65 / 86
1話 動転
しおりを挟む朝から、玲衣はご機嫌だった。
今夜、哲哉と共に花火大会に出掛ける予定なのだ。
「しかも今日は、哲哉さまと待ち合わせなんです」
「そうか。もうお出かけになられたものね」
哲哉は商用で、要人と面談があるのだ。
すでに外出しており、夕刻に玲衣と落ち合う約束がしてあった。
「待ち合わせのデート、初めてなんです」
「うん、嬉しいよね」
そして、人ごみの花火大会だ。
喜んで見せつつ、池崎は不安も覚えていた。
(もし、玲衣くんがこの機会に逃げ出したら……)
彼らの絆を思うと、それは無い、と考える。
しかし、万が一、ということもある。
玲衣に今去られたら、哲哉は限りないダメージを受けるだろう。
(もう二度と、心を開いてくださらないかもしれない)
それを、池崎は恐れた。
「玲衣くん。お出かけには、このシャツをお勧めするよ」
「いつもありがとうございます、池崎さん」
肌触りの良いポロシャツを、池崎は玲衣に手渡した。
何の疑いもなく、それを受け取る玲衣だ。
しかし、そのシャツのボタンには、GPS端末が仕込んであった。
どこにいても、居場所がわかる代物だ。
(多分。いや、絶対に杞憂だろうけど)
池崎は、祈る気分だった。
応援ありがとうございます!
0
お気に入りに追加
158
1 / 5
この作品を読んでいる人はこんな作品も読んでいます!
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる