契約婚ですが、エリート上司に淫らに溺愛されてます

入海月子

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【番外編】

理人⑰

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 成田空港には出発の二十分前に着いた。
 すぐさま保安検査に向かうと、俺の乗る便名を呼びかけているグランドスタッフがいた。申し出て、優先的に検査を受けさせてもらい、出国審査を通過する。
 誘導されて搭乗し、席に着いた時にはどっと疲れが出て、背もたれに倒れこんだ。
 はぁと深い溜め息をつく。
 
 移動中はずっとスマホで明日以降の仕事の段取りをしていた。有給申請もした。スマホがあれば、たいがいのことができる便利な世の中だ。ただし、画面が小さい。パソコンぐらい持ってくればよかった。そう思うものの、あとの祭りだ。
 気がつけば、夕飯もとらず、深夜になっていた。
 疲れるはずだ。
 ショボショボする眼を揉む。
 そういえば、葉月が目薬をくれたことがあったな。

(葉月……)

 愛しい女を想って、また溜め息をついた。
 葉月がいない焦りから、心臓は無駄に早鐘を打ち、気が急いて、とにかく精神的余裕がない。

(少しは落ち着け)

 自分で自分をなだめる。
 この飛行機がシャルル・ド・ゴール空港に着くのは明朝の八時。
 それまで、どうすることもできないのだから。

 CAが回ってきたので、軽食を頼むと、メニューを持ってきてくれた。
 そういえば、この航空会社のビジネスクラスは著名な料理プロデューサー考案の和食がうまいと評判だった。
 それを頼んで、目を閉じ、もう一度、息を吐いた。

(葉月。お前もパリに向かう飛行機の中か? なにを考えている? 今頃は眠っているのか?)

 ひどく悲しんでいたという葉月。
 また父親のためになにかしようとしているのか?
 ひとこと相談してくれたら、一緒に考えてやるのに。
 頼ってすらもらえなかった自分が不甲斐ない。

(それにしても、パリになにがあるんだ?)

 葉月がパリに向かっていると聞いて、取るものも取り敢えず、飛行機に飛び乗ったが、今さら疑問が湧き出てきた。 

 そう思った時、ふと葉月の言葉が蘇った。

 ──パリのオランジュリー美術館にいつか行くのが夢で……。
 ──モネの睡蓮を見ると、私もくじけてないで頑張らないといけないと思えて。

「オランジュリー美術館か?」

 思わず、つぶやいた。
 ということは、葉月は相当落ち込んでいるらしい。

(葉月が落ち込む理由はなんだ?)
 
 あの執事は俺のせいだと決めつけていた。
 念のため、もう一度、自分の行動をチェックする。
 やはり葉月に誤解されるようなことはしていない。
 強いて言えば、理恵子社長が来たことだが、葉月は俺が彼女を相手にしていないのは知っている。
 むしろ、やっていないことの方が多かった。

(早く婚約指輪を用意して、俺のものだと認知させないといけないな)

 いや、その前に、婚約解消を撤回してもらわないといけない。
 葉月を見つけたら、事情を聞き出して、解決に導く。
 彼女をもらうと決めた俺には解決できない問題などないと思った。

 そんなことを考えながら、うわの空で食べた食事は、なんの味もしなかった。
 食後は、座席をフルフラットにして、寝ることにした。


 

 飛行機が着陸して、空港建物に入るとすぐ、葉月に電話した。
 
『お客様のおかけになった……』

 くそっ、繋がらない。
 電源を切っているのか?
 着信拒否じゃないよな?
 
 冷や汗が流れる。
 嫌な想像を振り払うように首を振ると、俺はタクシー乗り場に向かった。

「さみぃ~!」

 空調の効いた建物を一歩出ただけで、ひんやりとした空気に包まれて、首をすくめた。
 着のみ着のままで来たから、薄いビジネスコートしか羽織っていない。
 待っていたタクシーにすぐに乗り込み、葉月の宿泊しているというホテルの名前を言う。
 知らないものがいないぐらいの超高級ホテルだ。

 窓から外を眺めると、クリスマス装飾に輝く街並みが見えた。
 葉月の誤解をさっさと解いて、クリスマスシーズンのパリを一緒に観光してやる!
 そう意気込んだ。

(葉月はクリスマスプレゼントになにを望むだろう?)

 その時、俺は葉月に贈り物らしいことをしてやったことがないのに気づいた。
 この間まで恋人でもなかったからな……。
 身体だけ求めて、あとは曖昧。そんな中途半端な状態に葉月を置いてしまったのが悔やまれる。

(葉月。捕まえたら、もう離さないからな。ベタベタに甘やかして、もう逃げる隙など与えない)



 だが、ホテルに着いても葉月の所在はわからなかった。
 ホテルが宿泊者の情報を出さなかったからだ。
 
(そりゃそうだな)

 考えたら当たり前で、俺はまた葉月に電話をかけた。
 聞こえるのは繋がらないというアナウンスだけだった。

 こうなったら、オランジュリー美術館で見張っているしかない。
 確実に葉月が現れるだろう場所。
 唯一の手掛かり。
 幸い、今は九時で、美術館も開いたばかりだろう。
 きっと葉月はやってくると信じて、俺はタクシーでオランジュリー美術館に向かった。



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