広がる世界

mahiro

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『恋は人を成長させ輝かせてくれる』
と教授は言っていたように人によっては輝きを増すようだ。
昼休みにたまたまつけたテレビに長嶋君が写っていて、赤くなった目を隠すためか色つきのサングラスをつけていた。
それでも今朝方見た姿よりも堂々としていて、輝いて見えた。
人によってこんな風に輝くのか、と染々思いコンビニで買った栄養ドリンクを飲み再び仕事へ戻った。


「まーた、お前は栄養剤だけか。たまには飯を食え」


「分かりましたから箸を俺に向けないでください」


書類整理をしていれば、奥さんのお弁当を食べる教授にそんなことを言われ、思わず溜め息が出た。
買わなくてはと思うのに、何故かいつも同じものに手を伸ばす自分がいる。


「ホントにこの子どうしたら良いのかねぇ…」


「どうもしなくて良いです」


「はぁ……そういや今日は構内が騒がしいな」


「あぁ、ドラマの撮影とかで芸能人の方が見られてるそうですよ」


「ふーん。誰が来てるんだ?」


「俺に聞かないでください。そういうのに俺が疎いのご存じでしょう」


「ハッハッハ、だよなぁ」


開けた窓から顔を出した教授は門付近に集まる人だかりを見て、口角を弛ませていた。


「若者は青春だなぁ」


「その発言ジジくさいですよ」


「失礼な!お前もまだ若いんだから少しはあの中混ざり込んで来いよ」


「嫌ですよ。それに混ざり込んでどうするんですか」


「そうだなぁ……一緒に撮影風景を眺めるとか?」


「そんなことするなら仕事進めます。俺だって残りたくて残ってるわけじゃないんです。定時に帰れるなら帰りたいです」


「分かった分かった。そうムキになるなって」


全く面白味のない男め、と呟く教授の方から女子生徒たちの賑やかな声が聞こえていた。
青春なんて、俺にはもう関係ないものなのだから、考えるだけ無駄だ。
例え目の前で微笑ましい光景を見れたとしても、それはそれ、これはこれだ。


「そういや噂になってたぞ?嶋貫先生が昨日と同じ服装で何だか疲れた顔をして教室入ってきたって」


「そうですか」


「もしかして彼女が出来たんじゃないかって」


「そうですか」


「そうですかって……お前ねぇ、他に言うことないのか」


「どうせありもしない噂なので。気にもならないですね」


「お前のそういうところは尊敬するわ」


「どうも」


誉めてないけどな、と言った教授はやっと口を閉じた。
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