平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。

ねがえり太郎

文字の大きさ
351 / 363
太っちょのポンちゃん 社会人編9

唯ちゃんと、シェアハウスの住人(16)

しおりを挟む
ここから、お話は過去に戻ります。


ーーーーーーーーーーーーーーーーーーー


 コンコン

 遠慮がちに自室のドアを叩く音に気が付き、戸を開けると三島君がいた。
 幽鬼のようなその佇まいに恐怖を感じ、思わず無言で戸を閉じてしまう。

 ドンドンドン!

 今度は強めに戸がノックされる。隣室から苦情が来てはやっかいなので、仕方なく細く戸を開けた。
 そこにガッと手を掛けて、三島君は体をねじ込んで来る。

 腹が立つと言うより、気味が悪い。何故ならここまでの動作を、彼は無言でやり通したのだ。
 いつもヘラヘラしていたり余計なことまでぺちゃくちゃ喋ったりする、むしろ騒がしいと言う形容が似合う彼が、別人のように暗い顔をしている。押し返すのも怖くて、仕方なく後退りして机の前の椅子に腰を下ろした。すると三島君はスタスタと目の前を通り過ぎ、勝手に俺のベッドに腰掛ける。
 俯きがちに盛大な溜息を吐いてから、彼がボソボソと話し始めたのは―――やはりと言うか当然と言うか、土屋さんのことだった。

 曰く、
『ツッチーが、口をきいてくれない』
『口をきくどころか、目も合わせてくれない』
 なんなら
『三メートル先にいるのを視界にとらえただけで逃げられる』

―――さに、あらん。

「あれだけ釘をさされれたんだ。まともな神経をしていれば、そうなるだろ」

 正直もうこのゴタゴタには関わりたくは無かったのだが、憔悴した彼の様子に諦めて俺も口を開く。

「『あれだけ』……?」

ポカンとしている三島君に俺は、カレーパーティでの出来事を説明する事にした。あくまで淡々と、事実のみを。

「カレーパーティの時、三島君が唯さんと消えただろ?」
「え、あ……うん」

 そこで突然三島君は慌てたように目を泳がせた。
 チリリと胸が痛む。俺はまだあの時の三島君の曖昧な態度を、腹立たしく思っているのだ。なのに親切にも彼にあの後の説明をするなんて、本当は馬鹿らしくてやってられない気分である。

 ただ土屋さんが彼を避けるのは、佳奈とか言う女の攻撃によるもので。あの女から理不尽な攻撃を土屋さんが受けてしまったのは、そもそも三島君がキチンとあの女に引導を渡さないからだと思った。
 三島君は土屋さんを追いかける一方で、あの女にも良い顔をしている。その所為で土屋さんが不利益を被った。それを元凶の三島君が知らないのは、確かにフェアじゃない。
 俺が知っている範囲のことは僅かだろうが、三島君に伝える意義はあるだろう、と考えた。

「お前が消えた後、佳奈とか言う女が唯さんを悪く言ったんだ。それを土屋さんが庇って、あの女に八つ当たりされた。何て言ったっけ? 確か―――そう『三島君は毛色の違う野良猫を構うみたいに、ボッチな人間をほっとけ無いだけだ』とか」
「え……は?」

 そこで落ち込んだ様子で下ばかり見ていた三島君が、ポカンと顔を上げた。
 何とも間抜けな顔だ。理解が追い付いていないのだろうか。

「そうそう、こうも言っていたな。『好かれてるって、上から目線の態度で接するな』とかなんとか」
「ええ?!」

 三島君は今度は蒼白になって立ち上がり、椅子に背を預けている俺の肩をガっと掴んだ。

「な、何でそんなこと―――カケルは黙って聞いてたのか?!」

 責める口調に俺はムッとして、彼の手を払いのけた。

「流石に腹が立って遮ったよ。だけど土屋さんは、碌に反論もせずに出て行ったんだ」
「そんな……それを早く言ってくれれば……」

 恨みがましい視線を向けられた俺は、舌打ちせんばかりに言い返した。

「あのな、三島君だって俺に黙っていることあるだろ?」
「え……」
「唯さんのことだよ! 俺が聞いても、はぐらかしてさ。彼女と一体どういう関係なんだ? あの女が言うように、本当に付き合ってたのかよ?」
「ええ? なワケ……っ!……ああっもう!」

