ふたりはサードライフはじめました!

ジャン・幸田

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早苗メイクアップ作戦!

12・早苗ドキドキ

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 御年84歳の藤村早苗はなごみの里の診察室にいた。目の前にいる医師を名乗る男と看護師を名乗る女は淡々と検診をはじめた。


 「藤村早苗さん、今日は何年何月何日ですか」

 「えーと、令和二年三月十五日です」

 「では生年月日を言ってください」

 「それは昭和十一年一月二十三日です」

 「では、これからお見せするイラストを見てください、後で質問しますから」

 「はい!」

 「それじゃあ、さっきのイラストに描かれていた事を質問します。テーブルの上にリンゴは何個ありました?」


 そんな風に早苗の認知能力の検査が行われた。質問に対する応答は若い娘と同じようにハキハキできたが、それが80代の老女でないことを証明していた。でも、まぎれもなく早苗は・・・

 「早苗さんはやっぱり二十代ですね。これじゃあ要介護は受けれませんね」

 医師の診断に早苗は少しがっかりした。もうデイサービスを受け入れないんだ、せっかく仲良くなったお友達とおしゃべりしたり出来ないんだ。そう思ってしまった。

 「そうですかあ、寂しいですわ。ここに来れなくなるなんて」

 すると医師はこう言った。まるで早苗を鼓舞するかのように。

 「そんな後ろを向く事ありません! せっかく若くなったのですから! 可能性が開かれたのですよ! 若かった時に出来なかったことを出来るじゃないですか! 我々が色々と協力しますから!」

 そのように励ますかのようにいわれても早苗は警戒感を覚えた。まるで自分たちが若返ることをあらかじめ知っていたかのように思えた。もし原因をしっているのなら、私たちはモルモットみたいなものなの? まさか人体実験の被験者にされた?

 「そうですか、あんまり難しい事は分かりませんが・・・」

 早苗はとぼけていた。そんな風に近寄ってくる連中はなにかしらの利益があるから近づくから、あんまり前のめりになるのは危険ではないかと。そのとき看護師が早苗に話しかけてきた。

 「早苗さん、いまの二十代の恰好をしてみませんか? せっかくの美人なのですから、勿体ないですわ。ちょっと用意できますから、いいですか?」

 そのとき、早苗は二十代の格好という言葉が心に刺さった。そうなんだあ、若い娘になったのだからやってもいいんだ。それに、もしかすると明日になると元の老女に戻っているかもしれないから、バチなんか当たらないよね、そう感じた。

 「本当に良いのですか?  おしゃれをする道具もありませんし、おカネもないですわ。それに知識なんか・・・」

 農家として半世紀以上も過ごして来たので、おしゃれなんて興味なかったので、想像も出来なかった。でもなぜかおしゃれという言葉に早苗はドキドキしていた。
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