契約婚ですが、エリート上司に淫らに溺愛されてます

入海月子

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【番外編】

理人⑥

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 ある日、葉月がひときわ暗い顔で出社してきた。

(なにかあったのか? また一柳にちょっかいをかけられているとか?)

 心配になり、声をかけようと思ったが、脇目も振らず仕事をこなす様子を見て、思いとどまった。
 定時まで待って、帰ろうとする葉月を捕まえた。

「葉月、なにがあった?」

 腕を掴んで問うと、葉月は泣きそうな顔をして目を逸らした。

「なにもないです」
「ウソつけ。一日中暗い顔をしていただろ。この間から考え込んでばかりいるし」

 なにかあったのは間違いなく、本格的に問いただそうと、手近な会議室に連れ込んだ。

「ほら、うつむいてないで、話してみろよ」

 葉月の頬を撫で、顎を持ち上げ、その目を覗き込む。
 視線をさまよわせていた彼女はふいにキュッと口を結んだ。
 葉月にしてはめずらしく不機嫌な様子だった。

「……理人さんには関係ないことです」

 顔を逸らしてつぶやく。

「なんだよ、それ」

 これまためずらしくぶっきらぼうな言葉に、ムッとする。

(俺とは関係ないとはなんだ。なにを隠している?)

 彼女の顔を強引に自分に向けて、じっと見つめ、真意を探ろうとした。
 その時、廊下から女性社員たちの声が聞こえた。

「ねぇ、聞いた? お嬢様の浮気事件!」
「なにそれ?」
「こないだ、男と仲よさげに銀座を歩いてたんだって」
「私は食事してたって聞いたわよ」
「えー、お嬢様のくせに生意気~!」
「真宮部長がかわいそう! 私が慰めてあげたい!」

(男と仲良く?)

 思ってもみない話に、葉月を確認するように見た。
 うしろめたそうな顔をする彼女に、それが真実だと悟って、愕然とする。
 気がつくと、口が勝手に動いていた。

「……なるほどな。いい相手が見つかったのか。だから、俺はお払い箱というわけだな」
「お払い箱なんて……」

(いい相手……。葉月の結婚相手。俺じゃない相手)

 焼けつくような焦燥を感じて、顔を歪める。
 心の距離を取りたくて、葉月から離れた。
 頭はショートしたように働いていないのに、顔は平静を装って、皮肉げに言葉を発する。

「お優しいお嬢様は、俺に切り出しにくくて悩んでたってわけだ」
「…………」

 葉月は悲しげな目をしながらも、力なくうなずいた。
 それにまた衝撃を受ける。

「ふ~ん。わかった。心配しなくても、俺は去るもの追わずがポリシーだ。楽しかったよ、お嬢様。じゃあな」

 取り繕うことだけが得意になる大人ってつまらないなと、他人事のように考えて、俺はその場をそそくさと去った。

 去り際に、葉月の頭を撫でたのは完全に未練だった。

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