 三島君は首を振って後退り、ドサリと再びベッドに腰を下ろした。
 それから観念したように、ボソリと呟いた。

「……言い辛かったんだよ」

 告白の気配に、俺はゴクリと唾を飲み込んだ。覚悟を決めて、改めて尋ね直す。

「やっぱり、元カノなのか?」
「違うよ! 友達のねぇちゃん……と言うか、友達の兄ちゃんの彼女……いや、もう結婚したから、やっぱ『義姉ねぇちゃん』でいいのか?」
「えっ……」

 結婚?

「え? でも彼女、俺より年下じゃあ……」
「何でだよ。働いてるだろ? 唯ちゃんは俺達よりずっと年上だよ。確か五つか六つ……」
「え……え? 五つ……?」
「唯ちゃんは、よく友達の―――あらたん家に遊びに来ていて、俺もよく遊んで貰ったんだ。新とは中学は違ったから一時疎遠になってたけど、最近また交流が復活して。そんでこのシェアハウスも紹介して貰ったんだ。でも唯ちゃんの話まではしてなくて……」

 頭が真っ白になった。

「唯ちゃんに遊んで貰っていたのは俺が小学生の頃だから……そもそも付き合うとか言う関係じゃないよ」
「結婚って……」
「そう! それ! カケル、気が付いて無かったの?」

 今度は三島君が、呆れたように溜息を吐いた。

「いや、俺より若いって思ってたから……」

 だけどショックで思考が混線している俺は、ボンヤリとそう言うしかない。だって、そうなんだ。そんなこと考えても見なかったから。

「指輪してただろ?」

 指輪?……してたか?
 女性がキラキラした物を身に着けていることはあるけれども、男の俺には興味の無いものだ。特にどんなものを着けているかなんて、注目してはいない。

「いや、俺アクセサリーってあんまり分からないから……」
「えー!」

 三島君は両頬を押さえて、悲鳴を上げた。

「結婚指輪だよ?!……左手の薬指に指輪してたら、既婚者でしょ? 常識だよ? 知らないの?!」

 まるで俺が非常識な人間とでも言わんばかりに、目を丸くする。
 しかしハッと我に返ったように首を振って、口元に手を当てた。一転して独り言のように、トーンを落としてブツブツ言い始める。

「いや、そっか……やっぱそうか……そうだよな。変だなーって、思ったんだ。もしかして『既婚者であっても好きだ』って意味なのかな? って、思ってさ。それなら傷口に塩を塗る様なこと言えないな……って。話題にするのも、遠慮してたんだけど。そうか、まさか、指輪の意味を知らない人間がいるとは思わなかった……」

 それからパッと表情をクリアにして、三島君は俺を正面から見据えた。

「いや、でも漸くつながったよ! そうだよね、カケル『人妻好き』ってワケでも、なかったんだね。心配して損した! そっか、そっかー……」

 頭をガンと殴られたような衝撃を受けて、俺は覚醒した。

「はぁあ……俺が?! まさか!」

 まさか妙な誤解で、俺を気遣って(?)言葉を濁していたとは……!
 怒りを覚えた俺の前で、ホッとしたように三島君は胸を撫で下ろした。

「いやさ、一見真面目そうに見える地味な人って、意外にも道に外れたことに興奮する性質だったりするじゃない?」

 俺はアングリと口を開けて、二秒ほどパクパクと空を食べる。
 そして、今度は俺がこう怒鳴り返した。



「……なワケあるかっ!」
しおりを挟む
感想 104

あなたにおすすめの小説

【完結】物置小屋の魔法使いの娘~父の再婚相手と義妹に家を追い出され、婚約者には捨てられた。でも、私は……

buchi
恋愛
大公爵家の父が再婚して新しくやって来たのは、義母と義妹。当たり前のようにダーナの部屋を取り上げ、義妹のマチルダのものに。そして社交界への出入りを禁止し、館の隣の物置小屋に移動するよう命じた。ダーナは亡くなった母の血を受け継いで魔法が使えた。これまでは使う必要がなかった。だけど、汚い小屋に閉じ込められた時は、使用人がいるので自粛していた魔法力を存分に使った。魔法力のことは、母と母と同じ国から嫁いできた王妃様だけが知る秘密だった。 みすぼらしい物置小屋はパラダイスに。だけど、ある晩、王太子殿下のフィルがダーナを心配になってやって来て……

