117 / 363
後日談 黛先生の婚約者
(9)自業自得
しおりを挟む
(6)話の七海の言動が「冷めているように感じる」と言う読者様の疑問にお答えしたお話です。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
強引な黛の所為で予定に無いお泊りをしてしまった朝、彼が朝イチにコンビニで購入してきた朝食を七海は食べていた。
流石に無理を言い過ぎたと反省しているらしく、黛はいつもより少し大人しい。
七海が明太子お握りを食べ終わるのを見届けてから、彼はこう切り出した。
「車で送る。七海の家まで行って、その後仕事場まで連れて行くよ」
「んー……いーよ、もう。黛君も仕事あるでしょ?」
「いや、今日夕方からだから……」
七海は首を振った。
「黛君のクローゼットに予備のブラウスとか一揃い置いておいたの思い出したの。中身だけ着替えていくよ。スーツ皺になってないし、上着脱げば違う服に見えると思う」
ニコリと笑う七海に、黛は尋ねた。
「お前さぁ……」
「ん?」
黛が入れたコーヒーを飲みながら、七海は首を傾げた。
「無理してないか?」
「んん?ナニ、突然」
「いや……俺ばっかり、我儘言ってるような気がして―――本当は無理して合わせているんじゃないか?」
向かい合ったテーブルの上で両方の手の指をしっかりと組み合わせ、神妙な顔で呟く黛を見て―――七海はプッと噴き出した。
「変なの!黛君が我儘なの、昔っからじゃない」
そして眉を寄せる黛を見て、七海は笑い出した。
「いや……そうじゃなくて……」
それでも黛が深刻な表情を崩さないので、七海はコーヒーカップを机に置いて彼の顔を覗き込んだ。どうやら何か引っかかりがあるらしいと、気が付いたのだ。
「……どうしたの?」
「婚約指輪も新居もいらないって言うし……俺があんまり性急に進めるから、もしかして嫌になったのか?結婚……」
弱気な台詞を吐き始めた、超絶マイペース(である筈の)男を、七海は目を丸くして見つめた。
「俺がグイグイ押してるから、仕方なく流されているだけで―――本当は呆れてるんじゃ、ないか……?七海は本当は―――もう嫌になっているんじゃないかって気がして」
七海も笑いを引っ込めて、真面目に黛を正面から見た。
そして暫く考え込むように思案してから……口を開く。
「うーん……あのね、正直に言ってもいい?」
「もちろん」
オズオズと話し始めた七海に、黛は頷いた。
「うんとね、あのー……正直、ちょっと引いてます」
ピキッと、黛の心臓にヒビが入った。
やっぱりと言うか予想通りと言うか。しかし七海の口から直接聞かされるとかなりの威力があった。
七海はコーヒーを手で包み込むようにして少し視線を下げた。
「だって黛君いきなり変わっちゃうんだもん。今まで憎まれ口ばっかり聞いていたクセにさ。あんまり言われ慣れていない事言われるから、恥ずかしいし照れるし、何て言っていいか分からなくなるよ」
「う、まぁ……それは、そうかもしれないが……」
「『可愛い』なんて言われたの小学校低学年以来だよ?」
「『可愛い』から『可愛い』と言って悪いのか?」
「だって……!今までそんな事、黛君から言われた事ないし。だから慣れなくて……」
「ずっと思っていたけど言えなかったんだ。もう付き合っているんだから、黙って無くても良いじゃないか」
「急に色々買ってくれるって言い出すし、悪くて―――もっと今まで通り、普通にしてくれれば良いのに……」
「結婚するんだろ?結婚したら家計は一緒になるんだから、気にする必要なんかないだろ」
「んーとね、そうじゃなくて……!家計が一緒になるって言うなら余計無駄遣いしちゃ駄目でしょ?将来何があるか分からないし……」
「やっぱり……」
黛は肩を落として溜息を吐いた。
「迷惑だったのか……?」
極端だな!と七海は内心ガクッとずっこけた。
「違うって!迷惑なんかじゃなくて―――」
机の上を彷徨わせていた視線を上げ、黛をまっすぐ見据えて七海は勇気を振り絞った。
「う……嬉しかったよ?『可愛い』とか『好き』って言ってくれるのも、まだちょっと慣れないけど―――私が恥ずかしくて言えない事も言ってくれるし、色々買ってくれようとしてくれるのも、好かれてるなぁって思えて……本当に嬉しい」
そう言いきって、真っ赤になった七海を見て―――黛も思わず頬を染めた。
「ただちょっと―――ギアを落として欲しいと言うか……色々ゆっくりやってきたいなぁって。私、ついこの間なんだよ?男の人を好きだなって思えるようになったのって……そりゃ、黛君はいろいろ経験しているのかもしれないけど……」
ほんの少し拗ねた口振りになる七海を見ていた黛は目を見開いて―――それから俯いてしまった。
スッカリ口を噤んでしまった黛が心配になって、七海は椅子から立ち上がり黛の横に立って肩に手を置いた。もしかして嫉妬する口調がうっとうしかっただろうか、と。
「黛君……?あの、言い過ぎてごめ……」
「……りだ」
「え?何?」
ガバっと黛は立ち上がり、七海を抱き込んだ。
「そんな可愛い事言われたら―――無理だ!我慢できん―――」
「ギャーッ!や、やめて!」
「無理!」
「仕事!仕事あるから……!」
何とかジタバタと暴れ、包囲網を抜け出した。
そして黛を宥め、仕事に向かった七海だが―――
(当分正直に好意を示すのは止めて置こう)
