平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。

ねがえり太郎

文字の大きさ
176 / 363
後日談 黛家の新婚さん2

(54)勝ち組ですか?

しおりを挟む
七海の会社で飲み会がありました。

(53)話で回想に出た、後輩に羨ましがられたお話です。

ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


課の飲み会で隣に座った今年入った新人と、これまで七海はあまり親しく話す機会が無かった。どちらかと言うと、岬と並び称されるような可愛らしい職場の華タイプである。隙の無いメイクと計算され尽くしたようなふんわりとした柔らかい髪型、身に着けている衣装も可憐な彼女の印象にたがわない愛らしいチョイスだ。爪先まで常に気を使い控えめなピンクベージュのネイルは好感の持てる色で染められている。

まあなんと可愛らしい。

と七海は隣にいる彼女、小日向こひなたかほりを見て思ったのだ。
その上何やらとても良い匂いがする。これは男の人が隣に座ったらイチコロかも、と別視点でついつい眺めてしまう。

「江島さんってこの間ご結婚されたんですよねー」
「あ、うん。元旦にね」
「いいなぁ~」

羨ましそうに言う声も可愛らしい。こちらこそ、その可愛らしさ羨ましい限りです……と七海は思いながら、レモンサワーに口を付けた。

「それに聞きましたよ!江島さんの旦那さんってお医者さまなんでしょ?」
「え……あ、まあそうだね」

黛は黛と言うだけで強烈な個性を持っているので、医者だと言う事実は七海の中でそれほど重いモノでは無い。改めて聞かれて『まあそうだな』と思うくらいだ。仕事が大変そうで気の毒だとは常に思うが。

「どうやってお医者さまの旦那さん捕まえたんですか?羨ましい!私もお医者さまと結婚した~い」
「え……そう?医者って仕事もキツイし、忙しいし大変だよ?」
「でもエリートじゃないですか、高給取りだし。多少会えなくても、バッグとかジュエリーとか買って貰って埋め合せしてくれるんじゃないですか?普段行けないようなラグジュアリーな高級レストランにエスコートしてくれたり~」

どうやら小日向は『医者=高給取り』だと言うイメージしか無いらしい。確かに黛の実家は金持ちだし黛本人も個人資産を持っていて、結婚後まるまる託された七海は少々眩暈を覚えたものだが……研修医の給料は決して多くは無いし、前期研修の二年を終了してもその後三~五年間ほど後期研修で専門的な仕事を身に着けなければならないらしく……とにかく一人前の医師になるのは十年くらい掛かるのだと聞いている。だから七海にとって今の黛は、高野山の修行僧かリングに上がる前の下積み中のプロレスラー練習生みたいなモノだと言う認識だった。黛によると高給取りやエリートと呼ばれる存在になるのはまだまだ先の事らしいので。

「医者って言っても研修医だから、お給料も私達とそんなに変わらないよ。それに一緒に買い物とか食事に行く時間もほとんど無いくらい忙しいし……見ていても可哀想なくらいだよ」

結婚して良かった事と言えば会う時間を増やせた、帰る場所が一緒になったと言うくらいだろうか。無駄使いが体に馴染まない七海には、あまり資産家に嫁に行ったと言う実感は無い。最近は玲子に連れ回されて滅多に行かないキラキラした場所や今まで着なかった素敵な服を着る機会も増えたが、誰かと一緒じゃなければ一人でお金を散財しても七海にとっては虚しいだけだ。

「え~~本当ですかあ?でもおウチ高級住宅街なんですよね?そんなとこに住んでいるなら実家も開業医とか……お金持ちなんでしょう?」

何故そこまで知っているのだろう?と思ったが、小日向は岬とよく話をしている場面を見掛けると思い出した。何となく情報ルートには想像が付く。

「確かに彼のお父さんもお医者さんだけど開業医じゃなくて雇われてるだけだし、同居しているけど家計は切り離しているからご両親の事はよく知らないんだよね。仕事ばっかりで贅沢しているイメージ全然ないし」

時折物凄い突飛な情報が出て来て驚かされる事があるが、基本的に七海は詮索するタイプでは無いので龍一と玲子の二人に関しては未だに謎のままの部分が多い。龍一に至っては朝、顔を合わせなければ一日中会わずに終わるのでどんな性格なのかも把握しきれていない。知っているのは好き嫌いが無い事と、寡黙でメールがちょっと可愛いというくらいか。玲子のジャズピアニストと言う職業の方が派手過ぎて、医者と言う仕事はまだ真っ当な普通の職業枠に入るような気がしてしまう。

そう言えば、とこの間顔を合わせた黛の同僚である遠野と、以前突っかかって来た加藤の事を思い出した。

「でも確かに夫の同僚には多いかも。顔を合わせた人は二人とも開業医の息子さんと娘さんだったよ」
「え!」

キランと、小日向の瞳が光った気がした。

「その同僚の方……独身ですか?」
「……ええと……二人とも独身だったと思うけど……」
「『娘』はどうでも良いんです!『息子』!息子の方紹介してください!」
「ええっと……」

期待に目を輝かし身を乗り出す小日向の勢いに、七海は身を竦めた。余計な事を口走ってしまったのだとやっと気が付いた。

「えーっと、その人もう婚約者がいるらしくて……」
「えー!売約済みですか!なーんだ」
「す、すいません……」

七海は何故か敬語で謝ってしまう。

「他にいないんですか?合コン組んでくださいよ~」
「ご、合コン?」

『合コン』などと言う華やかな行事に参加した事も誘われた事も無い七海は、ドギマギして狼狽えた。

「えっと、忙しいから難しいんじゃないかと……」
「ちょっと聞いてみるだけ!需要があるかもしれないんですから、聞いてみるだけ!」
「……ええと……」
「駄目だったら引きますから……!」
「あ、う……うん、それなら……」
「絶対ですよ……!あ~本当に羨ましいなー、私も江島さんみたいに勝ち組になりたいです!」
「か、勝ち組……」

小日向は岬とちょっと違うタイプの肉食系カワイ子ちゃんだった。
医者と結婚すると『勝ち組』と分類される事もあるのだと改めて認識するとともに、後輩女子の逞しさに、勢いに押され気味になりながらもついつい感心してしまう七海であった。



ーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーーー

「こういう逞しさがあれば、私も恋愛の一つや二つ経験できたと思うのよね」
「お前……何感心してるんだ?まさか今から見習おうとしてるんじゃ……」
「しないしない、そんなエネルギーありません(黛君だけで手一杯)」

などと言う遣り取りがあったとか無かったとか。

お読みいただき、有難うございました。

しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。

BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。 父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した! メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!

【短編】婚約破棄?「喜んで!」食い気味に答えたら陛下に泣きつかれたけど、知らんがな

みねバイヤーン
恋愛
「タリーシャ・オーデリンド、そなたとの婚約を破棄す」「喜んで!」 タリーシャが食い気味で答えると、あと一歩で間に合わなかった陛下が、会場の入口で「ああー」と言いながら膝から崩れ落ちた。田舎領地で育ったタリーシャ子爵令嬢が、ヴィシャール第一王子殿下の婚約者に決まったとき、王国は揺れた。王子は荒ぶった。あんな少年のように色気のない体の女はいやだと。タリーシャは密かに陛下と約束を交わした。卒業式までに王子が婚約破棄を望めば、婚約は白紙に戻すと。田舎でのびのび暮らしたいタリーシャと、タリーシャをどうしても王妃にしたい陛下との熾烈を極めた攻防が始まる。

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

処理中です...