死んだことにされた処女妻は人外たちと遍路の旅をする―

ジャン・幸田

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(弐)処女妻の時代

座敷牢

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 昔、女学生時代に読んだ小説に「巌窟王」があった。その小説の主人公は無実の罪を着せられ投獄され、その後別人と入れ替わって脱獄して、罠にかけた者たちに復讐したという物語だったと記憶している。その時の私は何ら罪を犯さないで、死んだ女と入れ替えられ鳳凰宮家の座敷牢に軟禁されてしまった。

 この座敷牢は、広くてそれなりに家具調度品が置かれ、書物やラジオまで備えられているので、女中部屋よりもある意味快適だった。また女中としての労働もする必要がなかった。

 しかし悪い事の方がおおかった。外部との接触は禁じられ、逃げ出すことも不可能だった。唯一の接触といえば運ばれてくる食事だけで、衣服の洗濯は座敷牢の中で自分でしなければならなかった。だから便所と水回だけは牢の中にあった。食事は外部で作られるのは刃物で自殺させないためにほかならなかった。

 あの女、忌々しい事に私と同じ香織の名前を持っていた女は私として葬られてしまった。その時点で鳳凰宮香織は薨去したことにされた。皮肉な事に私の名は子供を残して逝ってしまった悲劇の妃として有名になった。全ては巧妙な情報操作の結果だ。こうして殿下は自分の不実の息子を嫡子とすることに成功したわけだ。

 そして、もう一つ手にしたものがあった、私が持つ勾玉だ。この勾玉は家にあるだけで家運繁栄になるとされていたからだ。勾玉の所有者は女系でしか継承できないが、所有者が死亡するか処女を喪失し実娘を産むまでは変わらないとされていた。私の場合は叔母が死亡した時、もっとも近い女系親族だったので選ばれたが、次に女系で近いのは誰なのかは知らなかったが、とりあえず現状は私が持っていなければならなかった。

 あの女が死んだのは夏の終わりだったが、座敷牢に閉じ込められて最も寒い冬になっていた。その日は寒くてしかたなかった。ここではやる事といえば本を読んでラジオを聞く事しかなかった。取りあえず鳳凰宮家にとって私という存在は事実を隠蔽するために軟禁しなければならないが、勾玉を置いておくために生かし続けないとならないというものであった。だから命だけは保障されても飼い殺しの状態だった。私は何もしない家畜同然の扱いという訳だ。

 あの日から、鳳凰宮親子が私の所に来る事はなかった。しかも一緒にいた桔梗さんは解雇されどこかにいってしまったようだ。だから私は寂しく座敷牢の中で無為の時間を過ごしていた。あまりにも暇なので裁縫道具か編み機が欲しいといったけど、許してもらえなかった。そんな時間が突如終わりを迎えた。座敷牢に賊が入って来たのだ!

 その日はとにかく寒い夜だった。私は一人寂しさに耐えていた。このまま老い衰えるまで生活していかないといけないと諦めていた。夜中に物音で目を覚ますと目の前に黒装束姿の何者かがいた。

 「あんたが、鳳凰宮香織か? やはり生きていたんだな! おかしいと思っていたんだよ、勾玉を持つ女は女しか産まないといわれているのに、ここの子供は男だよ! なんか隠しているんじゃないかと探っていたが、やっぱりこんなことかよ! 悪いがあんたには勾玉を出してもらおうか?」

 その甲高い声は地獄からの使者のように思えた。その時、祖母の言葉が脳裏に蘇った! 勾玉を欲する者がいたら、それは凶事の始まりだと!

 「勾玉? なんのことかしら? 何をいっているのか分からないわ? 若い女を誘惑しにきて本当に悪い人なのね」

 私は寝ぼけた振りをした、その時不思議なほど動揺していなかったが、どうやって花崗岩の巨大な石組みになかにある座敷牢に入ったのだろうかの方が気になっていた。

 「ほお、しらばくれるというわけかい? まあ、いいさ。ここから連れ出してやろう! あんただっていいだろう、こんなところに閉じ込められているよりも」

 たしかに、そうであった。座敷牢にいても私からすれば生活に困らないという以外になんら利益にならないから。座敷牢の外に出れるのなら、この際悪魔の手であっても構わないと思っていた。
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