百万回生きたデイジーは復讐にも飽きたので自由に生きることにした

Yapa

文字の大きさ
16 / 20

第16話 デイジー、ちょっと大人になる

しおりを挟む
三日経ってもクロとデイジーは目を合わせようとしなかった。



ルーファスはさすがに気づまりになり「あの~、もしかしてケンカでもしたんですか?」と聞いた。

クロは「してねーよ」と言い、デイジーは「した」と言った。



どうやらだいぶこじれているようだ。

ルーファスは仕事終わりに一人ずつ話を聞くことにした。



「クロさん、なにがあったんですか?話を聞かせてください」

クロは後ろをむいてねそべり、しっぽを床にたんっとたたきつけて「めんどい」と言った。



「そこをなんとかお願いしますよ。はっきりいって、居づらいですよ」

クロはゴロンとルーファスの方に向き直って「てゆーか、普通に話しかけてるんじゃないよ」と言った。



クロはデイジーにしか見えなかったのが、つい最近ルーファスにはすこし見えることが判明したのだ。



「え?ダメですか?」

「ダメじゃねえけどよ」

「最近慣れて来たのかクロさんのことよく見えるし、よく聞こえるんですよ」

「え?マジ?」

「マジです。クロさんってすごいイケメンですね」

「おっ?そうか?」クロのしっぽが二度たんたんっと床を打った。



「はい。なでていいですか?」

「いやだよ」

「ちぇ。で、どうなんですか?なんでケンカしたんですか?」

「るせーな」

「てゆーか、クロさんってデイジーさんのなんなんですか?」

「あ~?」

「デイジーさんと最初どうやって出会ったんですか?」

「最初、どう出会ったか、ねえ…」

クロはぼんやりと思いを馳せた。




クロは記憶をたどってみても、気づいたらデイジーにくっついていた記憶しかなかった。



ただ最初のころはデイジーには気づかれていなかった。

なんならデイジーに気づかれたのは比較的最近のことだった。

100万回の生のうち、たった1万回。だから1パーセントしか気づかれて生きていなかった。



べつに孤独は感じなかった。

そういうものだと思っていた。

ただこの愚かで小さな生き物をずっと見ているだけだった。

あくびが出た。

退屈だった。



なにしろデイジーは本当に愚かで、いつも同じことを繰り返していた。

愚かなうえに下品な家族に愛されようと、自身をさらに下においては殺されていた。



本当に愚かだなと思った。



しかし、10万1回目の生の時からなにやら妙な努力をやりはじめた。

頭に皿をのせたり、拳を石壁にたたきつけたり、逆立ちしたり。

とうとう本格的に気が狂ったのかと思った。

まあ、それまでも十分狂ってはいたが。



だが、ちょっとだけ退屈しなくなった。

デイジーの心にわずかながら変化が訪れたのはまちがいないからだ。



99万1回目の時、ついにデイジーは愚かな努力を成就させて兄を殺した。

思わず快哉を叫んだものだ。



その直後のことだった。

デイジーに見つかったのは。



そこからは退屈しなかった。

デイジーは家族に復讐を果たし、ぐちゃぐちゃになり、女悪魔なんて呼ばれながらもがんばって生きていた。



はじめのころの他人の顔をうかがってばかりいる子供が、女悪魔まで来たのだ。

クロは心底良かったなと思った。



デイジーはアホだけど、頑張り屋さんだなと思った。アホだけど。

嫌いじゃない。



精霊ってこういうものなのか?いつの間にかクロはデイジーのことを愛しいと感じ始めていた。

他の精霊のこと知らないから、わからんけど。




「ねー、どうなんですか?」とルーファス。

「ん?ああ…」

クロは一瞬のトリップから目覚めた。目の前には美少女然とした美少年ルーファスがいる。



「…ルーファス、大師匠としてお前に言っておくことがある」

「え?なんですか?あらたまって」

「姿勢を正してよく聞け。オレも正すから」

クロは寝てたのをどっこいしょと座り直した。しっぽをたしーんたしーんとしてルーファスにも促す。



「え、あ、はい」

ルーファスはよくはわからないが三角座りになって背筋を伸ばした。



「いいか?心してよーく聞けよ」

「はい…」



「お前にデイジーはやらん」

「えっ!?」

「アイツはオレのもんだ。なんせずっーと一緒にいたからな。お前の知らんデイジーを隅から隅まで知っている!」

「は、はあ…」ルーファスは突然のマウントに面食らった。



「ん?そんなふうに戸惑い顔をしおって、たしかにお前は可愛いよ!」

「あ、ありがとうございます…?」

「けどな、アイツの好みは結局のところちょっとワルそうでチャラい感じの手のひらで転がしてくれそうな超絶イケメン、つまりオレさm」

「だらーーーー!!!!」

スパーン!デイジーの平手がクロの頭を叩いた。



「いってぇ!いきなりなにすんだ!?」

「ルーファス君にへんなこと吹きこんでたからでしょ!」

デイジーは怪しい動きをしていたルーファスとクロの会話をついつい理合を使って盗聴していたのだった。近い距離ならできる繊細な芸当だった。



「いーや!お前は絶対に昨日、オレに惚れてたね!」

「ば、バカじゃないの!?バカじゃないの!?」

デイジーとクロはもう組んでほぐれつの乱闘に発展した。デイジーがしっぽをひっぱれば、クロはデイジーの口に手をつっこんで頬をひっぱった。



