契約婚ですが、エリート上司に淫らに溺愛されてます

入海月子

文字の大きさ
26 / 43
【番外編】

理人⑨

しおりを挟む
 それから、会長の秘書が来て、とりあえず俺は自宅待機になった。謹慎と言われないだけマシかと思い、うなずく。
 会社を出る前に、心配そうにする葉月の頬を撫で、「葉月、助かった。ありがとう」とささやいた。

 会長が介入するなら、まともな調査がされるだろうし、冤罪だというのもすぐわかるだろう。
 万が一、それが晴らされなくても、腹は立つがこの会社自体には思い入れはない。退社するだけだ。
 そういう意味では、取り立てて不安もなく、俺は突然できた時間で読書したり、バイクでふらっと出かけたりした。

 その間、なにをしていても、思い出すのは最後に見た葉月のひたむきな目。俺を焦がれるように見つめる目だった。

(なぜ、そんな目で俺を見るんだ。お前は他の男と結婚しようとしているんじゃないのか? なぜ、俺を婚約者のままにしているんだ?)

 直接話したいが、さすがにタイミングが悪い。

 ──望まない男と結婚するぐらいだったら、相手は俺でもいいじゃないか。

 ふとそんな考えが頭をよぎった。

 結婚なんてしたいと思ったことはなかった。
 それに、葉月と結婚するとなると、自動的に水鳥川興産が付いてくる。葉月だけだったらともかく、それはかなり面倒だ。
 それに、だいたい葉月はもう俺を婚約者の立場から外しているじゃないか。
 だが……。
 
「ハァー」

(なにを考えているんだ、俺は)

 気がつくと、葉月と結婚する算段をしていた。
 まったく葉月と出会ってから、調子が狂いまくりだ。本当に俺らしくない。




 そんな中、水鳥川会長から呼び出された。
 呼び出されたのは銀座の高級料亭だった。さすが一見さんお断りの店に気軽に呼び出してくれる。

 床の間のある高級感漂う個室に通されると、水鳥川会長は先に来ていた。
 俺が挨拶して座ると、向かいに座した会長が溜め息混じりに言った。

「今回の件は悪かったね。君は冤罪だと判明したよ」

 不本意そうに軽く頭を下げるから、驚いた。
 まさか会長が俺に謝罪するとは思わなかった。

「情報漏洩は肇くんと一柳のマッチポンプだった」
「え、自作自演ってことですか?」
「そうだ。一柳は君に情報漏洩の罪をなすりつけて排除し、葉月の婚約者の座を奪おうとでも企んでいたのだろう。肇くんは君の任命責任を私に問いただすつもりだったようだ。実に稚拙で呆れる」 

 水鳥川会長は鼻を鳴らして、顔をしかめた。
 一柳がなにかしているとは思ったが、社長がそこまで噛んでいるとは思わず、唖然とした。
 水鳥川社長は、親父の会社のゴタゴタにも絡んでいたし、どうやらよほど俺と相性が悪いらしい。

(葉月が知ったら、悲しむな)

 生真面目な彼女の顔が思い浮かぶ。
 きっと葉月は、感じなくてもいい罪悪感や責任を感じて悩むんだろうな。
 そう思うと、なんとかして慰めてやりたいという想いが湧き上がる。

(でも、もう俺は慰めてやる立場じゃない)

 それがもどかしくて腹立たしくて、俺は焦れた。
 そんな俺に会長が問いかけてくる。

「それでだ。君に聞きたい。葉月をどうするつもりだ?」 
「どうするとは?」

 問い返しながら、やはり葉月は会長にも婚約解消の話をしていないのだと悟る。
 じろりと俺を観察するように、会長が睨めつけてきた。さすが、大企業の経営者だ。圧を感じるほどの迫力だった。

「こうなった以上、肇くんには社長を下りてもらう。一時的に私が社長に返り咲くしかないが、ゆくゆくは婚約者である君が次期社長だ。それが狙いで葉月に近づいたのか? 意趣返しに? そうだとしたら、君の思い通りだな」