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

舌を切られて追放された令嬢が本物の聖女でした。

克全
恋愛
「カクヨム」と「小説家になろう」にも投稿しています。

冤罪をかけられた上に婚約破棄されたので、こんな国出て行ってやります

真理亜
恋愛
「そうですか。では出て行きます」 婚約者である王太子のイーサンから謝罪を要求され、従わないなら国外追放だと脅された公爵令嬢のアイリスは、平然とこう言い放った。  そもそもが冤罪を着せられた上、婚約破棄までされた相手に敬意を表す必要など無いし、そんな王太子が治める国に未練などなかったからだ。  脅しが空振りに終わったイーサンは狼狽えるが、最早後の祭りだった。なんと娘可愛さに公爵自身もまた爵位を返上して国を出ると言い出したのだ。  王国のTOPに位置する公爵家が無くなるなどあってはならないことだ。イーサンは慌てて引き止めるがもう遅かった。

【完結】 メイドをお手つきにした夫に、「お前妻として、クビな」で実の子供と追い出され、婚約破棄です。

BBやっこ
恋愛
侯爵家で、当時の当主様から見出され婚約。結婚したメイヤー・クルール。子爵令嬢次女にしては、玉の輿だろう。まあ、肝心のお相手とは心が通ったことはなかったけど。 父親に決められた婚約者が気に入らない。その奔放な性格と評された男は、私と子供を追い出した! メイドに手を出す当主なんて、要らないですよ!

【完結】 私を忌み嫌って義妹を贔屓したいのなら、家を出て行くのでお好きにしてください

ゆうき
恋愛
苦しむ民を救う使命を持つ、国のお抱えの聖女でありながら、悪魔の子と呼ばれて忌み嫌われている者が持つ、赤い目を持っているせいで、民に恐れられ、陰口を叩かれ、家族には忌み嫌われて劣悪な環境に置かれている少女、サーシャはある日、義妹が屋敷にやってきたことをきっかけに、聖女の座と婚約者を義妹に奪われてしまった。 義父は義妹を贔屓し、なにを言っても聞き入れてもらえない。これでは聖女としての使命も、幼い頃にとある男の子と交わした誓いも果たせない……そう思ったサーシャは、誰にも言わずに外の世界に飛び出した。 外の世界に出てから間もなく、サーシャも知っている、とある家からの捜索願が出されていたことを知ったサーシャは、急いでその家に向かうと、その家のご子息様に迎えられた。 彼とは何度か社交界で顔を合わせていたが、なぜかサーシャにだけは冷たかった。なのに、出会うなりサーシャのことを抱きしめて、衝撃の一言を口にする。 「おお、サーシャ! 我が愛しの人よ!」 ――これは一人の少女が、溺愛されながらも、聖女の使命と大切な人との誓いを果たすために奮闘しながら、愛を育む物語。 ⭐︎小説家になろう様にも投稿されています⭐︎

妹がいなくなった

アズやっこ
恋愛
妹が突然家から居なくなった。 メイドが慌ててバタバタと騒いでいる。 お父様とお母様の泣き声が聞こえる。 「うるさくて寝ていられないわ」 妹は我が家の宝。 お父様とお母様は妹しか見えない。ドレスも宝石も妹にだけ買い与える。 妹を探しに出掛けたけど…。見つかるかしら?

大切にしていた母の形見のネックレスを妹に奪われましたが、それ以降私と妹の運は逆転しました!

四季
恋愛
大切にしていた母の形見のネックレスを妹に奪われましたが、それ以降私と妹の運は逆転しました!

処理中です...