金曜日の少年~「仕方ないよね。僕は、オメガなんだもの」虐げられた駿は、わがまま御曹司アルファの伊織に振り回されるうちに変わってゆく~

大波小波

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「伊織さま、何かお願い事をしたんですか?」
「どちらかというと、お礼かな」
 駿に出会わせてくれたことへの、感謝。
 伊織は、神にそう挨拶していた。
(これまで、神に感謝などしたことはなかった私だが)
 だが、心の底から大切に想う人に出会う縁など、そうそうないだろう。
 儀式の中での形だけでなく、一人の人間として、伊織は神に感謝していた。
「駿は? 願い事や新年の抱負を?」
「はい」
 拝殿を後にしながら、駿は伊織に語った。
「伊織さまと、ずっと一緒にいられますように、って。そして……」
「そして?」
 言おうかな、どうしようかな、と迷っている風の駿だったが、やがて伊織を見た。
「志望大学に合格しますように、ってお願いしました」
 大学進学!
 これには伊織も驚いた。
 ほんの前まで、僕の学力では進学は無理です、などと言っていたのに。
 しかし、今、目の前にいる少年を見て、うなずいた。
(駿はもう、出会った頃の、か弱い存在ではないのだな)
「僕は、伊織さまがいなくては、何もできないんです。それは、痛いほど解ってます」
 この服も、お賽銭も、楽しい今の時間さえも、伊織抜きでは手に入らないものなのだ。
 だけど、と駿は唇を引き締めた。
「僕が幸せになったことで、不幸を被っている友達がクラスに居て。彼みたいな、弱い立場の人のために、何か働きたいんです」
 進学し、しっかり学んで。
 社会に出たら、困っている人たちの力になりたい。
 力強い、駿の抱負だった。



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