聖女を追放した国の物語 ~聖女追放小説の『嫌われ役王子』に転生してしまった。~

猫野 にくきゅう

文字の大きさ
124 / 126
物語の終わり

第84話 再会 B

しおりを挟む


 僕は一瞬、迷った。

 この男が秘密警察の一員か何かで、こうやって不穏分子を炙りだしている可能性もあったからだ。

 それに、亡命の話が本当だとしても、成功する確率、そして亡命先のリーズラグドで、どのような扱いを受けるか――

 共に、未知数だ。



 でも、迷ったのは一瞬だけで、僕は首を縦に振った。
 
 リーズラグドには、彼女がいる。
 今どうしているのか、ちゃんとまだ生きているのかすら定かではないが、亡命すればステファとまた会える可能性がある。

 小さく、か細いが希望がある。
 僕はこの危険な賭けに乗ることにした。

 そして――








 戦争終結から、二年後。

 この二年間、僕はリーズラグド・ダルフォルネ領にある捕虜収容施設で暮らしながら、土木工事などの肉体労働に従事してきた。 


 亡命した僕たちは、なんとか生きながらえていた。

 僕が亡命してから少し経った頃に、ピレンゾルの国王ピレールが戦死したという情報が、この収容施設にも届いた。

 
 僕が姿を消したことに気付いた軍の上層部は、亡命を疑ったかもしれない。
 
 しかしその可能性や、僕を取り逃がした事実を、そのままローゼリアに報告できるわけもなく、『戦死』という扱いにしたらしい。


 あの頃の僕の心は、完全にローゼリアに屈服していた。

 監視員たちも、僕のような従順で情けない敗北者が、自分の意思で逃げ出すなどとは思いもよらなかっただろう。

 実際、ステファにまた会えるかもしれないという希望が無ければ、僕は亡命の話には乗らなかった。
 無気力な僕に対して監視は緩く、亡命の動きは彼らに察知されなかった。





 この収容施設に入れられて、二年になる。
 仕事以外では外出もできずに、まだ彼女とは会えていない。

 だが亡命申請を出して、二年目の今日――
 労働実績が評価され、大きなトラブルを起こさなかったことで、申請が認められ、市民権を得たことで、外に出る自由を手に入れた。

 さらに、二年間の労働の対価として、かなりの金額の給金も支給された。
 これだけあれば、これからこの国でステファを探すことに専念出来る。



 僕は一緒に亡命し、収容生活を共にした仲間たちとの別れを済ます。
 彼らは魔物退治の傭兵として、やっていくことにしたらしい。
 
 僕も一緒にやらないかと誘われたが、探したい人がいるからと断った。
 彼女を探す軍資金が尽きれば、僕も彼らと一緒に働こうと思う。


 僕たちはこれからこの国で暮らしても良いし、生まれ故郷に戻っても良い。

 ただ、ピレンゾルという国はすでに、事実上存在しない。

 その名を名乗っている勢力はあるが支配地域はごく一部で、到底『国』と言えるようなものではない。
 旧ピレンゾル領は全体として治安が悪化している。
 向こうに家族や親類、会いたい人でもいなければ、敢えて行くことは勧められないような有様らしい。


 僕はもう、戻る気はない。

 地位と名前はとうに捨てた身だし、なによりあそこにはローゼリアがいるはずだ。
 あの恐ろしい悪魔の支配する場所へと、赴く勇気はない。


 僕は逃げ出したのだ。

 だが『自分には何もできない』と思いこみ何もしないよりは、消極的ではあっても『逃げた』ことは数倍マシな選択だと思う。
 
 

