14 / 20
第14話 デイジー、不意を突かれる
しおりを挟む
「はい!次の方!」
デイジーのお店、〈どうぶつの歯医者さん〉は忙しかった。
ルーファスの目論見通り、アベルの王室関連の知人、学校関連の知人が大挙して押し寄せることになったのだった。
ルーファスが家の外で客あしらいをして、一人ずつ家に入ってもらい、速やかにデイジーが魔法を使うという方式をとっている。
はじめは並んでもらい、そこをデイジーが流れ作業のように治せばいいのでは?と思ったが、動物同士がケンカを始めてしまいうまくいかなかった。
「お、おい、あそこにいるワイバーンはなんなんだ…?」
「さあ…?とりあえず目を合わせずおとなしくしておこう…」
待たされている客もアレキサンダーの示威行為によりイライラよりヒヤヒヤするようで、大過なく治療できた。
だが、人が集まると必ず事件、イザコザが起こるものだ。
「おう、こんなところにサボり魔がいるぜ!」
開けっ放しの玄関から、そんな声が聞こえてきた。
「おう、特待生のくせにサボってばかりいるルーファスちゃんじゃねえか」
見ると、ルーファスより5歳は年上の体格のいい二人組がルーファスに絡んでいた。どうやら魔法学園〈ユグドラシル〉の上級生らしい。
「お客様、ほかのお客様のご迷惑になりますので、どうか無駄口をたたかずおとなしく並んでいてください」
ルーファスは丁寧なのかケンカを売っているのかわからないことを無表情に言った。
「なにぃ!?お客様に失礼じゃねえか?」
「よせよ。貧乏人だから学校サボってまでバイトしねえとなんねえんだろ。かわいそうじゃねえか」
「まったく、特待生の学費はおれらの金でまかなわれてんのによ」
「しょうがねえよ。孤児に恩義を売ったところで返すって概念があるわけもねえだろ」
ルーファスは耐えているようだった。おそらくデイジーのお店がせっかく繁盛しているのに、弟子である自分がぶち壊すわけにはいかないと思っているのだろう。
「おい…!」
デイジーはいつの間にか二人組の背後に立っていた。
「ああ?」
「なんだぁ?このちみっこいのは?」
「ラァア!」
デイジーはジャンプして二人まとめてラリアット一発で吹き飛ばした。もちろん理合を使った。
まわりはざわついたし、ルーファスも啞然としていたが、デイジーは「ウチの可愛い弟子に手を出すやつは許さん!アレキサンダー!捨てて来て!」と言った。
アギャ!
アレキサンダーは待ってましたと言わんばかりに二人組の襟首をつかんで、はるか彼方に飛んで行った。まあ、食べはしないだろう。
「次の方!どうぞ!」
デイジーは忙しいのですぐに仕事にもどった。
この件で恐ろしく狂暴なホビット女店主と恐ろしく可愛いエルフ従業員と恐ろしいワイバーンが切り盛りする店、それが〈どうぶつの歯医者さん〉だという噂がひろがったのだった。
次の日、ルーファスはまた絡まれていた。
しかし、今度は女子たちにだった。
背格好からしてルーファスと同級生という感じの女の子たちだった。また二人いる。
「あっ!ほんとにルーファスこんなところにいた!」ピンク髪の女の子が接客しているルーファスを指さす。
「…お客様、ペットのほうは?」
ルーファスは冷めた顔で確認した。
「ペットなんていないよ!ルーファスに会いに来たの!ねえ、なんで学校来ないの?来てよ!」オレンジ髪の女の子がルーファスの腕をひっぱった。
しかし、ルーファスは女子の腕を振り払うとただ一言「ウザい」と言ったのだった。
女子たちは見るからに表情をひきつらせたが、ピンク髪の方が「またまたー!ほんとはうれしいくせにー!」とルーファスの背中を叩いた。
デイジーは目の端でみていて、ヒヤヒヤした。
ルーファスは本当に、まったくうれしさなど微塵もない表情で「邪魔。帰れ」と命令した。
これには女の子二人組は一気にうつむいてしまった。オレンジ髪の女の子なんかは肩が小刻みに震えだしている。
「…ルーファス君」
デイジーはいつの間にかルーファスの背後に立っていた。
「え?あっ、お師匠さま」
冷たい表情が一変してほがらかになる。
怖い。
