金曜日の少年～「仕方ないよね。僕は、オメガなんだもの」虐げられた駿は、わがまま御曹司アルファの伊織に振り回されるうちに変わってゆく～

1話 幸せに生きる努力をしよう

「ああ、やっと学校が終わった……」
　駿は、ホッと一息ついていた。
　授業が終わるたびに、別クラスの伊織のご機嫌伺いに、行かなくてはならなかったのだ。
　少しは、肩の荷が下りたというものだ。
（それに。待ちに待った、放課後！）
　駿は、やたらとニコニコしていた。
　放課後は、生徒会長としての仕事が伊織には待っている。
　そして、生徒会役員には、憧れの篠崎の姿もあるはずだ。
　しかし、そんな希望に、伊織はじろりと横目をやった。
「篠崎に会える、と喜んでいるだろう」
「いえ、そんな」
　本音をズバリと当てられて、駿は慌てた。
　慌てた後の伊織の言葉には、肩を落とした。
「残念だが、今日は生徒会の活動日ではないのだ。帰宅するぞ」
「はい……」
　君は本当に解りやすいな、と笑う伊織だ。
「ほら、もう下足棟だぞ。靴を出せ」
「あ、はい」
　駿は諦め、自分のシューズボックスを開けて、手を突っ込んだ。
　底がすり減って薄くなった、靴。
　ちらりと伊織に目をやると、彼はちゃんとシューホーンを使って靴を履いていた。
　ピカピカの革靴の後ろから、汚れて穴の開いたスニーカーが付いてくる。
　校門には、朝の高級車が待っていた。
　朝と同じように、駿は伊織の後で自動車に乗り込んだ。
　ボロボロの靴を恥じながら、自動車に乗り込んだ。