 僕は働いて得た二年分の給料を持って、収容所を出た。

 外の道には、少しだけ人だかりが出来ている。
 ここを出る人間は、そこそこ金を持っているし、これから働き口を探す者もいる。

 スカウトやサービスの誘いが、いつも居るらしい。
 僕は生憎、そのどちらにも用は無い。

 客引きや誘いに乗らずに歩いて行くと、道の先に一人の女性が立っていた。









 二年ぶりに会った彼女は、顔の包帯が少なくなっていた。
 どうやら、ローゼリアから受けた傷は、回復に向かっているらしい。


 僕は目に涙を浮かべながら、彼女の元へと駆けだした。


「……お待ちして、おりました」

「待たせてしまって、ごめんね」


 僕たちは再び、一緒に暮らし出す。






 国外追放されたステファは、この国の上層部に事情を話し、その情報の対価として怪我の治療や、金品を受けることが出来たらしい。

 この国で開発された呪い封じの呪符で、ローゼリアから受けた呪いはかなり良くなったそうだ。あと一年もすれば、完治するだろうと言われている。



 ステファは情報料として渡された資金を元手に、自分で考案したデザインの家具を作り、販売して暮らしている。

 王宮でメイドとして働いた経験や知識を活かした商売は好調で、今では大きな店を構えている。

 ステファの治療に携わった呪い封じの呪符の制作者が、彼女のことを気に入り、色々と融通を利かせてくれたらしい。



 最近はピレンゾルからの亡命者が収容されている施設の前に毎日赴いて、僕を探していたそうだ。
 僕が生きているとすれば、そこしかない。

 国王ピレールの戦死の情報は知っていたが、亡命者として生きている可能性に一縷の望みにかけて、見に来ていたそうだ。



 ステファはこの国で、立派に自立して生きている。
 対して僕は、王族の地位を捨てた身だ。

 働いて得た金はあるが、彼女の資産と比べると大した金額ではない。

 僕は一緒に亡命した仲間たちと、傭兵ギルドで働き始めたが、自分で始めた商売で成功している彼女と比べると、どうしても見劣りする。


 何も持っていないに等しい僕が、彼女にプロポーズすることは、とても勇気のいることだ。

 正直、逃げ出したい。
 そんな事せずとも、彼女は僕と一緒にいてくれるだろう。

 だが、それでは駄目だ。


 ずっと諦めず僅かな希望に縋り、僕のことを待っていてくれた彼女と、ちゃんと向き合う為にも、僕は勇気を出して、この気持ちを伝えなければならない。


 僕はこの日、勇気を振り絞り――
 
 愛する人に、想いを伝えた。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

セクスカリバーをヌキました!

ファンタジー
とある世界の森の奥地に真の勇者だけに抜けると言い伝えられている聖剣「セクスカリバー」が岩に刺さって存在していた。 国一番の剣士の少女ステラはセクスカリバーを抜くことに成功するが、セクスカリバーはステラの膣を鞘代わりにして収まってしまう。 ステラはセクスカリバーを抜けないまま武闘会に出場して……

没落した貴族家に拾われたので恩返しで復興させます

六山葵
ファンタジー
生まれて間も無く、山の中に捨てられていた赤子レオン・ハートフィリア。 彼を拾ったのは没落して平民になった貴族達だった。 優しい両親に育てられ、可愛い弟と共にすくすくと成長したレオンは不思議な夢を見るようになる。 それは過去の記憶なのか、あるいは前世の記憶か。 その夢のおかげで魔法を学んだレオンは愛する両親を再び貴族にするために魔法学院で魔法を学ぶことを決意した。 しかし、学院でレオンを待っていたのは酷い平民差別。そしてそこにレオンの夢の謎も交わって、彼の運命は大きく変わっていくことになるのだった。 ※2025/12/31に書籍五巻以降の話を非公開に変更する予定です。 詳細は近況ボードをご覧ください。

転移先で日本語を読めるというだけで最強の男に囚われました

桜あずみ
恋愛
異世界に転移して2年。 言葉も話せなかったこの国で、必死に努力して、やっとこの世界に馴染んできた。 しかし、ただ一つ、抜けなかった癖がある。 ──ふとした瞬間に、日本語でメモを取ってしまうこと。 その一行が、彼の目に留まった。 「この文字を書いたのは、あなたですか?」 美しく、完璧で、どこか現実離れした男。 日本語という未知の文字に強い関心を示した彼は、やがて、少しずつ距離を詰めてくる。 最初はただの好奇心だと思っていた。 けれど、気づけば私は彼の手の中にいた。 彼の正体も、本当の目的も知らないまま。すべてを知ったときには、もう逃げられなかった。 毎日19時に更新予定です。

