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【番外編】
理人⑤
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俺を好きでたまらないというひたむきな眼差しのせいかもしれない。
葉月は気持ちを口にしない。その分、目に感情が溢れていた。
──『理人さんしか、知らない』
そう言う葉月に独占欲を満たされる。
葉月は可愛い。どんどん葉月が愛しくなってくる。
それでも、俺は心をすべて明け渡すわけにはいかない。それは俺にとって恐怖に似たものだった。
葉月とは永続的な関係は築けない。いや、望んでない。
そのうち、葉月は水鳥川家に相応しい婿を見つけるのだろう。
俺との関係はそれまでの限定的なものだ。
囚われてはいけない。
「ハァ……」
(まったく俺らしくない)
溜め息をつき、髪を掻き上げる。
自分の気持ちを否定し、曖昧にし、うやむやな関係のまま、俺は葉月を抱き続け、俺なりに葉月を可愛がった。
そうしながら、親父の会社のことを調べた。
社内でも、葉月と親しい関係にあると認識されつつあった俺が聞くと、すんなりと答えは得られた。
内部資料と興信所の調査結果を照らし合わせて、それなりに納得いくまで調べられた。
(これじゃあ、誰も恨むことはできないな)
事実は大して悪意があったわけではなく、それぞれがそれぞれの立場でことを優位に進めようとした結果だった。
葉月の父親も関わっていたようだが、潰れそうな会社の技術を安く買い叩くのは商売上、当たり前のことだ。
やはり恨むなら、今はどこでなにをしているかわからない経理部長を恨むしかない。だが、それも随分前のことで、今さら彼に対して煮え滾る感情は戻ってはこなかった。
そもそも、この件を調べようと思ったのも、たまたま水鳥川会長に声をかけられて、ふと思いついただけのもので、俺の中ではとうに終わっていた話だった。
こうして調べ物は終わったし、葉月と過ごす間に、契約のことなど、だんだん認識から薄れていった。
彼女が父親に言われて、何度かお見合いらしきことをしているのは知っていた。
それでも、葉月の目を見れば、俺以外を選ぶとは思えなかった。彼女の感情に胡座をかいていた。
──『ダメです! 理人さんは私のものなんです。手放しませんから!』
パーティーで理恵子社長に言い放った葉月の言葉に、演技だとわかっていてもグッとくる。
自分の心は与えないくせに、期間限定の関係と考えているくせに、葉月は自分のものだと錯誤していった。
用があると葉月が誘いに乗ってこないことが増え、考え込んでいることが増えた。
それが気になる一方で、誕生日に葉月を抱いているとき、千里に言われ、自分がことさらに葉月を大事にしているのに気づいた。
葉月の誕生日を尋ね、それがとうの昔に過ぎており、しかも、こんな関係になった後のことだということに、なぜだかわだかまる。葉月は少しもそれをほのめかさなかった。
(女にとって、誕生日は特別なんじゃないのか?)
「言ってくれたら、ケーキのひとつぐらい用意したのにな」
言い訳がましくつぶやくと、葉月は「お気持ちだけでうれしいです」と微笑んだ。
(これほどなにも望まない女なんて、これまでいなかったな)
自己評価が低く、他人に期待をしていないような葉月の有り様を切なく感じる。
そしてまた、より庇護欲が膨らむ。
(そう、ただの庇護欲だ。葉月があまりに健気だから構いたくなるんだ)
またそうやって、自分をごまかした。
そして、中途半端にしていた俺にバチが当たった。
余裕でいられたのもそこまでだった。
葉月は気持ちを口にしない。その分、目に感情が溢れていた。
──『理人さんしか、知らない』
そう言う葉月に独占欲を満たされる。
葉月は可愛い。どんどん葉月が愛しくなってくる。
それでも、俺は心をすべて明け渡すわけにはいかない。それは俺にとって恐怖に似たものだった。
葉月とは永続的な関係は築けない。いや、望んでない。
そのうち、葉月は水鳥川家に相応しい婿を見つけるのだろう。
俺との関係はそれまでの限定的なものだ。
囚われてはいけない。
「ハァ……」
(まったく俺らしくない)
溜め息をつき、髪を掻き上げる。
自分の気持ちを否定し、曖昧にし、うやむやな関係のまま、俺は葉月を抱き続け、俺なりに葉月を可愛がった。
そうしながら、親父の会社のことを調べた。
社内でも、葉月と親しい関係にあると認識されつつあった俺が聞くと、すんなりと答えは得られた。
内部資料と興信所の調査結果を照らし合わせて、それなりに納得いくまで調べられた。
(これじゃあ、誰も恨むことはできないな)
事実は大して悪意があったわけではなく、それぞれがそれぞれの立場でことを優位に進めようとした結果だった。
葉月の父親も関わっていたようだが、潰れそうな会社の技術を安く買い叩くのは商売上、当たり前のことだ。
やはり恨むなら、今はどこでなにをしているかわからない経理部長を恨むしかない。だが、それも随分前のことで、今さら彼に対して煮え滾る感情は戻ってはこなかった。
そもそも、この件を調べようと思ったのも、たまたま水鳥川会長に声をかけられて、ふと思いついただけのもので、俺の中ではとうに終わっていた話だった。
こうして調べ物は終わったし、葉月と過ごす間に、契約のことなど、だんだん認識から薄れていった。
彼女が父親に言われて、何度かお見合いらしきことをしているのは知っていた。
それでも、葉月の目を見れば、俺以外を選ぶとは思えなかった。彼女の感情に胡座をかいていた。
──『ダメです! 理人さんは私のものなんです。手放しませんから!』
パーティーで理恵子社長に言い放った葉月の言葉に、演技だとわかっていてもグッとくる。
自分の心は与えないくせに、期間限定の関係と考えているくせに、葉月は自分のものだと錯誤していった。
用があると葉月が誘いに乗ってこないことが増え、考え込んでいることが増えた。
それが気になる一方で、誕生日に葉月を抱いているとき、千里に言われ、自分がことさらに葉月を大事にしているのに気づいた。
葉月の誕生日を尋ね、それがとうの昔に過ぎており、しかも、こんな関係になった後のことだということに、なぜだかわだかまる。葉月は少しもそれをほのめかさなかった。
(女にとって、誕生日は特別なんじゃないのか?)
「言ってくれたら、ケーキのひとつぐらい用意したのにな」
言い訳がましくつぶやくと、葉月は「お気持ちだけでうれしいです」と微笑んだ。
(これほどなにも望まない女なんて、これまでいなかったな)
自己評価が低く、他人に期待をしていないような葉月の有り様を切なく感じる。
そしてまた、より庇護欲が膨らむ。
(そう、ただの庇護欲だ。葉月があまりに健気だから構いたくなるんだ)
またそうやって、自分をごまかした。
そして、中途半端にしていた俺にバチが当たった。
余裕でいられたのもそこまでだった。
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