【完結】二周目の人生なので婚約破棄されるのは分かっていたのに敢えて避けなかった男の打開策

ジャン・幸田

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中編

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 部屋に入ってきたのはくすんだ赤毛の女だった。彼女は男の秘書であった。名前はアリアといい、子爵家に昔から仕えている一族の出身だった。

 「ゲオルグ様、突然で申し訳ございませんが危険が近づいております」

 彼女の話によれば、婚約者が恐るべき陰謀を実行しようとしているということだった。浮気を捏造し婚約破棄したうえで拉致し、別に誘拐してきた男爵令嬢と一緒にとある場所に閉じ込めて駆け落ちしたように見せかけるという策略だった。

 拉致する男爵令嬢は社交界でも有名な浮気な女で鼻つまみ者なので、探すことはないだろうということだった。そして男を亡き者にした婚約者は、自分の浮気相手でこの策略の共犯と婚約するということだった。

 「たしかにカール様を納得させるには、そうするしかないだろうな。なんだって僕の能力を高く買ってくださっているからな。手放す事なんてありえないから」

 男の婚約者テレサは、男を漁っているという噂が絶えなかった。そんな女の婿に選ばれたのがゲオルグであったが、相性よりも将来性を考慮した。その犠牲になったのがテレサの気持ちであった。そこは同情する余地もあったが、命を奪おうとしているなんて・・・・

 「では、どうされます。ぶしつけですが私に幾つかの策があります。聞いてくださいませんか?」

 そういうと、アリアはいくつかの今後の事について説明した。しかしゲオルグには違和感があった。前回の人生とは大きく違っていることに。
 
 小さなことであるが、壁にかけている皇帝陛下の肖像画が少年ではなく壮年の女性になっていること。そしてアリアは婚約破棄される一週間前には目の前にいなかったことだ。前の人生ではテレサと婚約した時点で、辞任して別の大陸に移民していたはずであった・・・なにかが違うようだ!


※※※※※


 同じ頃、テレサは公爵令息のコンラートと密会していた。父に決められた婚約者のゲオルグに不満しかなかった。真面目過ぎるし束縛しそうだし、まるで父と同じだった。そっちの方が本当の息子のようだった。テレサは唯一の嫡出子であったのでカールは我儘に育てたが唯一譲らなかったのは婚約相手だった。


 「コンラート様、首尾はうまくいっている?」

 テレサは不安だった。全ての策略を彼に任していた。いくら婚約に異議を父に言っても全く取り合ってもらえなかった。だから「本命」のコンラートにゲオルグとの婚約をなかったことにする相談をした。それに乗ったのがコンラートだった。もっとも彼はテレサよりもテレサの家に婿入りすることで得られる利益の方が魅力的だった。だから協力した。

 「ああ、とりあえず婚約破棄を次のパーティーで突き付けよう。そして恋多き尻軽女と噂されているマキシム男爵の二女と一緒に駆け落ちしたように工作する。そうすれば、君の父上も納得するだろう!」

 コンラートは公爵家の四男で今の地位を維持するには他の公爵家に養子にいくか婿入りするほかなかった。自身は自力で掴み取る能力はないと分かっていた。だから汚い手を使おうとしていた。

 「大丈夫なの? バレないの?」

 「大丈夫さ! その道の者に頼んでいるから! 全てうまくいくさ!」

 そういってテレサの肩に手を回して胸にそっと触れた。そして二人の影は重なり合った。そのあと淫靡な声を奏でていた。テレサもコンラートも二人だけの世界に没入していった・・・


※※※※※


  警備の者たちにつまみ出されたゲオルグを乗せた馬車は会場から遠く離れた山深い森林地帯を駆け抜けていった。その馬車は裏社会の者たちだった。

 「悪く思うな! 貴様はこれから閉じ込めてやる。寂しくないように女と一緒にな! そして二人は駆け落ちして遠い国にいったことになるわけだ。遠い国といってもあの世だがな!」

 ゲオルグはぐるぐる巻きにされていて、抵抗することは出来なかった。その時だった、橋を渡った直後に馬車に強い衝撃に襲われた。そして馬車の車体は大きく沈みこんだ。

 「何事だ!」

 「申し訳ございません、車輪が溝にはまりました。とにかく起こしましょう」

 御者の言葉に、男たちが馬車を降りた時の事だ。ゲオルグが逃げ出した。

 「待ちやがれ! 逃げても無駄だ!」

 ゲオルグは逃げ出したが、橋の方へ向かった。そして欄干の上に立った。

 「おい、なにするつもりだ、貴様!」

 男たちがゲオルグの足を掴もうとしたが、そのまま橋の下へと飛び降りてしまった。

 「おい! 流されてしまう!」

 そういったが、次の行動を起こすことは出来なかった。いつの間にか警察の馬車に包囲されていた。そして、警察官の一人が取引を持ち掛けた。

 「なあ、取引しないか? 我々のシナリオ通りに罪を認めろ! そうすれば死刑を免れるぞ! 調べはついているんだぞ、貴様らは貴族相手の強盗団だろ!」

 男たちにはいったい、何が起きているのか分からなかった。



※※※※※



 「お父様! どうしてこうなるのですか?」

 テレサは戸惑っていた。貴族階級を取り締まる高等警察に拘束されたからだ。父親のカールはひとごとこういった。

 「愚か者!」

 その時、テレサはゲオルグの拉致で逮捕された。そのゲオルグであるが行方不明になっていた。婚約破棄のためにした行動が全て警察に把握されていた! そして破滅の時を迎えようとしていた。


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