バーンズ伯爵家の内政改革 ~10歳で目覚めた長男、前世知識で領地を最適化します

namisan
ファンタジー
バーンズ伯爵家の長男マイルズは、完璧な容姿と神童と噂される知性を持っていた。だが彼には、誰にも言えない秘密があった。――前世が日本の「医師」だったという記憶だ。 マイルズが10歳となった「洗礼式」の日。 その儀式の最中、領地で謎の疫病が発生したとの凶報が届く。 「呪いだ」「悪霊の仕業だ」と混乱する大人たち。 しかしマイルズだけは、元医師の知識から即座に「病」の正体と、放置すれば領地を崩壊させる「災害」であることを看破していた。 「父上、お待ちください。それは呪いではありませぬ。……対処法がわかります」 公衆衛生の確立を皮切りに、マイルズは領地に潜む様々な「病巣」――非効率な農業、停滞する経済、旧態依然としたインフラ――に気づいていく。 前世の知識を総動員し、10歳の少年が領地を豊かに変えていく。 これは、一人の転生貴族が挑む、本格・異世界領地改革(内政)ファンタジー。

どうしよう私、弟にお腹を大きくさせられちゃった!~弟大好きお姉ちゃんの秘密の悩み~

さいとう みさき
恋愛
「ま、まさか!?」 あたし三鷹優美(みたかゆうみ)高校一年生。 弟の晴仁(はると)が大好きな普通のお姉ちゃん。 弟とは凄く仲が良いの! それはそれはものすごく‥‥‥ 「あん、晴仁いきなりそんなのお口に入らないよぉ~♡」 そんな関係のあたしたち。 でもある日トイレであたしはアレが来そうなのになかなか来ないのも気にもせずスカートのファスナーを上げると‥‥‥ 「うそっ! お腹が出て来てる!?」 お姉ちゃんの秘密の悩みです。

男爵家の厄介者は賢者と呼ばれる

暇野無学
ファンタジー
魔法もスキルも授からなかったが、他人の魔法は俺のもの。な~んちゃって。 授けの儀で授かったのは魔法やスキルじゃなかった。神父様には読めなかったが、俺には馴染みの文字だが魔法とは違う。転移した世界は優しくない世界、殺される前に授かったものを利用して逃げ出す算段をする。魔法でないものを利用して魔法を使い熟し、やがては無敵の魔法使いになる。

解呪の魔法しか使えないからとSランクパーティーから追放された俺は、呪いをかけられていた美少女ドラゴンを拾って最強へと至る

早見羽流
ファンタジー
「ロイ・クノール。お前はもう用無しだ」 解呪の魔法しか使えない初心者冒険者の俺は、呪いの宝箱を解呪した途端にSランクパーティーから追放され、ダンジョンの最深部へと蹴り落とされてしまう。 そこで出会ったのは封印された邪龍。解呪の能力を使って邪龍の封印を解くと、なんとそいつは美少女の姿になり、契約を結んで欲しいと頼んできた。 彼女は元は世界を守護する守護龍で、英雄や女神の陰謀によって邪龍に堕とされ封印されていたという。契約を結んだ俺は彼女を救うため、守護龍を封印し世界を牛耳っている女神や英雄の血を引く王家に立ち向かうことを誓ったのだった。 (1話2500字程度、1章まで完結保証です)

侯爵家三男からはじまる異世界チート冒険録 〜元プログラマー、スキルと現代知識で理想の異世界ライフ満喫中!〜【奨励賞】

のびすけ。
ファンタジー
気づけば侯爵家の三男として異世界に転生していた元プログラマー。 そこはどこか懐かしく、けれど想像以上に自由で――ちょっとだけ危険な世界。 幼い頃、命の危機をきっかけに前世の記憶が蘇り、 “とっておき”のチートで人生を再起動。 剣も魔法も、知識も商才も、全てを武器に少年は静かに準備を進めていく。 そして12歳。ついに彼は“新たなステージ”へと歩み出す。 これは、理想を形にするために動き出した少年の、 少し不思議で、ちょっとだけチートな異世界物語――その始まり。 【なろう掲載】

処理中です...