もしも自分がこの涙ぐんでいる女の子たちだったとしたら…。
「ルーファス君、よくない」
「え?」
「昨日の連中とはちがって悪意があるわけじゃないし…。それにこういう形で女の子を泣かせてるルーファス君はちょっとカッコ悪いと思う」
ルーファスは今のデイジーの言葉におおきなショックを受けたようだ。足をもつれさせながら、女子たちに振り返った。
女子たちはルーファスに見つめられて、ビクッと体を震わせた。もう涙が流れてしまっていた。
「…ごめん。言い過ぎた」
「う、ううん。こちらこそ…」
「急に来てごめんね…」
気まずい雰囲気が流れるが、一応は解決したようだ。
息をつき、仕事に戻ろうとした目の端に女子たちが映った。
女子たちはデイジーのことをにらんでいた。
嫉妬の炎に巻かれる前に、デイジーは駆け足で診療所である家に戻ったのだった。
「…昨日、今日と迷惑をかけてごめんなさい」
ルーファスが仕事終わりに謝ってきた。
「あー、いやいや、大変だね。それにしてもルーファス君ってやっぱりモテるんだね。好きな人とか彼女とかいないの?」
「いません」即答だった。
「あ、そう。好きなタイプとかは。ほら、栗毛のお姉さんとかニットワンピースが似合うお姉さんとか」
「なんですかそれ…。まあ、強いてあげるならお師匠さまみたいな人ですね」
「お、おお」
デイジーはいきなり言われて赤くなった。
ルーファスはなぜか余裕の微笑みをしてみせた。
まるで勝利者のようだ。
生意気な。
だが、その生意気な笑顔にデイジーはドキドキしてしまうのだった…。
「おーい!オレもいるんだがなあ!見えてるー!?」クロがデイジーの肩から自己主張した。「最近、オレ影うすすぎないか?」
デイジーとルーファスはそれでも見つめ合っていた。
クロは拗ねた。
デイジーのお店、〈どうぶつの歯医者さん〉は忙しかった。
ルーファスの目論見通り、アベルの王室関連の知人、学校関連の知人が大挙して押し寄せることになったのだった。
ルーファスが家の外で客あしらいをして、一人ずつ家に入ってもらい、速やかにデイジーが魔法を使うという方式をとっている。
はじめは並んでもらい、そこをデイジーが流れ作業のように治せばいいのでは?と思ったが、動物同士がケンカを始めてしまいうまくいかなかった。
「お、おい、あそこにいるワイバーンはなんなんだ…?」
「さあ…?とりあえず目を合わせずおとなしくしておこう…」
待たされている客もアレキサンダーの示威行為によりイライラよりヒヤヒヤするようで、大過なく治療できた。
だが、人が集まると必ず事件、イザコザが起こるものだ。
「おう、こんなところにサボり魔がいるぜ!」
開けっ放しの玄関から、そんな声が聞こえてきた。
「おう、特待生のくせにサボってばかりいるルーファスちゃんじゃねえか」
見ると、ルーファスより5歳は年上の体格のいい二人組がルーファスに絡んでいた。どうやら魔法学園〈ユグドラシル〉の上級生らしい。
「お客様、ほかのお客様のご迷惑になりますので、どうか無駄口をたたかずおとなしく並んでいてください」
ルーファスは丁寧なのかケンカを売っているのかわからないことを無表情に言った。
「なにぃ!?お客様に失礼じゃねえか?」
「よせよ。貧乏人だから学校サボってまでバイトしねえとなんねえんだろ。かわいそうじゃねえか」
「まったく、特待生の学費はおれらの金でまかなわれてんのによ」
「しょうがねえよ。孤児に恩義を売ったところで返すって概念があるわけもねえだろ」
ルーファスは耐えているようだった。おそらくデイジーのお店がせっかく繁盛しているのに、弟子である自分がぶち壊すわけにはいかないと思っているのだろう。
「おい…!」
デイジーはいつの間にか二人組の背後に立っていた。
「ああ?」
「なんだぁ?このちみっこいのは?」
「ラァア!」
デイジーはジャンプして二人まとめてラリアット一発で吹き飛ばした。もちろん理合を使った。
まわりはざわついたし、ルーファスも啞然としていたが、デイジーは「ウチの可愛い弟子に手を出すやつは許さん!アレキサンダー!捨てて来て!」と言った。
アギャ!
