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第21話 旅は準備も楽しい

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 世界樹。いかにもファンタジーらしいそれにコメント欄が大騒ぎになっているが、それを一旦放っておいて旅の準備をしてしまう。ちょっとぐらい焦らした方が期待感が高まって良いと言うものだ。

「この世界での俺の生活がどんなもんかを映像に残しておきたいから、今回は旅の前の準備からやってくぞ」

 ドローンにそう言って、一旦家の倉庫から大きな革製の鞍を持ってくる。ロボが仲間になってから、俺がかなり頑張って作った一品だ。それを持ち出してくると、ロボがのそのそと近くに寄ってきた。いつも通り装着すると思ったのだろう。

「ちょっと配信で説明するから、待っててくれな」

 配信、というのを理解しているのかはわからないが、待ての指示は普通に解するので大人しくその場で眠る体勢に入った。

「これがロボ、こいつ用の鞍だな。鞍と一緒にいろんな荷物運べるように、ポケットとかロープ結わえるようなパーツをあちこちにつけてる。俺は鞍無しでも乗れるから、ぶっちゃけ荷物の運搬用だな。リュックみたいなもんだと思っててくれ」

 そしてそれを一旦脇に起き、今度は遠征用の布袋を複数持ってくる。この袋達ももうそれなりの期間使っているが、時折補修の必要こそあれどまだまだ現役だ。

「んでこいつが食料とかポーションとか、その他道具類を突っ込んで持ってく為の布袋だ。これを……こんな感じでロボの背中とか両脇にぶら下げて運搬してる」

 “布袋?”
 “見た目は結構原始的というか、近代的では無いんですね”
 “地上ででかいバッグとか買わなかったの?”
 “マジックバッグ持ってないの? 複数個持っててもおかしくないと思ってた”

 ちょうど良い質問が飛んできた。マジックバッグ。この質問は俺のこだわりに関わってくる。

「マジックバッグというか、アイテム収納用の魔法具は持ってるよ。わざわざ外に出した形で運んだりしてるのは、そっちの方が俺の好みだからだね。なんか、素手で歩くのと荷物たくさん背負って歩くのだったら、たくさん背負った方が冒険感無い?」

 ぶっちゃけいらないと言えばいらないこだわりである。ただ、俺はそういう自然の中に生きることのめんどくささみたいなのがむしろ好きということろもあるので、あえてそこはこだわっているつもりだ。

 “なるほど???”
 “冒険してる感出したいために手間なことしてるってこと?”
 “ロールプレイ的な感じなのね。わからんけど理解は出来る”
 “あーだから近代的なリュックとか全く無いのか”
 “言いたいことはわかるけどわからない”

 コメント欄も、意味は理解できるけど納得はできないというものが大勢だ。大勢というか、今日は6人しか来ていないので全員がそうらしい。まあ俺もちょっと変わった、というか、目線によってはダンジョンを舐めたこだわりだなとは思っている。

「ぶっちゃけいらないこだわりっちゃこだわりだよ。でも俺そういうの、好きでさあ。電気も、俺魔法使えるから電力の供給は出来るのね? だから明かりとかも地上から電球とか持ってくれば普通に使えはするのよ。けど、風情、そう風情が無いよな。せっかくさ、自然の中でのんびりしに来てるのに電球使う? 焚き火したり松明作ろうぜ! って話よ」

 “そう言えばこの人狩猟採集生活がしたいとか言ってたな”
 “自然での生活を楽しみたいってのはわかった”
 “それするだけの実力もあるんだから変とは思わない。でもちょっと羨ましい”
 “そういう生活にちょっと憧れがあるので是非動画にしてくれ”

「マジ? そういうの好きな人俺以外にもいるのか、嬉しいな。まあとにかく、俺はそういうのにこだわりがあるので結構古い? って表現であってるのかわからないけど、古い生活をしてる。一応こだわる部分とかタイミングも自分の中では決まってるけどね」

 例えば、木材やモンスターの素材などの加工に使える魔法があれば、それは活用する。鋭い剣や斧などがあれば木材加工は楽すぎるが、石器時代から始める気はないので普通に鋭い斧などを使っている。

「こだわってるところに関しては、配信見て『あーここはこういうふうにこだわってんだな』とか思っておいて。一個一個説明するのは大変だから。後はタイミングの方な。基本的に、ダンジョンに入る時は収納用の魔法具を使いまくってる。ロボにも乗るし、移動のときは全速力で移動してもらってる。ダンジョンはアイテム採取とか戦闘、エリアの調査が主目的だからな。でもこっちの世界だと、基本的には歩いたり旅をするって行為を楽しみたいから、ロボに乗って速く移動とかもやってない」

 それもあってこっちの世界の探索があんまり進んでない、ってのは実際ある。世界樹もロボに乗って飛ばせば1時間もかからないぐらいだが、徒歩で行くと1日、あるいは2日程度はかかる距離にある。以前行ったことのある場所で一番遠いところは、徒歩で一月以上はかかっただろうか。

