平凡地味子ですが『魔性の女』と呼ばれています。

ねがえり太郎

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番外編 裏側のお話

(111)久石君の事情 1(★)

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七海の同僚、川奈と黛の同僚、久石のお話です。裏設定の説明のようなお話です。

※トラウマ、心因性の病気の話があります。R表現は無い(もしくは薄い)予定ですが、昔の嫌な体験を振り返る描写がありますので、不安に思う方は回避していただくよう、よろしくお願いします。
こちらを読まなくても今後のお話を読み進めるのに支障はありません。
※なろう版とは一部内容が異なります。

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後輩の小日向が仕切った合コンで、川奈美玖みくは久石と出会った。久石徹は見た目はシュッとしている、短髪に銀縁眼鏡の小洒落こじゃれた男だ。同僚の江島七海の夫と同じ大学病院で働いている研修医との事。七海の夫のように目を瞠るほどの美男イケメンと言う訳では無いが十分格好良いし将来はお医者様、わざわざ合コンで彼女を見つけなくても女の人が圧倒的に多い職場で勝手に寄って来るのでは?……と川奈は単純にそう考えたが、聞くところによるとお医者未満の研修医は忙しく働く看護師には少し鬱陶しい相手であるらしく、キツク当たられて日々落ち込んでしまうそうだ。プライベートでも仕事を思い出すのは厳しいので、恋愛対象は職場外で探したいと言う者もいるのだと言う。
川奈はそんなものか……?とあまりピンと来なかったが、久石はそう言うワケで声を掛けられたこの合コンに参加する事に決めたらしい。

「職場って、看護師さんばかりじゃないでしょう?受付の事務の女の子とか……それに看護師さんもキツク当たる人ばかりじゃないんじゃない?」

何度か一緒に出掛けて親しくなった後、川奈は直球で聞いてみた。すると久石は少し逡巡してからポツリと答えた。

「うん、受付の子とは……付き合った事がある」

どうやらその子とは上手く行かなかったらしい。

久石は見た目も良いし、医者と言うエリートっぽい職業についているのに傲慢な所も無く、話題も豊富で感じが良い。入れ食い状態でもおかしくはないなぁ……と川奈は思う。彼は看護師が怖いと言う事だが、皆が皆アタリが強いわけではないだろうし、職場で厳しく接する看護師もプライベートではまた違うのではないかとも思う。周りがほうっておかなそうなのに何故フリーなんだろう?と、やはり川奈は不思議に思ってしまうのだった。






暫くして二人は正式に付き合う事になった。一般的な事務職員で、やる気もまぁまぁ、見た目もそれなり。卑下する訳では無いが、特に育ちが良いと言う訳でもない普通のOLで良いのだろうか?と正直自分でも思わないでも無いが、川奈としては話も合うし落ち着いた性格の久石を気に入っていたので、彼からそう申し出てくれた時は本当に嬉しかった。

川奈がキチンと男女付き合いをしたのは大学卒業直後の一年間ほど。それまで友人付き合いのようなデートだけで終わった彼氏とか、グループで遊ぶちょっと仲の良い男友達はいたのだが、体の付き合いまで至ったのはその彼氏だけだった。
優しい彼氏だった。穏やかでいつもニコニコしていて同学年だが一浪で一つ年上だった所為か大人びているように見えて、一緒にいて安心感があった。

しかし……昼間の彼は優しかったが、夜の彼は川奈にとってあまり優しい存在では無かった。性欲が強いのか会うたび求められ、抱かれる度に毎回痛くて苦しくて辛かった。何しろ川奈にとって彼は初めての相手だったのだ。しかもAVを見るのが趣味で、何故か川奈と一緒にいる時にそれを見るのだ。特殊なプレイが無かったのは良かったのだが……少し初心者が引いてしまうような要求をされて内心戸惑っていた。突き上げられて痛かったり苦しかったりするので、つい呻き声が出てしまう。何だか抗議するのも悪いような気がして歯を食いしばって堪えていたのだが、何故か相手はそれを川奈が感じているからだと誤解していたらしい。そう揶揄うように指摘されて何と言って良いか分からず黙っていたら、相手は恥ずかしがっているものと了解してしまったようだった。
誤解を解くべきか、このまま黙っていればいずれ相手の言うように性交渉自体に歓びを感じるようになるのだろうか……と悩んでいる内に、結局お互い仕事が忙しくなり、すれ違いが多くなって相手から別れを切り出される事となった。日常に疲れきって、つらいセックスをしたくなかった。顔を合わせてもベッドを断る場面が増えた所為で振られたのかもしれないと、川奈は後々この事を思い出した時何となくそう考えた。

別れを切り出された時、馴染んだ相手との別れを寂しく思ったものの……何となくホッとしたのも事実だった。相手に友情と愛着を感じていたものの、執着するほど好きと言う訳じゃ無かったのだ。別れた後に漸くその事に気が付かされた。

以来、どうしても男女の付き合いに至る前に一歩引いてしまう。だからこれまで深い付き合いをする相手はいなかったのだが……二十七歳、アラサーと言っても支障のない年になってこのままじゃ駄目だと思い始めていた。そんな時同僚の一つ年下の七海が結婚する事になり、年下で恋愛に前向きな小悪魔系美女の小日向が七海の伝手を使って合コンを開催すると聞いて、思い切って参加する事にしたのだ。
ただどうしても彼氏を作ろうと意気込んでいた訳では無い。川奈にあったのは、あまり恋愛事に熱心で無かった七海を捕まえた夫を見てみたかったと言うミーハー心と、まずはリハビリに男友達でも作って見ようか、と言うそんな気楽な思い付きだった。ランチ合コンと言う軽いノリなら、そんな好奇心程度しか持ち合わせていない川奈でも参加し易い感じがしたのだ。

そこで思いも寄らず研修医の久石と意気投合する事になった。最初はSNSでの遣り取りや休みが合えば映画に行ったりご飯を食べたりと―――友達以上恋人未満のような付き合いが続いて、つい最近久石が「付き合って欲しい」と言葉にしてくれたのだ。

正式に付き合う事を了承して暫くした後、久石から改まって食事に誘われた。ちょっと良いホテルの和食懐石に舌鼓を打ちお酒を酌み交わしほろ酔い気分でいた時に、彼からこのままホテルに泊まる事を提案された。
少し迷ったものの、川奈は頷いた。ちゃんと恋人として申し込んでくれてから誘ってくれたのだし、もう自分は結婚していたっておかしく無い年なのだ。何より川奈は久石の事を気に入っていた。少々昔の嫌な想い出に服の裾を引っ張られはするものの……飛び込んでみて良いのではないかと思った。もし久石とも上手く出来なかったら、この先他の相手ともちゃんと性交渉が出来ないような気がした。それにもう、川奈は大学を出たての初心うぶな頃とは違う。恋愛では無く仕事の場面ではあるが、社会で揉まれ駄目な事や嫌な事をやんわりと断る訓練もある程度経験した。ただ黙って不満を抱えたまま我慢する付き合いに留めるのではなく、今度はちゃんと相手と正直に向き合おうと思った。―――久石となら、それが出来るような気がしたのだ。

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