そう改めて固く、心に決意するのだった……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
七海はこうして更に素っ気なくなって行くのでした。
フォローするつもりが何故かこんな展開に。
全て黛の所為です。(と責任を押し付ける)
あと法的には結婚する以前の財産は各個人に帰属する筈(うろ覚え)ですよね。黛はそれも理解していますが、気持ちとして財産を差し出すような発言をしています。重い愛情に引き気味の七海でした。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
強引な黛の所為で予定に無いお泊りをしてしまった朝、彼が朝イチにコンビニで購入してきた朝食を七海は食べていた。
流石に無理を言い過ぎたと反省しているらしく、黛はいつもより少し大人しい。
七海が明太子お握りを食べ終わるのを見届けてから、彼はこう切り出した。
「車で送る。七海の家まで行って、その後仕事場まで連れて行くよ」
「んー……いーよ、もう。黛君も仕事あるでしょ?」
「いや、今日夕方からだから……」
七海は首を振った。
「黛君のクローゼットに予備のブラウスとか一揃い置いておいたの思い出したの。中身だけ着替えていくよ。スーツ皺になってないし、上着脱げば違う服に見えると思う」
ニコリと笑う七海に、黛は尋ねた。
「お前さぁ……」
「ん?」
黛が入れたコーヒーを飲みながら、七海は首を傾げた。
「無理してないか?」
「んん?ナニ、突然」
「いや……俺ばっかり、我儘言ってるような気がして―――本当は無理して合わせているんじゃないか?」
向かい合ったテーブルの上で両方の手の指をしっかりと組み合わせ、神妙な顔で呟く黛を見て―――七海はプッと噴き出した。
「変なの!黛君が我儘なの、昔っからじゃない」
そして眉を寄せる黛を見て、七海は笑い出した。
「いや……そうじゃなくて……」
それでも黛が深刻な表情を崩さないので、七海はコーヒーカップを机に置いて彼の顔を覗き込んだ。どうやら何か引っかかりがあるらしいと、気が付いたのだ。
「……どうしたの?」
「婚約指輪も新居もいらないって言うし……俺があんまり性急に進めるから、もしかして嫌になったのか?結婚……」
弱気な台詞を吐き始めた、超絶マイペース(である筈の)男を、七海は目を丸くして見つめた。
「俺がグイグイ押してるから、仕方なく流されているだけで―――本当は呆れてるんじゃ、ないか……?七海は本当は―――もう嫌になっているんじゃないかって気がして」
七海も笑いを引っ込めて、真面目に黛を正面から見た。
そして暫く考え込むように思案してから……口を開く。
「うーん……あのね、正直に言ってもいい?」
「もちろん」
オズオズと話し始めた七海に、黛は頷いた。
「うんとね、あのー……正直、ちょっと引いてます」
ピキッと、黛の心臓にヒビが入った。
やっぱりと言うか予想通りと言うか。しかし七海の口から直接聞かされるとかなりの威力があった。
七海はコーヒーを手で包み込むようにして少し視線を下げた。
「だって黛君いきなり変わっちゃうんだもん。今まで憎まれ口ばっかり聞いていたクセにさ。あんまり言われ慣れていない事言われるから、恥ずかしいし照れるし、何て言っていいか分からなくなるよ」
「う、まぁ……それは、そうかもしれないが……」
「『可愛い』なんて言われたの小学校低学年以来だよ?」
「『可愛い』から『可愛い』と言って悪いのか?」
「だって……!今までそんな事、黛君から言われた事ないし。だから慣れなくて……」
「ずっと思っていたけど言えなかったんだ。もう付き合っているんだから、黙って無くても良いじゃないか」
「急に色々買ってくれるって言い出すし、悪くて―――もっと今まで通り、普通にしてくれれば良いのに……」
「結婚するんだろ?結婚したら家計は一緒になるんだから、気にする必要なんかないだろ」
「んーとね、そうじゃなくて……!家計が一緒になるって言うなら余計無駄遣いしちゃ駄目でしょ?将来何があるか分からないし……」
「やっぱり……」
黛は肩を落として溜息を吐いた。
「迷惑だったのか……?」
極端だな!と七海は内心ガクッとずっこけた。
「違うって!迷惑なんかじゃなくて―――」
机の上を彷徨わせていた視線を上げ、黛をまっすぐ見据えて七海は勇気を振り絞った。
「う……嬉しかったよ?『可愛い』とか『好き』って言ってくれるのも、まだちょっと慣れないけど―――私が恥ずかしくて言えない事も言ってくれるし、色々買ってくれようとしてくれるのも、好かれてるなぁって思えて……本当に嬉しい」
そう言いきって、真っ赤になった七海を見て―――黛も思わず頬を染めた。
「ただちょっと―――ギアを落として欲しいと言うか……色々ゆっくりやってきたいなぁって。私、ついこの間なんだよ?男の人を好きだなって思えるようになったのって……そりゃ、黛君はいろいろ経験しているのかもしれないけど……」
ほんの少し拗ねた口振りになる七海を見ていた黛は目を見開いて―――それから俯いてしまった。
スッカリ口を噤んでしまった黛が心配になって、七海は椅子から立ち上がり黛の横に立って肩に手を置いた。もしかして嫉妬する口調がうっとうしかっただろうか、と。
「黛君……?あの、言い過ぎてごめ……」
「……りだ」
「え?何?」
ガバっと黛は立ち上がり、七海を抱き込んだ。
