悪役令息に転生したから断罪ルート回避しようとした結果、王太子殿下を溺愛してる

琥月ルル

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4.サロンで楽しいひとときを

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それぞれ課題に役立ちそうな本を数冊借りて、東校舎に続く渡り廊下を進んでいく。
東校舎はそれなりに歴史のある古い建物ではあるものの、エドワードの入学に合わせてリフォームされているので内装は新しくて綺麗だ。

ちなみにプライベートサロンは、王妃様の要望で東校舎に新しく作られたという経緯がある。
華やかで趣味の良い調度品に囲まれたこんじんまりとした部屋で、少人数でのお茶会にぴったりの空間になっていた。
要するにエドワードが学友や婚約者候補の令嬢と親睦を深めるために作られた部屋なので、特に他の生徒たちの使用は禁止されていないが、みんな遠慮して使おうとしない。

そういうわけで、プライベートサロンはほとんどエドワードのための設備になっていた。

「お手をどうぞ、エドワード殿下」

恭しく腰を折って手を差し出せば、エドワードは「そういうポーズをしていると君が王子様みたいだな」と笑った。
手のひらに乗せられた綺麗な指先をそっと包み込み、部屋の中央にある椅子に座らせる。

エドワードを上座にエスコートしてから、俺はサロンに備え付けられた小さなキッチンに立ってお茶会の準備を始めた。

すべての食器に洗浄魔法をかけ、ケトルでお湯を沸かす。湯通しして温めたポットに茶葉を入れ、そこに沸騰したての熱湯を注いだ。
茶葉はこの前来たときに追加しておいたフローラという紅茶にした。フルーティーで上品な甘さが特徴で、エドワードが特に好んでいるものだ。
茶葉を数分ほど蒸らし、ポットの中をスプーンで軽くかき混ぜる。美味しい紅茶の淹れ方は、なかなか奥が深い。

こういう細々としたことは本来なら従者や執事の仕事だけど、王立学園は生徒の自立性を高めるという理念のもと、生徒が学園に従者を連れてくるのを禁止している。
その代わり、学園全体に強固な結界が張り巡らされているし、あちこちを警護騎士たちが巡回しているのだ。

王太子のエドワードですら、学園内ではいろんなことを自分でやっている。
このプライベートサロンでのお茶会だって、たしかに俺が準備することの方が多いけど、エドワードが紅茶を淹れてくれるときもある。
しっかりと教育を受けてきた貴族なら洗浄魔法のような簡単な生活魔法は誰でも使えるし、従者がいなくても、学園で生活する分には実はそんなに困らないんだよね。

俺は銀のトレーにポットとティーカップを乗せ、エドワードの待つテーブルに運んだ。
ティーカップに丁寧に紅茶を注いでいくうちに、湯気と一緒に華やかで甘い香りが漂い始める。

「お待たせ」
「ありがとう。いただくよ」

俺は自分のティーカップにも紅茶を注いで、エドワードの向かい側の椅子に腰を下ろした。
二時間目が終わったら昼休みだから茶菓子は用意していない。

「フローラか。良い香りだ」

紅茶の優しい香りを楽しみながら、エドワードは優雅にティーカップに口をつけた。
こくりと白い喉が動き、カップが音もなくソーサーの上に置かれる。
なんとも気品のある優美な所作だった。

「……美味しい」

しっとりと紅茶に濡れた唇が柔らかく綻び、少し冷たい印象を与える目元がふにゃんと和らいだ。
俺の淹れた紅茶を楽しんでいるエドワードを見ていると、こちらまで自然と満たされていくような気持ちになる。

「ウィリアム、何をしているんだ?せっかくの紅茶が冷めてしまうよ」

ふわふわと幸せな気持ちでエドワードのことを眺めていたら、不思議そうな顔で何をしているのか聞かれてしまった。

「あなたを見ていたんだ」

嘘をついても仕方がないので、にこにこしながら正直に答える。エドワードはきょとんとした顔で瞬きを繰り返していた。
ちょっと行儀が悪いのは承知のうえで、俺はテーブルから軽く身を乗り出して手を伸ばした。エドワードの少し乱れた前髪を指先で優しく整えながら、アイスブルーの瞳に微笑みかける。

