悪役令息に転生したから断罪ルート回避しようとした結果、王太子殿下を溺愛してる

琥月ルル

文字の大きさ
3 / 80

3.図書館にて

しおりを挟む
エドワードの好きなところはたくさんある。

俺とふたりきりのとき限定で見せてくれる屈託のない笑顔とか、拗ねたときにとんがる綺麗な形の唇とか。
照れたときに伏し目がちになって長い睫毛が頬に影をつくるところとか、疲れているときに甘やかされるといつもは誰にも見えないように隠してる弱音が零れてしまうところとか。
出会ったときに思わず目を奪われた美貌も、日に日に美しさを増している。

冬生まれのエドワードは、ひと月ほど前に十六歳の誕生日を迎えた。
見た目も中身もまさに白馬の王子様という言葉がぴったりで、文句のつけようがない完璧な王太子だ。
エドワードに憧れたり懸想したりしている令嬢は学園にもたくさんいて、ファンクラブのようなものまである。
王宮で行われた誕生日パーティーでも、エドワードの婚約者候補になりうる良家の令嬢方が熾烈なバトルを繰り広げていた。

つまり、エドワードに想いを寄せている人間は俺だけじゃないってことだ。でも、正直俺よりエドワードのことを知ってる人間はあんまりいないんじゃないかとも思う。
俺はそんな子どもじみた優越感を後ろ手に隠しながら、彼を見るたびに胸が高鳴ったり締め付けられたりするのは、全部気の迷いだと言い聞かせてきた。

この国では、同性愛はタブーではない。同性間の結婚は許されているし、魔法科学と医術を組み合わせれば子供もできる。とはいえ、王族や高位貴族の同性婚は認められにくい風潮があり、本当に珍しい。
どうせエドワードの婚約者にはイザベラみたいな高貴な出自の令嬢が選ばれるんだろうなぁという諦観が、俺をこんな臆病者にしていた。

正式な配偶者になれなさそうだからって、将来は互いに令嬢を正妻に迎え、こそこそ密会して睦み合うような愛人関係になることを前提に告白するのも嫌すぎる。
俺はエドワードを不誠実な男にしたくないし、俺だって不誠実な男になりたくない。
なまじ先のことまで頭が回ると、こういう勢いが大事そうな場面で二の足を踏んで動けなくなるから厄介だ。

そんなわけで、俺はもう何年もエドワードが好きだという気持ちに鍵をかけようとしてきた。

「ウィリアム。どうした、ウィリアム。体調でも悪いのか?」

図書館に向かっている途中だというのに、少しぼんやりしてしまっていたようだ。隣を歩いていたエドワードが、心配そうに顔を覗き込んでくる。
七歳のときは女の子と間違えそうになるくらい可愛らしい顔立ちをしていたエドワードも、今や立派な美青年だ。
アイスブルーの瞳は切れ長で涼やかな印象を受けるし、まろい頬もすっきりとして、男性らしさのある優美な顔立ちをしている。

「ううん、体調は悪くないよ。ごめんね。もしかして何度も話しかけてくれてた?あなたのことを考えてたんだ」
「私のことを?」
「そう。あなたはいつ見てもかっこよくて綺麗だなぁって」

にこにこ微笑みながら柔らかな声で囁くと、エドワードは「そうか」と小さく呟いて目を伏せる。頬がほんのり赤く染まっているのがいじらしい。

『セカ愛』のエドワードも目が覚めるほどの美形だったが、なんとなく現実の彼の方が表情豊かであどけない雰囲気だ。
ゲームに出てくるエドワードは、王太子としての責任やプレッシャーに押しつぶされそうになっていた。そんな彼を聖女であるヒロインが優しく包み込むことで、距離が縮まっていくのだ。
それに対し、現実のエドワードは何でもひとりで抱え込もうとする癖はあるものの、限界が来る前に俺が甘やかしているからか、思い詰めた表情をすることは少ない。

他愛のない会話もしながら廊下を歩いているうちに、図書館に到着する。
王立学園高等部の附属図書館はかなりの蔵書数を誇り、ありとあらゆる年代や地域の書籍が揃っていることで有名だ。
今日は二時間目の授業が自習になったので、課題のレポートを終わらせてしまおうというエドワードの誘いを受けて図書館に来ていた。
来週末が提出締切の課題だというのに、エドワードは本当に真面目で頑張り屋だ。
俺が前世で大学生してたときなんて、課題はギリギリまで手をつけなかったし、前日の夜は終わらなすぎてエナジードリンクを片手に半泣きで徹夜してたからね。

「王国史関連の本はこのあたりかな」
「随分たくさんあるね。こんなにあると、どれを借りるか迷ってしまうな」

ひそひそと小声で話しながら、おびただしい数の本の中から良さそうなものを探す。
俺は気になった本を何冊か抜き取り、本棚とにらめっこしているエドワードの横顔にちらりと視線を流した。

星を散りばめたような金髪は感嘆のため息が出るほど艶やかで、切れ長のアイスブルーの瞳は長い睫毛に彩られている。

相変わらず綺麗だけど、明らかに顔色が悪い。柔らかそうな赤い唇はきゅっと引き結ばれていて、病人のように青白い頬とのコントラストに不安を煽られる。

エドワードは、朝からあまり具合が良くなさそうだった。今日は特に寒いし、疲れも溜まっているのだろう。
本人が隠そうとしてるみたいだからわざわざ指摘するのも無粋だと思い、俺は気付いてない振りをしながら細心の注意を払っていた。

「あっ」

思わず零れたというような、無防備で小さな声があがる。
本棚の一番上の段にある本を取ろうとつま先立ちをしていたエドワードが、ふらりと揺れて体勢を崩した。
後ろに倒れそうになる体を背後からとっさに抱き込み、頭上に降ってきそうになっていた本を手のひらで受け止める。

「……すまない、ありがとう」

エドワードが申し訳なさそうな声で謝る。
ひとまず、彼に怪我がなくて良かった。俺は安堵から細く息を吐いた。
落ちてきた本を本棚に戻し、エドワードの腰に両腕を回してもう一度ぎゅっと抱きしめる。

「あまり無理はしないで、エドワード。朝から体調がすぐれないんだろう」

耳元に唇を寄せ、柔らかな声で優しく囁いた。
責めたいわけじゃなくて心配してるんだよって、ちゃんと伝わるように。

「気付いていたのか」
「なんとなくね。あなたは不調を隠すのが上手だから、他の生徒たちは気付いてないはずだよ」

エドワードの手に自分の手を重ねて、そっと包み込むように握った。腕の中の体がぴくんと小さく跳ねたのを感じる。

「エドワードはいつも頑張っていて本当にえらいね。でも、どうか自分のことをもっと大切にしてあげてほしい。俺はあなたが頑張りすぎて倒れてしまわないか不安なんだ」
「うん……」
「ね、エドワード。この後は課題をしないでプライベートサロンでお茶にしよう。課題の提出期限は来週末だから余裕があるし、これからふたりでゆっくり過ごすのはどうかな」

背後から抱き込んだまま、肩に軽く顎を乗せて、ふわふわ微笑みながら反応を見る。
至近距離で見ても文句のつけようのない美男子。さすが『セカ愛』屈指の人気を誇っていたメイン攻略対象だ。
もちろん俺は、全部ひっくるめて現実のエドワードの方が何倍も好きだけどね。

「そうだな。君の言う通り、今日はあまり体の調子が良くないんだ。寒いから活力も湧かないし、こんなことを言ったら叱られてしまうけど、今朝も本当はベッドから出たくなかったよ」

エドワードはそう言って無邪気に笑うと、腰に回された俺の腕を猫のようにぺしぺしと可愛らしい力で叩いた。
大人しく腕を外して解放してやると、体の向きを変えて俺と向き合い、しっかり目を見ながら「ありがとう」と微笑む。俺はエドワードのこういう律儀なところも好ましく思っていた。
しおりを挟む
感想 37