 なるほど、状況的にそう見えるのはわかる。
 しかし、皮肉げに告げる会長に、俺は首を横に振った。

「私は水鳥川興産の社長の座に興味はありません。ただの好奇心から、当時のことを調べたかっただけです」
「あぁ、マミヤ工業の技術買収のことか。あれにも肇くんが絡んでいるようだな」
「そのようですね。でも、有利な状況で技術を安く買うというのは商業上よくある話です。私の立場からしたら、親父が死ぬ前になんとかならなかったのかとは思いますが、必ずしも社長が悪いわけではないと思っています」

 俺が淡々と言うと、しばらく俺を凝視した後、ふっと会長の眼光鋭い視線が緩んだ。
 
「達観しているのだな」
「まぁ、ずいぶん昔の話ですしね」
「なるほど、それでは、調べがついた以上は、もううちには用はないというわけだ。それなら、早急に葉月には別の相手を見繕わないといけないな」
「っ、駄目です!」

 思わず叫んだ言葉に自分で驚いた。


しおりを挟む
感想 226

あなたにおすすめの小説

初夜に暴言を吐いた夫は後悔し続ける──10年後の償い【完結】

星森 永羽(ほしもりとわ)
恋愛
王命により、辺境伯ロキアのもとへ嫁いだのは、金髪翠眼の美しき公爵令嬢スフィア。 だが、初夜に彼が告げたのは、愛も権限も与えないという冷酷な宣言だった。噂に踊らされ、彼女を「穢れた花嫁」と罵ったロキア。 しかし、わずか一日でスフィアは姿を消し、教会から届いたのは婚姻無効と慰謝料請求の書状──。 王と公爵の怒りを買ったロキアは、爵位も領地も名誉も奪われ、ただの補佐官として生きることに。 そして十年後、運命のいたずらか、彼は被災地で再びスフィアと出会う。 地位も捨て、娘を抱えて生きる彼女の姿に、ロキアの胸に去来するのは、悔恨と赦しを乞う想い──。 ⚠️本作はAIの生成した文章を一部に使用しています。

【完結】退職を伝えたら、無愛想な上司に囲われました〜逃げられると思ったのが間違いでした〜

来栖れいな
恋愛
逃げたかったのは、 疲れきった日々と、叶うはずのない憧れ――のはずだった。 無愛想で冷静な上司・東條崇雅。 その背中に、ただ静かに憧れを抱きながら、 仕事の重圧と、自分の想いの行き場に限界を感じて、私は退職を申し出た。 けれど―― そこから、彼の態度は変わり始めた。 苦手な仕事から外され、 負担を減らされ、 静かに、けれど確実に囲い込まれていく私。 「辞めるのは認めない」 そんな言葉すらないのに、 無言の圧力と、不器用な優しさが、私を縛りつけていく。 これは愛? それともただの執着? じれじれと、甘く、不器用に。 二人の距離は、静かに、でも確かに近づいていく――。 無愛想な上司に、心ごと囲い込まれる、じれじれ溺愛・執着オフィスラブ。 ※この物語はフィクションです。 登場する人物・団体・名称・出来事などはすべて架空であり、実在のものとは一切関係ありません。

短編【シークレットベビー】契約結婚の初夜の後でいきなり離縁されたのでお腹の子はひとりで立派に育てます 〜銀の仮面の侯爵と秘密の愛し子〜

美咲アリス
恋愛
レティシアは義母と妹からのいじめから逃げるために契約結婚をする。結婚相手は醜い傷跡を銀の仮面で隠した侯爵のクラウスだ。「どんなに恐ろしいお方かしら⋯⋯」震えながら初夜をむかえるがクラウスは想像以上に甘い初体験を与えてくれた。「私たち、うまくやっていけるかもしれないわ」小さな希望を持つレティシア。だけどなぜかいきなり離縁をされてしまって⋯⋯?

