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しおりを挟む茶道の師範は、驚いていた。
(響也さまが、こんなに穏やかに笑っておいでだなんて)
大勢の客人を招いての茶会を、頻繁に開く響也だ。
もちろんゲストには、いい顔をして愛想よく振舞う。
しかしそれは、麻衣がパーティーで見抜いたような、営業スマイルだった。
このように、素で心から微笑む響也を、女性は初めて見たのだ。
彼女の視線に気づかないのか、響也はポケットから端末を取り出し、執事の服部につないだ。
『お呼びでしょうか、響也さま』
「服部。あと一時間、麻衣と共に過ごす」
『し、執務はどうなさるので!?』
「夜に挽回するさ。では、よろしく」
服部は何か叫んでいたが、響也は通話を切った。
「さあ、麻衣。菊を愛でに行こう」
「はい!」
野点の礼を述べ、響也は麻衣と共にゆっくりと去って行く。
その後ろ姿に、女性は麻衣の持つ魅力を感じ取っていた。
「あの新しい婚約者さまは、響也さまを変えてくださるかもしれない」
二人の間に子どもが授かることを、願わずにはいられない師範だった。
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