 “うい”
 “まあ正直普通に異世界ファンタジーやってるのは見てわかる”
 “薪割るとかダンジョン探索でも経験しないんだよな”
 “そう言えばダンジョン探索でもダンジョン内で寝泊まりすることあるんだよな”

 あるよね。ダンジョン内での寝泊まり。軽く調べてみたけど、探索者専用のサイトで寝泊まりなどで連携を取るパーティー募集などがされてるらしい。

「んじゃ、持ってくものの準備するからしばらく待っといて」

 配信は繋いだまま、持っていくものを外に並べていく。

 まずは食材類。肉類はベーコンなど保存肉。後はキノコ類が乾燥させてしばらく使えるので、作っておいた分を持ってくる。そして今回はそこに調味料類とパスタに米。主食があるって素晴らしい。

 次に川の水を革袋に汲む。鞍にはこの水の革袋を備え付けるパーツを設けている。以前砂漠に行った際に、これは必要だとなって作った部品だ。水を入れる革袋も、ダンジョン産のアイテムを使いつつ俺が作ったものである。

 そしてその他便利なアイテム類。ダンジョン産のポーションと薬草や、目印に使える粉になる特殊な石、油など。ダンジョンのアイテムには、色々と地上の物質からは考えられないような効果、物質の特性ではなく文字通りに効果といえるような特徴を持つものも存在している。

 その他睡眠用の大きな布や毛皮なども、丸めてロープで結ぶ

「よーしロボ、立ってくれ」
『バウッ』
「朝飯食ったばっかりだろ?」

 この腹ペコ狼め。しかも舌が変にこえたせいで、俺がいるときは生で食べずに料理するように要求してくるのだ。

「ほらよ」

 ベーコンを一塊放ってやり、それをロボがかじっている間に彼の体に鞍を取り付ける。背中に載せてお腹側で綱を結んで。

 そしてその上に、毛皮や布、斧などの道具類、後は一応釣り竿と。後は水が入った革袋をロープで背中の上に縛り付けたら、今度はいろんなものを入れた布袋を両サイドに吊るすようにし。そしてばたつくとロボが鬱陶しそうにするので、これもしっかりと鞍のあちこちに結んだロープでロボの体にピッタリ張り付くように抑えつける。そして最後に背中に、ロボの飯の料理に使うでっかいフライパンと鍋を乗せる。

「ロボの準備はこんな感じ。んで後は俺の準備ね。ちょっと装備つけるから待ってな」

 俺の方も、普段探索するときの装備を身につける。探索用にかなり軽量だが、そこから戦闘を行うことも出来るいい塩梅の装備だ。俺の持つ防具類で最強ではないが、使い勝手はトップクラス。

 まずは上の服を全て脱いでピッタリと体に張り付くインナーをまとい、その上から両手の手甲、それと胸の部分を守る小さな革の胸当てを装備。

 その上からダボッとした半袖シャツを纏う。このシャツに関しては、その場所の寒さによって長袖になったり厚手になったりする。まあこの装備では極寒の地に対処するのは無理なので、そのときはそれ用の装備を持ち出すのだが。

 その後一度ズボンを脱いで、普段履きの薄手のものから、耐久性の高い布で編まれたズボンへと履き替える。腰にはベルトを締めて、膝からスネにかけて守ってくれる複数の革が一体化したグリーブを装備する。そして足首まで伸びるそれを覆うようにミドルブーツをしっかりと紐で締めて。

 ベルトにポーションなどを入れているポーチを装着した後、最後に袖が短く裾が長めの上着を羽織ったら完成だ。

「大体こんな感じかな。まあ行き先次第でもっと軽装になることもあれば重装備になることも当然あるけど。今回はこの上にこのマント羽織って……こんな感じ?」

 ・思ってたよりだいぶ質素な見た目してる
 ・金属鎧使わないんか
 ・装備はどこで入手したもの? 自作してんの?
 ・シンプルだけどまとまりは良いな

「装備の入手先は色々かな。この暗い赤の上着と胸当てはダンジョン産だし、こっちの手甲とすね当ては自前。結構頑張った。ブーツはダンジョン産。インナーは地上産で、シャツとズボンはダンジョン産だったかな?」

 ゲームとかだとキメラとか言われそうな組み合わせ方である。まあダンジョンでのアイテムの入手などは宝箱のランダムドロップとかになるので、一人で探索して望む装備が手に入るなんてことはまずない。

 だからこそ、手甲とかすね当てみたいな自分のサイズに合わせる必要があるものは、自分で試行錯誤して作ってみたりしているのだ。幸い手甲やすね当て自体はちょこちょこ拾っているので、その構造を参考にしつつ、革を自分で加工して、という感じである。

 さておき、これでようやく準備は整った。

「そんじゃ! 世界樹に向かって出発進行!」

 “わーい!”
 “実質初めてダンジョンとかその先の様子が見られるな”
 “ダンジョンより全然明るいの良いなあ”
 “ファンタジー感半端ねえ”
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