ヤクザの若頭は、年の離れた婚約者が可愛くて仕方がない

絹乃
恋愛
ヤクザの若頭の花隈(はなくま)には、婚約者がいる。十七歳下の少女で組長の一人娘である月葉(つきは)だ。保護者代わりの花隈は月葉のことをとても可愛がっているが、もちろん恋ではない。強面ヤクザと年の離れたお嬢さまの、恋に発展する前の、もどかしくドキドキするお話。

ハメられ婚〜最低な元彼とでき婚しますか?〜

鳴宮鶉子
恋愛
久しぶりに会った元彼のアイツと一夜の過ちで赤ちゃんができてしまった。どうしよう……。

各務課長が「君の時間を十分ください」と言った結果

汐埼ゆたか
恋愛
実花子はカフェで恋人と待ち合わせしているが、彼はなかなか来ない。 あと十分でカフェを出ようとしたところで偶然上司の各務と会う。 各務から出し抜けに「君の時間を十分ください」と言われ、反射的に「はい」と返事をしたら、なぜか恋人役をすることになり――。 *☼*――――――――――*☼* 佐伯 実花子(さえき みかこ) 27歳  文具メーカー『株式会社MAO』企画部勤務  仕事人間で料理は苦手     × 各務 尊(かがみ たける) 30歳  実花子の上司で新人研修時代の指導担当  海外勤務から本社の最年少課長になったエリート *☼*――――――――――*☼* 『十分』が実花子の運命を思わぬ方向へ変えていく。 ―――――――――― ※他サイトからの転載 ※※この物語はフィクションです。登場する人物・団体・名称等は架空であり、実在のものとは関係ありません。 ※無断転載禁止。

悪役令嬢と誤解され冷遇されていたのに、目覚めたら夫が豹変して求愛してくるのですが?

いりん
恋愛
初恋の人と結婚できたーー これから幸せに2人で暮らしていける…そう思ったのに。 「私は夫としての務めを果たすつもりはない。」 「君を好きになることはない。必要以上に話し掛けないでくれ」 冷たく拒絶され、離婚届けを取り寄せた。 あと2週間で届くーーそうしたら、解放してあげよう。 ショックで熱をだし寝込むこと1週間。 目覚めると夫がなぜか豹変していて…!? 「君から話し掛けてくれないのか?」 「もう君が隣にいないのは考えられない」 無口不器用夫×優しい鈍感妻 すれ違いから始まる両片思いストーリー

極上イケメン先生が秘密の溺愛教育に熱心です

朝陽七彩
恋愛
 私は。 「夕鶴、こっちにおいで」  現役の高校生だけど。 「ずっと夕鶴とこうしていたい」  担任の先生と。 「夕鶴を誰にも渡したくない」  付き合っています。  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  神城夕鶴(かみしろ ゆづる)  軽音楽部の絶対的エース  飛鷹隼理(ひだか しゅんり)  アイドル的存在の超イケメン先生  ♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡-♡  彼の名前は飛鷹隼理くん。  隼理くんは。 「夕鶴にこうしていいのは俺だけ」  そう言って……。 「そんなにも可愛い声を出されたら……俺、止められないよ」  そして隼理くんは……。  ……‼  しゅっ……隼理くん……っ。  そんなことをされたら……。  隼理くんと過ごす日々はドキドキとわくわくの連続。  ……だけど……。  え……。  誰……?  誰なの……?  その人はいったい誰なの、隼理くん。  ドキドキとわくわくの連続だった私に突如現れた隼理くんへの疑惑。  その疑惑は次第に大きくなり、私の心の中を不安でいっぱいにさせる。  でも。  でも訊けない。  隼理くんに直接訊くことなんて。  私にはできない。  私は。  私は、これから先、一体どうすればいいの……?

処理中です...
本作については削除予定があるため、新規のレンタルはできません。
番外編を閲覧することが出来ません。
過去1ヶ月以内にエタニティの小説・漫画・アニメを1話以上レンタルしている と、エタニティのすべての番外編を読むことができます。

このユーザをミュートしますか?

※ミュートすると該当ユーザの「小説・投稿漫画・感想・コメント」が非表示になります。ミュートしたことは相手にはわかりません。またいつでもミュート解除できます。
※一部ミュート対象外の箇所がございます。ミュートの対象範囲についての詳細はヘルプにてご確認ください。
※ミュートしてもお気に入りやしおりは解除されません。既にお気に入りやしおりを使用している場合はすべて解除してからミュートを行うようにしてください。