アレキサンダーは待ってましたと言わんばかりに二人組の襟首をつかんで、はるか彼方に飛んで行った。まあ、食べはしないだろう。
「次の方!どうぞ!」
デイジーは忙しいのですぐに仕事にもどった。
この件で恐ろしく狂暴なホビット女店主と恐ろしく可愛いエルフ従業員と恐ろしいワイバーンが切り盛りする店、それが〈どうぶつの歯医者さん〉だという噂がひろがったのだった。
次の日、ルーファスはまた絡まれていた。
しかし、今度は女子たちにだった。
背格好からしてルーファスと同級生という感じの女の子たちだった。また二人いる。
「あっ!ほんとにルーファスこんなところにいた!」ピンク髪の女の子が接客しているルーファスを指さす。
「…お客様、ペットのほうは?」
ルーファスは冷めた顔で確認した。
「ペットなんていないよ!ルーファスに会いに来たの!ねえ、なんで学校来ないの?来てよ!」オレンジ髪の女の子がルーファスの腕をひっぱった。
しかし、ルーファスは女子の腕を振り払うとただ一言「ウザい」と言ったのだった。
女子たちは見るからに表情をひきつらせたが、ピンク髪の方が「またまたー!ほんとはうれしいくせにー!」とルーファスの背中を叩いた。
デイジーは目の端でみていて、ヒヤヒヤした。
ルーファスは本当に、まったくうれしさなど微塵もない表情で「邪魔。帰れ」と命令した。
これには女の子二人組は一気にうつむいてしまった。オレンジ髪の女の子なんかは肩が小刻みに震えだしている。
「…ルーファス君」
デイジーはいつの間にかルーファスの背後に立っていた。
「え?あっ、お師匠さま」
冷たい表情が一変してほがらかになる。
怖い。
もしも自分がこの涙ぐんでいる女の子たちだったとしたら…。
「ルーファス君、よくない」
「え?」
「昨日の連中とはちがって悪意があるわけじゃないし…。それにこういう形で女の子を泣かせてるルーファス君はちょっとカッコ悪いと思う」
ルーファスは今のデイジーの言葉におおきなショックを受けたようだ。足をもつれさせながら、女子たちに振り返った。
女子たちはルーファスに見つめられて、ビクッと体を震わせた。もう涙が流れてしまっていた。
「…ごめん。言い過ぎた」
「う、ううん。こちらこそ…」
「急に来てごめんね…」
気まずい雰囲気が流れるが、一応は解決したようだ。
息をつき、仕事に戻ろうとした目の端に女子たちが映った。
女子たちはデイジーのことをにらんでいた。
嫉妬の炎に巻かれる前に、デイジーは駆け足で診療所である家に戻ったのだった。
「…昨日、今日と迷惑をかけてごめんなさい」
ルーファスが仕事終わりに謝ってきた。
「あー、いやいや、大変だね。それにしてもルーファス君ってやっぱりモテるんだね。好きな人とか彼女とかいないの?」
「いません」即答だった。
「あ、そう。好きなタイプとかは。ほら、栗毛のお姉さんとかニットワンピースが似合うお姉さんとか」
「なんですかそれ…。まあ、強いてあげるならお師匠さまみたいな人ですね」
「お、おお」
デイジーはいきなり言われて赤くなった。
ルーファスはなぜか余裕の微笑みをしてみせた。
まるで勝利者のようだ。
生意気な。
だが、その生意気な笑顔にデイジーはドキドキしてしまうのだった…。
「おーい!オレもいるんだがなあ!見えてるー!?」クロがデイジーの肩から自己主張した。「最近、オレ影うすすぎないか?」
デイジーとルーファスはそれでも見つめ合っていた。
クロは拗ねた。
0
あなたにおすすめの小説
異世界に転移したら、孤児院でごはん係になりました
雪月夜狐
ファンタジー
ある日突然、異世界に転移してしまったユウ。
気がつけば、そこは辺境にある小さな孤児院だった。
剣も魔法も使えないユウにできるのは、
子供たちのごはんを作り、洗濯をして、寝かしつけをすることだけ。
……のはずが、なぜか料理や家事といった
日常のことだけが、やたらとうまくいく。
無口な男の子、甘えん坊の女の子、元気いっぱいな年長組。
個性豊かな子供たちに囲まれて、
ユウは孤児院の「ごはん係」として、毎日を過ごしていく。
やがて、かつてこの孤児院で育った冒険者や商人たちも顔を出し、
孤児院は少しずつ、人が集まる場所になっていく。
戦わない、争わない。
ただ、ごはんを作って、今日をちゃんと暮らすだけ。
ほんわか天然な世話係と子供たちの日常を描く、
やさしい異世界孤児院ファンタジー。
若返ったオバさんは異世界でもうどん職人になりました
mabu
ファンタジー
聖女召喚に巻き込まれた普通のオバさんが無能なスキルと判断され追放されるが国から貰ったお金と隠されたスキルでお店を開き気ままにのんびりお気楽生活をしていくお話。
なるべく1日1話進めていたのですが仕事で不規則な時間になったり投稿も不規則になり週1や月1になるかもしれません。
不定期投稿になりますが宜しくお願いします🙇
感想、ご指摘もありがとうございます。
なるべく修正など対応していきたいと思っていますが皆様の広い心でスルーして頂きたくお願い致します。
読み進めて不快になる場合は履歴削除をして頂けると有り難いです。
お返事は何方様に対しても控えさせて頂きますのでご了承下さいます様、お願い致します。
私はもう必要ないらしいので、国を護る秘術を解くことにした〜気づいた頃には、もう遅いですよ?〜
AK
ファンタジー
ランドロール公爵家は、数百年前に王国を大地震の脅威から護った『要の巫女』の子孫として王国に名を残している。
そして15歳になったリシア・ランドロールも一族の慣しに従って『要の巫女』の座を受け継ぐこととなる。
さらに王太子がリシアを婚約者に選んだことで二人は婚約を結ぶことが決定した。
しかし本物の巫女としての力を持っていたのは初代のみで、それ以降はただ形式上の祈りを捧げる名ばかりの巫女ばかりであった。
それ故に時代とともにランドロール公爵家を敬う者は減っていき、遂に王太子アストラはリシアとの婚約破棄を宣言すると共にランドロール家の爵位を剥奪する事を決定してしまう。
だが彼らは知らなかった。リシアこそが初代『要の巫女』の生まれ変わりであり、これから王国で発生する大地震を予兆し鎮めていたと言う事実を。
そして「もう私は必要ないんですよね?」と、そっと術を解き、リシアは国を後にする決意をするのだった。
※小説家になろう・カクヨムにも同タイトルで投稿しています。
ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします
未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢
十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう
好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ
傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する
今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった
3歳で捨てられた件
玲羅
恋愛
前世の記憶を持つ者が1000人に1人は居る時代。
それゆえに変わった子供扱いをされ、疎まれて捨てられた少女、キャプシーヌ。拾ったのは宰相を務めるフェルナー侯爵。
キャプシーヌの運命が再度変わったのは貴族学院入学後だった。
国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします。
樋口紗夕
恋愛
公爵令嬢ヘレーネは王立魔法学園の卒業パーティーで第三王子ジークベルトから婚約破棄を宣言される。
ジークベルトの真実の愛の相手、男爵令嬢ルーシアへの嫌がらせが原因だ。
国外追放を言い渡したジークベルトに、ヘレーネは眉一つ動かさずに答えた。
「国外追放ですか? 承りました。では、すぐに国外にテレポートします」
『白い結婚だったので、勝手に離婚しました。何か問題あります?』
夢窓(ゆめまど)
恋愛
「――離婚届、受理されました。お疲れさまでした」
教会の事務官がそう言ったとき、私は心の底からこう思った。
ああ、これでようやく三年分の無視に終止符を打てるわ。
王命による“形式結婚”。
夫の顔も知らず、手紙もなし、戦地から帰ってきたという噂すらない。
だから、はい、離婚。勝手に。
白い結婚だったので、勝手に離婚しました。
何か問題あります?
神々の愛し子って何したらいいの?とりあえずのんびり過ごします
夜明シスカ
ファンタジー
アリュールという世界の中にある一国。
アール国で国の端っこの海に面した田舎領地に神々の寵愛を受けし者として生を受けた子。
いわゆる"神々の愛し子"というもの。
神々の寵愛を受けているというからには、大事にしましょうね。
そういうことだ。
そう、大事にしていれば国も繁栄するだけ。
簡単でしょう?
えぇ、なんなら周りも巻き込んでみーんな幸せになりませんか??
−−−−−−
新連載始まりました。
私としては初の挑戦になる内容のため、至らぬところもあると思いますが、温めで見守って下さいませ。
会話の「」前に人物の名称入れてみることにしました。
余計読みにくいかなぁ?と思いつつ。
会話がわからない!となるよりは・・
試みですね。
誤字・脱字・文章修正 随時行います。
短編タグが長編に変更になることがございます。
*タイトルの「神々の寵愛者」→「神々の愛し子」に変更しました。
ユーザ登録のメリット
- 毎日¥0対象作品が毎日1話無料!
- お気に入り登録で最新話を見逃さない!
- しおり機能で小説の続きが読みやすい!
1~3分で完了!
無料でユーザ登録する
すでにユーザの方はログイン
閉じる