鶴の独声

二ノ前ト月

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プロローグ

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「大丈夫ですか?」

頭上から、まだ幼さの残る少年の声がする。

「う、うー・・・ん。」

瞼が開かない。
視界どころか、指の一本も動かせない。
どうやら横たわっている様だが、瞼が言う事を利かないのでそれ以上の情報が得られない。
直近の記憶を手繰り寄せる。


わからない。


何があったんだっけ、オレは一体・・・

「頭を打ってるみたいですね、首を痛めてたら危ないから無理に動かずに暫く様子を見ましょう。」

声の持ち主はオレの傍らに居て、どうやら介抱してくれているらしい。
とりあえず、最小限の情報だけでも欲しいオレはその少年に尋ねる事にした。

「今、何時ですか?それからここは何処かわかります?」

問いに対して少年からの返答は暫し間があった。

「・・・今は朝の5時です、ここはウル。
お兄さん、見慣れない格好だけどどこから来たんですか?」

"ウル?"
"見慣れない格好?"

わからない事が多すぎてわからない。

頭が痛い。
喉が渇いた。
瞼はまだ開かない。

死ぬのか、このまま何もわからないまま。

結婚もまだだってのに・・・

・・・結婚?

結婚!そうだ、そうだった!!

今日はちょっと良いレストランを予約してあって、そこで恋人にサプライズでプロポーズをし
・・・したんだっけ?


ポケットに入ってる筈の婚約指輪の有無を確認したいが、いかんせん指が言う事を利かない。




突如としてひんやりとした細い指が額に触れて、考え事から引き戻される。

「熱は無いみたい、痛いところはありますか?」

「痛いのは頭だけ、他には喉が乾いたくらいで」

「水しか無いですが、どうぞ。」

暗闇の視界のまま、唇にあてがわれた水筒らしき無機物。
慎重に傾け、ゆっくりと少しずつ少しずつ口の中に流し込まれる冷たい水。
ごくごくと喉が鳴る。

「有り難う、命拾いしたよ。」

冗談じゃなく、本当に生き返った気がした。
毎日当たり前に口にしている水がこんなに美味しいなんて。


「有り・・・がと、ぅ」


自分の意思とは無関係に遠のく意識。



「お兄さん?」


心優しき少年よ、君に良い事があります様に・・・。
そうしてオレは再び意識を手放した。
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