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(7)「アルテミスの美少女たち」のコスプレイベント列車
ホームにて
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9月の連休 その日の朝早く、弘樹は志桜里と待ち合わせをしていた。高校卒業時の一時駆け落ち事件以来はじめてのことだった。二人の事は親戚中で問題になってしまい、引き離されていたからだ。そのため、今日二人で出かけるというのは身内に二人一緒なんてばれないようにしなければならなかった。志桜里は大学近くの親戚が所有するアパートで生活しているし、弘樹は実家暮らしだ。だから、ちょっとした工作もした。
今日は鳴海先生の イベントに参加するためであるが、バイト料はもらっている。もちろん「アルテミスの美少女たち」のコスプレイベントだ。成海先生というのは何故か自分の作品の登場人物のコスプレを見るのが好きという嗜好があり、自分で企画したのだ。他にも自分の作品ごとのイベントも行っているようだが、特にお気に入りの作品なので力の入れようはっすごかった。
一応、「現実的な」参加料を徴収しているが、どう考えても持ち出しの方が多いという評判があった。なんだって自分のキャラクターの着ぐるみ美少女を自前で用意するから!
弘樹は男の自分がヒロインの真里亜の着ぐるみの内臓になることに違和感があった。いくら女性的な体型で真里亜に似ているっていっても、やはり 今まで自分が被写体として写してきた内臓になることにはやっぱり抵抗感があった。それに真里亜の設定が百合百合の妹とはいえ、相手の基美が従姉弟の志桜里というのも。
待ち合わせ場所は、新幹線ホームの指定席四号車の後側であった。わざわざ始発ではなく途中の駅から乗る様にしていた。それも工作の一環だった。その時、弘樹は最低限の着替えしか持ってきていなかった。現地で真里亜に「変身」したあとは、イベントの終了までそのままだからだ。だから学校に通う時よりも荷物は少なかった。一番大きかった荷物は父から譲ってもらった年代物のカメラだけだった。ちょっとしたお遊びをしたくなったからだ。
弘樹がホームで待っていると、遅れて志桜里がやってきた。彼女はなぜか嬉しそうだった。そういえば彼女が旅行に行ったといえば、逃避行以来とのことだった。彼女に言わせると、最近になってようやく遠出してもいいかなという気分になったという。それもこれも、あの事故で亡くなったチームメイトの事を考えると、幸せな旅って自分がやってもいいのかなと思うらしい。彼女は、事故から数年たってもサバイバーギルド(注)と呼ばれる感情を持っているようだ。
そんな重荷を背負っている彼女であるが、今回のイベントを楽しみにしているようだ。やはり志桜里という人間から「ログオフ」出来る。そんな体験が出来るからだといえた。それは弘樹が見てきた着ぐるみ美少女の「内臓」にいえることであった。老若男女関係なく。
「それにしてもなんか変だよ、 着ぐるみは向こうで用意していると言うけど何か新型だとか言ってたけど。またあのアイリスのおじさんが変わった着ぐるみを作ったからとか言っていたけどどうなんだろうね」
志桜里に弘樹は語っていた。この時、ホームには誰もいなかった。今日は日曜日、行楽客が出かけるのはまだ早い時間だった。目的地に午前八時半という予定だったので、ほぼ始発の新幹線に乗る客はそう多くなさそうだった。その日は秋の雰囲気が漂い始めた朝で少し寒さを感じていたが、空は綺麗な青空だった。でも、志桜里はこんなことをいった。
「ねえ、弘樹君。真っ青は空って虚しいモノだと、弘樹君のお父さんが言っていたことがあるよね? それって本当なのかもしれないわ」
「どおして、そんなことを言うのかい、いま?」
「ううん、気にしなくてもいいわよ。なんか、私の心の中にある、なんか空っぽになっているところの色みたいな気がしたのよね」
志桜里はそういうと、コンビニで買って来たサンドイッチを手渡してくれた。
(注)事故や災害などの惨禍から奇跡的に生還を遂げた人が、周りの人々が亡くなったのに、自分だけが助かったことに対し、しばしば感じる罪悪感。
今日は鳴海先生の イベントに参加するためであるが、バイト料はもらっている。もちろん「アルテミスの美少女たち」のコスプレイベントだ。成海先生というのは何故か自分の作品の登場人物のコスプレを見るのが好きという嗜好があり、自分で企画したのだ。他にも自分の作品ごとのイベントも行っているようだが、特にお気に入りの作品なので力の入れようはっすごかった。
一応、「現実的な」参加料を徴収しているが、どう考えても持ち出しの方が多いという評判があった。なんだって自分のキャラクターの着ぐるみ美少女を自前で用意するから!
弘樹は男の自分がヒロインの真里亜の着ぐるみの内臓になることに違和感があった。いくら女性的な体型で真里亜に似ているっていっても、やはり 今まで自分が被写体として写してきた内臓になることにはやっぱり抵抗感があった。それに真里亜の設定が百合百合の妹とはいえ、相手の基美が従姉弟の志桜里というのも。
待ち合わせ場所は、新幹線ホームの指定席四号車の後側であった。わざわざ始発ではなく途中の駅から乗る様にしていた。それも工作の一環だった。その時、弘樹は最低限の着替えしか持ってきていなかった。現地で真里亜に「変身」したあとは、イベントの終了までそのままだからだ。だから学校に通う時よりも荷物は少なかった。一番大きかった荷物は父から譲ってもらった年代物のカメラだけだった。ちょっとしたお遊びをしたくなったからだ。
弘樹がホームで待っていると、遅れて志桜里がやってきた。彼女はなぜか嬉しそうだった。そういえば彼女が旅行に行ったといえば、逃避行以来とのことだった。彼女に言わせると、最近になってようやく遠出してもいいかなという気分になったという。それもこれも、あの事故で亡くなったチームメイトの事を考えると、幸せな旅って自分がやってもいいのかなと思うらしい。彼女は、事故から数年たってもサバイバーギルド(注)と呼ばれる感情を持っているようだ。
そんな重荷を背負っている彼女であるが、今回のイベントを楽しみにしているようだ。やはり志桜里という人間から「ログオフ」出来る。そんな体験が出来るからだといえた。それは弘樹が見てきた着ぐるみ美少女の「内臓」にいえることであった。老若男女関係なく。
「それにしてもなんか変だよ、 着ぐるみは向こうで用意していると言うけど何か新型だとか言ってたけど。またあのアイリスのおじさんが変わった着ぐるみを作ったからとか言っていたけどどうなんだろうね」
志桜里に弘樹は語っていた。この時、ホームには誰もいなかった。今日は日曜日、行楽客が出かけるのはまだ早い時間だった。目的地に午前八時半という予定だったので、ほぼ始発の新幹線に乗る客はそう多くなさそうだった。その日は秋の雰囲気が漂い始めた朝で少し寒さを感じていたが、空は綺麗な青空だった。でも、志桜里はこんなことをいった。
「ねえ、弘樹君。真っ青は空って虚しいモノだと、弘樹君のお父さんが言っていたことがあるよね? それって本当なのかもしれないわ」
「どおして、そんなことを言うのかい、いま?」
「ううん、気にしなくてもいいわよ。なんか、私の心の中にある、なんか空っぽになっているところの色みたいな気がしたのよね」
志桜里はそういうと、コンビニで買って来たサンドイッチを手渡してくれた。
(注)事故や災害などの惨禍から奇跡的に生還を遂げた人が、周りの人々が亡くなったのに、自分だけが助かったことに対し、しばしば感じる罪悪感。
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