あなたにおすすめの小説

【完結】悪役令嬢モノのバカ王子に転生してしまったんだが、なぜかヒーローがイチャラブを求めてくる

路地裏乃猫
BL
ひょんなことから悪役令嬢モノと思しき異世界に転生した〝俺〟。それも、よりにもよって破滅が確定した〝バカ王子〟にだと?説明しよう。ここで言うバカ王子とは、いわゆる悪役令嬢モノで冒頭から理不尽な婚約破棄を主人公に告げ、最後はざまぁ要素によって何やかんやと破滅させられる例のアンポンタンのことであり――とにかく、俺はこの異世界でそのバカ王子として生き延びにゃならんのだ。つーわけで、脱☆バカ王子!を目指し、真っ当な王子としての道を歩き始めた俺だが、そんな俺になぜか、この世界ではヒロインとイチャコラをキメるはずのヒーローがぐいぐい迫ってくる!一方、俺の命を狙う謎の暗殺集団!果たして俺は、この破滅ルート満載の世界で生き延びることができるのか? いや、その前に……何だって悪役令嬢モノの世界でバカ王子の俺がヒーローに惚れられてんだ? 2025年10月に全面改稿を行ないました。 2025年10月28日・BLランキング35位ありがとうございます。 2025年10月29日・BLランキング27位ありがとうございます。 2025年10月30日・BLランキング15位ありがとうございます。 2025年11月1日 ・BLランキング13位ありがとうございます。 第13回BL大賞で奨励賞をいただきました。これもひとえに皆様の応援のおかげです。本当にありがとうございました。

だから、悪役令息の腰巾着! 忌み嫌われた悪役は不器用に僕を囲い込み溺愛する

モト
BL
2024.12.11~2巻がアンダルシュノベルズ様より書籍化されます。皆様のおかげです。誠にありがとうございます。 番外編などは書籍に含まれませんので是非、楽しんで頂けますと嬉しいです。 他の番外編も少しずつアップしたいと思っております。 ◇ストーリー◇ 孤高の悪役令息×BL漫画の総受け主人公に転生した美人 姉が書いたBL漫画の総モテ主人公に転生したフランは、総モテフラグを折る為に、悪役令息サモンに取り入ろうとする。しかしサモンは誰にも心を許さない一匹狼。周囲の人から怖がられ悪鬼と呼ばれる存在。 そんなサモンに寄り添い、フランはサモンの悪役フラグも折ろうと決意する──。 互いに信頼関係を築いて、サモンの腰巾着となったフランだが、ある変化が……。どんどんサモンが過保護になって──!? ・書籍化部分では、web未公開その後の番外編*がございます。 総受け設定のキャラだというだけで、総受けではありません。CPは固定。 自分好みに育っちゃった悪役とのラブコメになります。

【完結】転生した悪役令息は、お望み通り近付きません

カシナシ
BL
「お前など、愛す価値もない」 ディディア・ファントム侯爵令息が階段から落ちる時見たのは、婚約者が従兄弟を抱きしめている姿。 (これって、ディディアーーBLゲームの悪役令息じゃないか!) 妹の笑顔を見るためにやりこんでいたBLゲーム。引くほどレベルを上げた主人公のスキルが、なぜかディディアに転生してそのまま引き継いでいる。 スキルなしとして家族に『失敗作』と蔑まれていたのは、そのスキルのレベルが高すぎたかららしい。 スキルと自分を取り戻したディディアは、婚約者を追いかけまわすのを辞め、自立に向けて淡々と準備をする。 もちろん元婚約者と従兄弟には近付かないので、絡んでこないでいただけます? 十万文字程度。 3/7 完結しました! ※主人公:マイペース美人受け ※女性向けHOTランキング1位、ありがとうございました。完結までの12日間に渡り、ほとんど2〜5位と食い込めた作品となりました!あああありがとうございます……!。゚(゚´Д`゚)゚。 たくさんの閲覧、イイね、エール、感想は、作者の血肉になります……!(o´ω`o)ありがとうございます!(●′ω`人′ω`●)

