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悪役令嬢とは失礼な!

旅立ち結婚会場へ

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 私、啓子は宝亀男爵家出身であった。でも宝亀家の扶桑帝国内では男爵家でも家格は最下位。おまけに貧乏であったことから縁談らしい縁談すらなかった。私としてはそれでもよかったのだが。でも、両親は何を焦ったのか、同じように焦っていた橘花宮公爵家の当主との縁談を決めてしまった。

 その時、私は15歳で相手の橘花宮は30歳だった。その話を聞いたとき私は泣いてしまった。なんで、そんなに歳が離れた男と結婚しないといけないのよって。しかも、それが悪夢の始まりだった。

 橘花宮は先代の皇帝陛下の孫に当たるので、場合によっては皇帝に即位する可能性があった。皇太子家に女子しかおらず、他にも兄弟がいないので、男系男子にしか皇帝継承権を認めていない扶桑帝国では可能性が高かった。だが、彼は変な噂が数多くあったので中々婚姻相手が決まらなかった。しかし、何故か両家の思惑が一致したので結婚することになった。

 私は、その時貴族が参加する舞踏会などに参加したことなかったので、他の貴族との付き合いもなかったし、それに写真を一枚も撮った事がなかったので、他の貴族は誰も私の顔を知らなかった。なのに私が選ばれたのはおかしなことだと思った。

 そのとき、わたしはこんな事を想像していた。わたしは悪役令嬢なんだと! 私が輿入れすることによって本当は結ばれるはずだった二人は別れないといけなくなったと。そして二人は考えた。駆け落ちするのか、それかわたしを糾弾して婚約者の立場を剥奪するの方法を。そして後者が選ばれた!

 かくして二人は婚約披露パーティーの場で糾弾するわけだ。啓子は容姿に劣り頭が足らず、そして嫉妬深いと! そんな器量に乏しいのを嫁にするぐらいなら、横にいる女と結婚させてほしいと! そして二人は熱い抱擁を交わし、わたしはそのままゴミのようにパーティー会場の外に追い出されてしまう! そんな風に妄想した。

 そもそも結婚なんかするの早すぎると思っていた。そりゃ貴族の子息が通う学校だったら婚約が決まっているから女子は途中で退学って話はよく聞くけど、私はまだ15歳だ! 花嫁修業の期間すらなく数か月後に結婚式というのが急すぎていると思った。本当に感傷なんか浸っている時間すらなかった。

 でも、おかしなことがあった。両親が事故で他界してしまったのだ。ここでは詳しい話は後に譲るにしても、それでも服喪期間であっても何ら挨拶がなかった。また、輿入れ準備らしい事は一切してもらえなかった。唯一してくれたのは専属のメイドとして鉄塚多恵という少女が配属されたぐらいだ。それ以外に何かをしてもらった事はなかった。ちなみに宝亀家は父の弟が相続したので、その時点でわたしが戻れる実家は無くなってしまった。

 結婚式の前日、私は宝亀家をあとにした。両親が雇っていた使用人全員が解雇されたので、見送ってくれる使用人は皆無で、叔父夫婦も見送ってくれなかった。私は涙をこらえていた。すると多恵がこう言ったの。

 「啓子お嬢様。わたしはこのままどこかに出奔された方がいいと思いますよ。なんか奇妙ですよ、この結婚は。そもそも橘花宮の御当主様のご趣味は異常だといいますから。だからお妃候補が決まらなかったんだと。それにおかしいじゃありませんか、貴族同士の婚姻なのに花嫁道具を運ぶ婚姻馬車すら手配されていないじゃないですか? 渡された花嫁道具といえば私が背負子しょういこで背負っている衣装ケースだけですよ、しかもこんなに小さい!」

 確かに多恵が言うように花嫁道具が小柄な彼女が背負える程度しかないというのもおかしな話だった。その事を叔父夫婦に聞いても、ただ先方が用意してくれるから問題ないとの一点張りだった。

 「そうよねえ、でも開けちゃダメと言われているから。本当はね、私も出奔したいのよ。お父様とお母さまが亡くなったというのに葬儀にも来ない方と結婚したくないのよ、だから一緒に・・・」

 そういいかけたところで、橘花宮の迎えの自動車が来てしまった。こんなのなら早く決断すればよかったと後で後悔することになるのに。でも、その迎えの自動車は何にもトキメキのない古びたオンボロ車だった。しかも運転手も愛想もなく、とてもじゃないが歓迎しているように見えなかった。

 しばらく走ると運転手がこんな事を言い出した。

 「あんたが、うちの旦那が言われる悪劣な令嬢ですか? だって、そう思いませんか? 旦那のような方と一緒になるなんてどうかしているっていってますよ!」

 その言葉に私はこの結婚は危険じゃないかと思い始めた。到着した結婚式の会場は・・・伯爵家が使うものと思えなかったからだ。
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