70 / 363
本編 平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。
57.『魔性の女』ではありません
しおりを挟む
三人称に戻ります。
よろしくお願いします。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今日は火曜日。
いつもなら信に連れられて蚊取り線香役をしている所だ。
しかし今現在七海がいるのは、とあるワインバーの一角。テーブルにはお通しにチーズが二種類。ついさっき給仕されたばかりの『エリンギと海老のアアーリオオーリオ』『20種彩り野菜サラダ』『ゴルゴンゾーラのはちみつ添えピザ』がドーンと並んでいる。
野菜がウリと言うだけあって、赤青黄の野菜が高く積まれたサラダは美しい。海老とエリンギのアヒージョからは香ばしい香りが、ピザからはちょと癖のある食欲を誘う香りが漂って来る。
食いしん坊を発揮し取り皿に確保したそれらを目を輝かせて頬張っていると、斜め向かいから立川の笑い声が聞こえて来て七海は顔を上げた。
「随分美味しそうに食べるね、江島さんは」
その一重の目を更に細めて楽しそうに七海を見ている。彼女はギクリとしてその隣に座る可愛らしい幼顔を剣呑に顰めた岬の鋭い視線ごと、立川の朗らかな微笑みを身に受けた。
「岬ちゃん、ピザ取って!」
「あ、は~い」
右隣にいる田神からのリクエストに、岬の表情が一瞬で明るく変わるのを見て七海は目を丸くした。そんな七海を見て、立川がクスリと笑っている。
立川から以前提案のあった田神のための岬を交えた飲み会だ。
この他営業部から若い男性が二名、総務部から中村と伊達が出席している。午前中に立川から誘いを受け、迷ったがOKした。
信に会うのが何となく気まずかったからだ。
全く気持ちが定まっておらず、全くどういう態度で接して良いか分からず、そして全く信の秘めた気持ちに気付かないまま……のうのうとご馳走になっていた自分が、恥ずかしくていたたまれなかった。
七海が信に断りの連絡を入れると、気を悪くした様子も無く了承の返事が返って来た。代わりに金曜日に会う事を約束してしまったが。
大人だなぁ、と七海は思う。
未だに考え方に子供っぽさの抜けない自分には最高の相手では無いか。とも思う。
と言うか、勿体無さ過ぎる。(ストーカーの問題を除けば)
ワインも進み皆がほろ酔いになると、田神以外の舌も滑らかになり話も弾んできた。
すると隣に座っていた栗色のワンレングスをふわりと揺らして、中村が七海に話し掛けて来た。
「ねぇ、江島さん?この間金髪の女の子と大きい男の子が迎えに来てたよねぇ、あれってお友達か親戚?随分ゴージャスだよね!」
七海と違って。とは口には出されなかったが、七海は何となく中村の口調からそんなニュアンスを感じ取った。しかし嫌味な感じはしなかったので、落ち着いて返事をする事ができた。
「男の子は友達の弟なんです。つい先日、二十歳になったばかりなので、あちこち飲みに行きたがって。金髪の子はその子の彼女です」
「そうだったんだ!じゃあ……じゃあさ、会社の前でいつも待ち合わせしているスーツの男の人って……」
「中村、ちょっと……」
中村の向こう側に座っている伊達が、こちらの話に気が付いて眉を寄せた。根掘り葉掘り聞き出そうとする中村に苦言を呈そうとしたようだ。
七海もいつもなら面白半分に自分の事を聞かれるのは嫌だ。けれども今回は『ホスト疑惑』を一掃する良い機会でもあった。ゴクリと唾を飲み込み七海はオズオズと慎重に返答する。
「えっと……その男の子のお兄さんがよく迎えに来てくれるので……」
「そっか!やっぱり、そうだよねー」
中村はそう言って伊達と目を合わせた。伊達は頷いて溜息を吐いた。わざわざ確認するまでも無い、と言うように。それを見て、やはり『ホスト』と思っていて言いふらしているのは岬だけなのだと七海は安堵した。だから二人とも七海に対する態度に特に変わりは無かったのだ、と。……しかし七海は知らない。噂が広まる原因を作ったのは本当は中村と伊達の不用意なおしゃべりだという事を。
「じゃあ江島さんの彼って、どんな人?」
そこへ唐突に低音が割り込んできた。発する元に七海を含めた三人の視線が集まった。
視線の先では、立川がニコリと朗らかに笑ってこちらを見つめていた。
よろしくお願いします。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