悪役令息の伴侶(予定)に転生しました

  *  ゆるゆ
BL
攻略対象しか見えてない悪役令息の伴侶(予定)なんか、こっちからお断りだ! って思ったのに……! 前世の記憶がよみがえり、反省しました。 BLゲームの世界で、推しに逢うために頑張りはじめた、名前も顔も身長もないモブの快進撃がはじまる──! といいな!(笑) 本編完結済、ロデア大公立学園編、はじめました! 本編のあと、恋愛ルートやおまけのお話に進まずに、すぐロデア大公立学園編に続く感じです。 きーちゃんと皆の動画をつくりました! プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったら、お話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです。 本編以降のお話、恋愛ルートも、おまけのお話の更新も、アルファポリスさまだけです! 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

余命僅かの悪役令息に転生したけど、攻略対象者達が何やら離してくれない

上総啓
BL
ある日トラックに轢かれて死んだ成瀬は、前世のめり込んでいたBLゲームの悪役令息フェリアルに転生した。 フェリアルはゲーム内の悪役として15歳で断罪される運命。 前世で周囲からの愛情に恵まれなかった成瀬は、今世でも誰にも愛されない事実に絶望し、転生直後にゲーム通りの人生を受け入れようと諦観する。 声すら発さず、家族に対しても無反応を貫き人形のように接するフェリアル。そんなフェリアルに周囲の過保護と溺愛は予想外に増していき、いつの間にかゲームのシナリオとズレた展開が巻き起こっていく。 気付けば兄達は勿論、妖艶な魔塔主や最恐の暗殺者、次期大公に皇太子…ゲームの攻略対象者達がフェリアルに執着するようになり…――? 周囲の愛に疎い悪役令息の無自覚総愛されライフ。 ※最終的に固定カプ

転生したら同性の婚約者に毛嫌いされていた俺の話

鳴海
BL
前世を思い出した俺には、驚くことに同性の婚約者がいた。 この世界では同性同士での恋愛や結婚は普通に認められていて、なんと出産だってできるという。 俺は婚約者に毛嫌いされているけれど、それは前世を思い出す前の俺の性格が最悪だったからだ。 我儘で傲慢な俺は、学園でも嫌われ者。 そんな主人公が前世を思い出したことで自分の行動を反省し、行動を改め、友達を作り、婚約者とも仲直りして愛されて幸せになるまでの話。

【完結】伴侶がいるので、溺愛ご遠慮いたします

  *  ゆるゆ
BL
3歳のノィユが、カビの生えてないご飯を求めて結ばれることになったのは、北の最果ての領主のおじいちゃん……え、おじいちゃん……!? しあわせの絶頂にいるのを知らない王子たちが、びっくりして憐れんで溺愛してくれそうなのですが、結構です! めちゃくちゃかっこよくて可愛い伴侶がいますので! ノィユとヴィルの動画を作ってみました!(笑)  インスタ @yuruyu0   Youtube @BL小説動画 です!  プロフのwebサイトから飛べるので、もしよかったらお話と一緒に楽しんでくださったら、とてもうれしいです! ヴィル×ノィユのお話です。 本編完結しました! 『もふもふ獣人転生』に遊びにゆく舞踏会編、完結しました! 時々おまけのお話を更新するかもです。 名前が  *   ゆるゆ  になりました。 これからもどうぞよろしくお願い致します! 表紙や動画はAIを使用していますが、文章にはAIを一切使用しておりません。

【完結】流行りの悪役転生したけど、推しを甘やかして育てすぎた。

時々雨
BL
前世好きだったBL小説に流行りの悪役令息に転生した腐男子。今世、ルアネが周りの人間から好意を向けられて、僕は生で殿下とヒロインちゃん(男)のイチャイチャを見たいだけなのにどうしてこうなった!? ※表紙のイラストはたかだ。様 ※エブリスタ、pixivにも掲載してます ◆この話のスピンオフ、兄達の話「偏屈な幼馴染み第二王子の愛が重すぎる!」もあります。そちらも気になったら覗いてみてください。 ◆2部は色々落ち着いたら…書くと思います

処理中です...