「さっきよりだいぶ顔色が良くなったね」

ほっとした気持ちを乗せて柔らかな声で囁くと、図書館にいたときより血色の良くなった頬がさらにほんのりと赤く染まった。
淹れたての美味しい紅茶を飲んで、体の芯から温まってきたのだろう。血行が良くなれば、少しは体調も改善するはずだ。

俺は伸ばしていた手を引っ込めて、ようやく自分のティーカップに口をつけた。
うん、美味しい。
紅茶好きのエドワードに美味しいと思ってもらいたくて、たまに執事に付き合ってもらいながらお茶を淹れる練習とかしてるんだけど、その成果が出てきたのかもしれないな。

そんなことを考えながらティーカップをソーサーに置き、ふとエドワードの方に視線を向けると、彼も俺のことを見ていたようで目が合った。
そういえば最近、よく目が合うような気がする。俺が無意識にエドワードのことを視線で追ってしまってるからだと思うけど、視線が絡まる瞬間のときめきは筆舌に尽くし難いものがある。
あえて言語化するなら、きゅうっと胸が甘く締め付けられて、ほわほわと満たされていく感じだ。

「あったかくて美味しいね」

俺はなんだか嬉しくなり、にこっと微笑みながらエドワードの瞳を優しく見つめ返した。
彼は照れたように視線を右往左往させてから、ちらっ……と上目遣いで俺を見て、こくんと首を縦に振る。

そのあとは紅茶を飲みながら、昨今の国際情勢や社交界を賑わせているゴシップなど多岐にわたる話題で盛り上がった。

念のため入室したときに防音魔法をかけており、ここで話したことが外部に流出することはないとわかっているので、互いに言いたい放題である。
お茶会といえば、ご婦人方が世間話や他愛ない会話から腹の探り合いをしているようなイメージがあるかもしれない。でも、俺たちにとっては純粋に自由な議論を楽しめる空間なのだ。

「私が心で思っていることや考えていることを率直に話せる相手は君しかいないから、こうして有意義な議論ができて嬉しいよ。ありがとう、ウィリアム」

二時間目の終わりを告げるチャイムが鳴り、さぁ片付けをするかと席を立ったとき、エドワードがそう言って微笑みかけてくれた。

え、なにこれ夢?

俺はなんかもう本当にどうにかなってしまいそうだったし、手に持ってたティーポットを床に落としそうになった。
そりゃそうだ。好きな人から「君は特別」って言われたら誰だってめちゃくちゃになる。
前世はともかく、今世ではバキバキの童貞なのにえっちなお兄さんみたいな色気のある顔とエドワードにかっこよく思われたくてすぐに余裕のある態度を取ってしまう癖のせいで女遊びが上手いらしいとか百戦錬磨だとか適当な噂を定期的に流されてる俺も、君は特別だとか言われたらさすがに動揺する。

いや、まぁ、エドワードが『君はかけがえのない友人だよ』って伝えてくれたんだろうなっていうのはわかってるんだ。
でも、ちょっと期待しちゃったんだよ。もしかしたら俺にもチャンスがあるんじゃないかって。

「……あなたにそう思ってもらえて、俺は本当に嬉しいよ。あなたのおかげで毎日が楽しいんだ。こちらこそいつも素敵な時間をありがとう、エドワード」

なんとか平静を保って返事をするが、少し声が上擦って掠れてしまった。内心焦ったけど、照れているからだと思われたのか、エドワードは特に不思議がる様子を見せない。
というか、彼も俺の返事に照れているらしく、耳たぶを赤くしながら目を伏せていた。口元が嬉しそうに緩んでいるのを見て、あぁ、なんて可愛いひとなんだろうと思う。

恋心に鍵をかけるのは至難の業で、結局、今日も俺はエドワードのことが好きでたまらない。
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