今日は火曜日。
いつもなら信に連れられて蚊取り線香役をしている所だ。
しかし今現在七海がいるのは、とあるワインバーの一角。テーブルにはお通しにチーズが二種類。ついさっき給仕されたばかりの『エリンギと海老のアアーリオオーリオ』『20種彩り野菜サラダ』『ゴルゴンゾーラのはちみつ添えピザ』がドーンと並んでいる。
野菜がウリと言うだけあって、赤青黄の野菜が高く積まれたサラダは美しい。海老とエリンギのアヒージョからは香ばしい香りが、ピザからはちょと癖のある食欲を誘う香りが漂って来る。
食いしん坊を発揮し取り皿に確保したそれらを目を輝かせて頬張っていると、斜め向かいから立川の笑い声が聞こえて来て七海は顔を上げた。
「随分美味しそうに食べるね、江島さんは」
その一重の目を更に細めて楽しそうに七海を見ている。彼女はギクリとしてその隣に座る可愛らしい幼顔を剣呑に顰めた岬の鋭い視線ごと、立川の朗らかな微笑みを身に受けた。
「岬ちゃん、ピザ取って!」
「あ、は~い」
右隣にいる田神からのリクエストに、岬の表情が一瞬で明るく変わるのを見て七海は目を丸くした。そんな七海を見て、立川がクスリと笑っている。
立川から以前提案のあった田神のための岬を交えた飲み会だ。
この他営業部から若い男性が二名、総務部から中村と伊達が出席している。午前中に立川から誘いを受け、迷ったがOKした。
信に会うのが何となく気まずかったからだ。
全く気持ちが定まっておらず、全くどういう態度で接して良いか分からず、そして全く信の秘めた気持ちに気付かないまま……のうのうとご馳走になっていた自分が、恥ずかしくていたたまれなかった。
七海が信に断りの連絡を入れると、気を悪くした様子も無く了承の返事が返って来た。代わりに金曜日に会う事を約束してしまったが。
大人だなぁ、と七海は思う。
未だに考え方に子供っぽさの抜けない自分には最高の相手では無いか。とも思う。
と言うか、勿体無さ過ぎる。(ストーカーの問題を除けば)
ワインも進み皆がほろ酔いになると、田神以外の舌も滑らかになり話も弾んできた。
すると隣に座っていた栗色のワンレングスをふわりと揺らして、中村が七海に話し掛けて来た。
「ねぇ、江島さん?この間金髪の女の子と大きい男の子が迎えに来てたよねぇ、あれってお友達か親戚?随分ゴージャスだよね!」
七海と違って。とは口には出されなかったが、七海は何となく中村の口調からそんなニュアンスを感じ取った。しかし嫌味な感じはしなかったので、落ち着いて返事をする事ができた。
「男の子は友達の弟なんです。つい先日、二十歳になったばかりなので、あちこち飲みに行きたがって。金髪の子はその子の彼女です」
「そうだったんだ!じゃあ……じゃあさ、会社の前でいつも待ち合わせしているスーツの男の人って……」
「中村、ちょっと……」
中村の向こう側に座っている伊達が、こちらの話に気が付いて眉を寄せた。根掘り葉掘り聞き出そうとする中村に苦言を呈そうとしたようだ。
七海もいつもなら面白半分に自分の事を聞かれるのは嫌だ。けれども今回は『ホスト疑惑』を一掃する良い機会でもあった。ゴクリと唾を飲み込み七海はオズオズと慎重に返答する。
「えっと……その男の子のお兄さんがよく迎えに来てくれるので……」
「そっか!やっぱり、そうだよねー」
中村はそう言って伊達と目を合わせた。伊達は頷いて溜息を吐いた。わざわざ確認するまでも無い、と言うように。それを見て、やはり『ホスト』と思っていて言いふらしているのは岬だけなのだと七海は安堵した。だから二人とも七海に対する態度に特に変わりは無かったのだ、と。……しかし七海は知らない。噂が広まる原因を作ったのは本当は中村と伊達の不用意なおしゃべりだという事を。
「じゃあ江島さんの彼って、どんな人?」
そこへ唐突に低音が割り込んできた。発する元に七海を含めた三人の視線が集まった。
視線の先では、立川がニコリと朗らかに笑ってこちらを見つめていた。
33
あなたにおすすめの小説
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。
BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。
父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した!
メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる