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【オフィス編】

要らない子①

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「あれれ? もしかして安住ちゃんも進藤に惚れちゃった? 普段、恋愛には興味ありませんって顔してるくせに」

 食堂でお昼を食べていたら、同じ部の先輩、後藤さんにからかわれた。彼は断りもなく、私の隣りにトレーを置いて座った。

「そんなわけないです」

 ムッとして答える。
 
「だって、熱い視線で進藤を追ってただろ?」
「それは勝負を挑まれたからです」
「勝負?」

 ヤツをギャフンと言わせるために、なにが好きなのか探っているところなのだ。
 私調べによると、進藤は今週、月曜日焼魚定食、火曜日生姜焼き定食、水曜日ハンバーグ定食、そして、今日は煮魚定食を取った。
 魚、肉が半々。
 ぐぬぬ、私を惑わすことをして!
 でも、やっぱり男性は肉がいいのかな?

 ちなみに、後藤さんはなにかと絡んできてウザいので適当に流す。
 彼は根っからの女好きらしくて、片っ端から女の子に声をかけていると有名だ。実際、私にまで絡んでくるなんて、ずいぶん守備範囲が広い。噂話も好きだし、下手なことを言って、変な噂を流されても困る。
 彼はニヤニヤしながら、どうでもいい情報を教えてくれた。

「まぁ、安住ちゃんが進藤に片想いしてなくてよかったよ。ほのかちゃんが本気で狙いだしたって噂だから、失恋したら可哀想だからね」
「ふ~ん、そうなんですか」

 吉井ほのか。社内一可愛いと言われる後輩だ。
 確かに今も、進藤と並んで食べている。
 緩やかなウェーブのセミロングに、パッチリした目。長いまつ毛はクルンと上を向いていて、ぽってりとした唇はつや潤だ。とてもキュート。
 そして、その可愛らしい顔で微笑みながら、しきりに進藤に話しかけている。
 ヤツも満更でもなさそうだ。

 と、進藤が私に気づいて、にぱっと笑って手を上げた。
 きゃあと黄色い声があがる。
 
(アイドルか、あんたは!)

 しらっと見返すと、隣りの吉井さんがヤツの視線を追って、私を見た。
 ニコッと笑って会釈をしてくる。
 美男美女ならぬ、可愛い男と可愛い女。
 なんてお似合い。

 私も軽く会釈を返して、視線を食事に戻した。

「ほのかちゃん、可愛いなぁ。あんな可愛い子に迫られたら、進藤が落ちるのも時間の問題だよね~」
「そうですね」

 実際、進藤には女の子と二人きりになると襲わずにはいられない病気があるから、すぐにくっつくんじゃないかな。
 
(ってことは、来週の手料理はいらないかもしれない。ヤツと私の訳のわからない関係も終わりね)

 そう思うと、心の中がスッキリして、風通しがよくなってスースーする。
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