契約婚ですが、エリート上司に淫らに溺愛されてます

入海月子

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【番外編】

理人⑱

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 コンコルド広場のだだっ広い空間でタクシーを降りる。
 なにも遮るものがないから、吹きさらしで身が凍える。
 急いで道路を渡って、オランジュリー美術館に入った。
 かじかむ手でチケットを買い、展示室に入ると、部屋の真ん中に立ち尽くしている葉月がいた。
 その横顔はなにかを決断したような凛とした表情で、明るい色彩の絵を見つめている。

 頭が歓喜に埋め尽くされた。

「葉月、見つけた!」

 彼女に駆け寄ると、きつく抱きしめた。



「理人さん……?」

 びっくりして大きな目を見開いた葉月が俺を見上げる。
 まさか、こんなところまで追いかけてくるとは思っていなかったのだろう。
 だが、その瞳には驚き以外はなく、拒否されていない様子にほっとする。

「葉月……」

 心底安堵して、彼女の肩に頭をうずめた。

「お前なー、人が必死でライバルを蹴落として会長に認められようとしているのに、婚約解消ってなんだよ……」

 思わずぼやいてしまう。
 それなのに、葉月はキョトンとして見当違いなことを言った。

「理人さんは社長になりたかったのですか?」
「バカ。そんなわけないだろ」

 即座に否定する。
 目線だけ上げて、なに言ってるんだと見ると、葉月は悲しげにそっと目を伏せた。

「そうですよね。『そんな面倒くさいこと、誰がやるか』って言われてましたもんね」

(なに!?)

 慌てて顔を上げると、葉月が暗い顔をしていた。 

「もしかして、理恵子社長と話していたのを聞いてたのか?」

 葉月の頬を両手で挟んで、顔を覗き込んだ。
 それでも、葉月は目を合わせない。

「すみません。聞こえてしまって……」

(ちょっと待て。本当に俺のせいだったのか? 俺が水鳥川興産の社長をやりたくなさそうだから、婚約解消すると言ったのか?)

 愕然とした後、俺は葉月に言い聞かせるように叫んだ。

「聞くなら、ちゃんと最後まで聞けよ! 俺は、誰がそんな面倒くさいことするかよって言ったんだ」
「私のため? 同情してもらわなくても大丈夫ですよ?」
「同情でこんなことするかよ。俺の目的はお前だ、葉月」

 どうもさっきから会話がすれ違っている気がする。
 同情ってなんだよ。
 なぜそんなに不思議そうな顔をしているんだ?

 その時、まさかの可能性に思い当たった。

(もしかして、葉月は俺の気持ちがわかっていないのか!?)

 そんなことあるか?
 そう思うが、やはり葉月は怪訝な顔で首を傾げた。

(うそだろ? プロポーズまでしたんだぞ?)

 俺は髪を掻き上げ、上を向いた。
 
「あー、マジでわかってなかったのかよ。あんなに気持ちを込めて抱いていただろ?」

(葉月だって、幸せそうに微笑んでいたじゃないか!)

 俺の言葉に葉月は赤くなったが、また見当外れなことを言う。

「もしかして、私の身体が気に入ったってことですか?」
「違う!」
「だって、すごく相性がいいって……」
「それはそうだが、今、俺が言ってるのはそういうことじゃなくて……」

 自分の言ってきたこと、いい加減にしてきたことが自分に返ってくる。
 苛ついて、髪をガシガシ掻いた。

「アーッ、なんでなにも伝わってないんだよ! 『俺でいい』って言ったじゃないか! 『喜んで』って」
「えっ? 契約を継続するってことですよね?」
「違う! 婚約を継続ってことだ! つまり、お前の結婚相手!」

(本気で伝わってなかった……)

 はぁと深い溜め息をついて、チラッと葉月を見ると、混乱しているようだった。

(あぁ、これは俺が悪い。ちゃんと言わなかった、俺のせいだ)

 もう一度溜め息をついて、葉月を抱き寄せ、初めての言葉を口にした。

「あぁっ、くそっ! ………葉月、愛してる」

 



─理人編 おわり─



☆あとがき☆

こんなに長くなってしまった理人編におつき合いいただき、ありがとうございました!
ちゃっちゃとあの時の理人の気持ちは!?というのを書こうと思っただけだったのですが、がっつり書いてしまいました……。
あと数話、二人の後日談がありますので、読んでもらえるとうれしいです。
 
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