「そんな可愛い事言われたら―――無理だ!我慢できん―――」
「ギャーッ!や、やめて!」
「無理!」
「仕事!仕事あるから……!」
何とかジタバタと暴れ、包囲網を抜け出した。
そして黛を宥め、仕事に向かった七海だが―――
(当分正直に好意を示すのは止めて置こう)
そう改めて固く、心に決意するのだった……。
ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー
七海はこうして更に素っ気なくなって行くのでした。
フォローするつもりが何故かこんな展開に。
全て黛の所為です。(と責任を押し付ける)
あと法的には結婚する以前の財産は各個人に帰属する筈(うろ覚え)ですよね。黛はそれも理解していますが、気持ちとして財産を差し出すような発言をしています。重い愛情に引き気味の七海でした。
42
あなたにおすすめの小説
【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……
buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。
みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……
どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~
さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」
あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。
弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。
弟とは凄く仲が良いの!
それはそれはものすごく‥‥‥
「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」
そんな関係のあたしたち。
でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥
「うそっ! お腹が出て来てる!?」
お姉ちゃんの秘密の悩みです。
冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります
真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」
婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。
そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。
脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。
王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。
【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。
BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。
父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した!
メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!
【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください
ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。
義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。
外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。
彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。
「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」
――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。
⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎
妹がいなくなった
アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。
メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。
お父様とお母様の泣き声が聞こえる。
「うるさくて寝ていられないわ」
妹は我が家の宝。
お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。
妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる