそうなんでしょ?自分の心配をしなさいよ」
「俺は忙しいから彼女を作らないんじゃない」
容赦ない言葉に、がっつり傷つく自分がいた。
俺は彼女を作らないんじゃなくて、作れないんだ。
アイツの事が好きだから。
それが全く望みの無い『片思い』で、報われる事は到底無いだろう。
それを『片思い』の相手、当人に言われるとは……。
「モテる人はいいですねぇ。自慢は聞き飽きましたぁー」
と何故か拗ねたように言うアイツを振り返ると―――イーっと俺に向かって歯を剥きだしていた。
子供みたいな態度に思わず笑ってしまう。
深刻な空気が一気に吹き飛んで、変わらない態度が親しみの現れのように見え嬉しくなってしまう。『変わらないな』と言ったのはそんな気持ちから出た正直な感想だった。胸が温かくなって自然に口元が綻ぶ。
どうしてあんなに怒っていたアイツが俺を許す気になったのか分からないが、とにかくこんな時間が持てるなら『宿題』の答えなんかどうでも良いかな。しばらく彼を作る気も、結婚する気もなさそうだし……なんて上機嫌に考えていた。―――次のアイツの台詞を聞くまでは。
「こんな子供な私でも―――結婚して欲しいって言ってくれる人はいるんだから、ほっといてよ」
思わずカーブを回るタイミングを逸してしまい、車体が急ハンドルに傾ぐ。
「信さんにこの間、言われたの。『結婚を前提に付き合って欲しい』って」
正直驚いた。
だけど同時に納得もした。
「信が好きなんだろ?」
「……そりゃ好きだけど……」
俺は目を閉じ、溜息を吐いた。
信なら―――コイツを幸せにするだろう。
細かいトラブルは抱えているが、信が本気でコイツと結婚する気ならキチンとそれなりに対処する筈だ。俺の目には、これまで信は八割程度の力しか出していないように見えた。奴が本気を出せばきっと大方の問題は解決するだろう。
優しいし、立派な社会人だ。人付き合いも上手で俺のように他人の感情を逆撫でするような事は無い。
少なくとも―――俺のようにコイツを揶揄って怒らせるような真似をする事はないだろう。
「良かったじゃん」
と言って肩を叩くと、アイツは俺の言葉に柔らかい笑顔で返事をした。
その途端胸は痛んだけれども。
俺はしっかりと頷いてから前を向き、ハンドルを握って車を再び動かした。
「……ホントに良かったな」
発した言葉は、心からの物だった。
気持ちの一部を置き去りにして、俺は車のアクセルを踏み込んだのだった。
33
あなたにおすすめの小説
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。
BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。
父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した!
メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる