平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。

ねがえり太郎

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後日談 黛先生の婚約者

(30)新婚生活の始まり おまけ(★)

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(29)話の補足です。

※なろう版には掲載しておりません。

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「あれ?まだ寝て無かったのか?」
「あ、うん。ちょっと目が冴えちゃって」

 それを聞いてまゆずみは口元が緩むのを止められ無かった。

 同居初日だが仕事の為引っ越し作業を手伝えず、七海に負担を掛けてしまっている。彼女は仕事が休みだから問題無いと言うがきっと疲れているに違いない、と―――今日は大人しく添い寝に留めようと、さっきまでは殊勝な気持ちで諦めていたのだ。

 七海の顔が一瞬強張ったような気がするが、そうと決まれば細かい部分は無視する事にした。
 何より眠れないと七海が訴えているではないか。夫となる者として、これは捨て置いて良い事では無い。

「じゃあ、ちょっと俺に付き合って運動するか。その方がよく眠れるだろ?」

 行為を匂わせると、途端に七海の顔は真っ赤に染まった。
 黛は照れる七海が可愛くて仕方が無い。だから下手な軽口を毎回凝りもせず呟いてしまう。

「言い方が親父臭い……」
「あれ?年上好きだった?残念、同い年なんだ」

 揶揄うように言ってそのふっくらした唇を啄むと、七海の体から観念するように力が抜けるのが伝わって来た。クスリと笑って自分を見上げる潤んだ瞳を見返し、黛はそっと彼女の柔らかな額に唇を押し当てた。
 続けて彼女の瞼……頬へと、チュッチュッと音を立てて口付けを下ろして行く。そうして漸く最初に吸い付いた、柔らかな唇へと戻って来た。

(甘い……)

 と思う。それともそう言う気分に、黛が陥っているから甘く感じてしまうのだろうか?



 やっと、もう少しで。あと数日で―――彼女が本当に手に入る。
 もうほとんど、自分の腕の囲いに収まっている筈なのに―――時折これは自分が見ている都合の良い夢なんじゃないかと感じる時がある。

 あまりにも都合良すぎないか……?
 長年の片想いが、告白した途端アッサリ成就するなんて。

 スッポリと自分の腕の中に納まっている恋人を見ると、そんなもどかしい感情に捕われてしまう事がある。
 黛は思った―――これが『こわいくらい幸せ』と言う感覚なのだろうか?
 こんな多幸感を経験してしまったら……二度と一人でいた頃になんか戻れない。

 恋した相手が遠くで誰かと幸せになっても、仕方ないと思っていた。自分には過ぎた相手だと自分の想いが通じるなんて有り得ないものと、ずっと諦めていたのに。

 だけど一度知ってしまったら。
 もう手放す事も、遠くで見守る事も出来やしない。

 子供の頃には理解できなかった―――振られても、外国まで追いかけて龍一を追い掛けた玲子の激しい執着心。
 自分が望まれて生まれて来た事は、本当に嬉しい。毎日一緒にいられなくて寂しい気持ちが無かったとは言えないけれども―――素直に愛情を示してくれた両親がいるから、そう思える。
 だけど其処まで相手に追い縋る執着心は、黛には理解できなかった。けれども―――今なら理解わかる。

 例え七海が自分に頭を下げて『別れてください』と泣いて頼んだとしても。
 黛はもう、頷く事は出来ないだろう。それとも泣く泣く諦めて、心を閉ざしながら毎晩酒を飲んで管を捲くようになるのだろうか。



 そんなもどかしい出口の無い思考も。深い口付けから解放された七海の吐息を耳にしただけで霧散してしまう。
柔らかいガーゼ素材の大きめな作りのパジャマのボタンは、力を入れなくとも簡単にスルリと解ける、何とも男性に優しい作りで自然と心が躍ってしまう。
 合わせ目から手を差し入れて、薄い皮膚に包まれた至極柔らかな膨らみに触れると、ふにゃふにゃと掌に気持ちの良い感触が、一週間振りに戻って来た。本当はいつまでも弄び、しつこく触り続けたい所だが―――翌日も仕事だし、黛も七海も強かに疲れている状態だから、何とか衝動をやり過ごし適当な所で切り上げる。
 柔らかいそれを優しく掴み押し上げ、徐々に立ち上がって来た尖りに舌を這わせた。

「んっ……」

 可愛い声を漏らし身じろぎする愛しい彼女を見上げると―――目を瞑って耐える様子に加え、いつも白過ぎるくらいの頬が桃色に染まっている、なまめかしい痴態が目に入る。
 まるで角膜を通して直接脳を刺激するような光景に一瞬頭に血が上りかけたが、黛は(明日も仕事、明日も仕事……)と念仏のように唱えて暴走を抑える事にした……。






 翌朝。

 アラームの音に目を擦り、体を起こす。
 昨日一通り味わわれた美味しい体を丸めて、情事の跡など感じさせないような穏やかな表情で眠っている七海の頬に、黛は口付けた。

 それから「おーい、朝だぞ~」とユサユサと体を揺すると、パチリと瞼を開けた七海が布団の中で「ん~っ」と伸びをし、瞬きを繰り返した。

「あれ?黛君……今、何時?」

 黛が時計を見せると、七海は「わっもう?」と言ってベットから飛び起きた。そして直ぐに何かを思い出したように「あっ」と声を上げて未だベッドの上に座っている黛に向き直った。

 肌蹴たパジャマに気付かないまま―――チョコンとベッドの上に正座する様子に黛は目を細めた。
 すると七海は深々と頭を下げた。

不束者ふつつかものですが―――これから宜しくお願いします」

 黛は吃驚して目を丸くした。
 顔を上げた七海が、コトンと首を傾ける様子に一瞬見惚れて―――慌てて自らも居住まいを正す。

「こちらこそ―――更に不束者ですが……よろしくお願いします」
「プッ」

 顔を上げると、笑いを堪える未来の妻が。

「何かおかしいか?」
「普通、旦那さんはそう言う事言わないよ~!」
「俺の方が確実に、より『不束者』である自信がある」

 胸を張る黛を見て、七海はとうとう噴き出した。

「変な自信、持たないで!」

 笑い過ぎてお腹を押さえる七海を見て、何故か胸がすく様な満足感を覚える黛であった。


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『自信家』だったハズが、家庭ではむしろ自信家の皮を被った『ボケ担当』に。
……どちらにしろ、嫁が笑顔でいてくれれば満足な黛です。

お読みいただき、有難うございました。
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