「ふふふ、あははははは!」ルーファスが大笑いした。

「え?なに急に、こわいんだけど」とクロ。

「う、うん」とデイジー。

乱闘はとまった。



「あ、すいません。お二人とも結局仲いいなあと思いまして…。どうぞ続けてください」

うながされてやるものでもなし、デイジーとクロはお互いを見合った。

やがてクロがため息をついた。



「あー、デイジー」

「なによ」

「昨日はすまなかったな。酔っぱらってたっていうのもある。許してくれ」

「うわー、わりと最低な言い訳…」

「うるせーな」

「…ま、いいよ。今回は許してあげる」

「ほんとか?」クロのしっぽがうれしそうに高々と持ち上げられる。



「…ほんと」

「よしよし」

クロはデイジーの肩に飛び乗った。

「やっぱりここじゃないと落ち着かねえからな」

クロはずいぶんうれしそうだった。

「…重い」



デイジーの顔は赤かった。

昨日のクロが一瞬頭をよぎった。

あんなのに肩にのられてたり、一緒に寝てたり、舐められてたりしてたのかしら…。いいや、忘れよう。きっとドキドキしたのだってチャームの魔法でもかかっていたのよ…。



乙女は心の奥底に秘密をしまいこんだ。

「ふっふふっ~ん」

「よかったですねえ、クロさん」

知らぬのは愚かな男ばかりなり。
しおりを挟む
感想 0

あなたにおすすめの小説

ヒロインですが、舞台にも上がれなかったので田舎暮らしをします

未羊
ファンタジー
レイチェル・ウィルソンは公爵令嬢 十二歳の時に王都にある魔法学園の入学試験を受けたものの、なんと不合格になってしまう 好きなヒロインとの交流を進める恋愛ゲームのヒロインの一人なのに、なんとその舞台に上がれることもできずに退場となってしまったのだ 傷つきはしたものの、公爵の治める領地へと移り住むことになったことをきっかけに、レイチェルは前世の夢を叶えることを計画する 今日もレイチェルは、公爵領の片隅で畑を耕したり、お店をしたりと気ままに暮らすのだった

悪役令嬢の身代わりで追放された侍女、北の地で才能を開花させ「氷の公爵」を溶かす

黒崎隼人
ファンタジー
「お前の罪は、万死に値する!」 公爵令嬢アリアンヌの罪をすべて被せられ、侍女リリアは婚約破棄の茶番劇のスケープゴートにされた。 忠誠を尽くした主人に裏切られ、誰にも信じてもらえず王都を追放される彼女に手を差し伸べたのは、彼女を最も蔑んでいたはずの「氷の公爵」クロードだった。 「君が犯人でないことは、最初から分かっていた」 冷徹な仮面の裏に隠された真実と、予想外の庇護。 彼の領地で、リリアは内に秘めた驚くべき才能を開花させていく。 一方、有能な「影」を失った王太子と悪役令嬢は、自滅の道を転がり落ちていく。 これは、地味な侍女が全てを覆し、世界一の愛を手に入れる、痛快な逆転シンデレラストーリー。

【完結】追放された子爵令嬢は実力で這い上がる〜家に帰ってこい?いえ、そんなのお断りです〜

Nekoyama
ファンタジー
魔法が優れた強い者が家督を継ぐ。そんな実力主義の子爵家の養女に入って4年、マリーナは魔法もマナーも勉学も頑張り、貴族令嬢にふさわしい教養を身に付けた。来年に魔法学園への入学をひかえ、期待に胸を膨らませていた矢先、家を追放されてしまう。放り出されたマリーナは怒りを胸に立ち上がり、幸せを掴んでいく。

タダ働きなので待遇改善を求めて抗議したら、精霊達から『破壊神』と怖れられています。

渡里あずま
ファンタジー
出来損ないの聖女・アガタ。 しかし、精霊の加護を持つ新たな聖女が現れて、王子から婚約破棄された時――彼女は、前世(現代)の記憶を取り戻した。 「それなら、今までの報酬を払って貰えますか?」 ※※※ 虐げられていた子が、モフモフしながらやりたいことを探す旅に出る話です。 ※重複投稿作品※ 表紙の使用画像は、AdobeStockのものです。

「魔法を使わない魔術師を切り捨てた国は、取り返しのつかない後悔をする

藤原遊
ファンタジー
魔法を使わない魔術師は、役に立たない。 そう判断した王国は、彼女を「不要」と切り捨てた。 派手な魔法も、奇跡も起こさない。 彼女がしていたのは、魔力の流れを整え、結界を維持し、 魔法事故が起きないよう“何も起こらない状態”を保つことだけだった。 代わりはいくらでもいる。 そう思われていた仕事は、彼女がいなくなった途端に破綻する。 魔法は暴走し、結界は歪み、 国は自分たちが何に守られていたのかを知る。 これは、 魔法を使わなかった魔術師が、 最後まで何もせずに証明した話。 ※主人公は一切振り返りません。

役立たずと追放された聖女は、第二の人生で薬師として静かに輝く

腐ったバナナ
ファンタジー
「お前は役立たずだ」 ――そう言われ、聖女カリナは宮廷から追放された。 癒やしの力は弱く、誰からも冷遇され続けた日々。 居場所を失った彼女は、静かな田舎の村へ向かう。 しかしそこで出会ったのは、病に苦しむ人々、薬草を必要とする生活、そして彼女をまっすぐ信じてくれる村人たちだった。 小さな治療を重ねるうちに、カリナは“ただの役立たず”ではなく「薬師」としての価値を見いだしていく。

【番外編も完結】で、お前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか?

Debby
恋愛
ヴェルトが友人からの手紙を手に辺境伯令嬢であるレィディアンスの元を訪れたのは、その手紙に「詳細は彼女に聞け」と書いてあったからだ。 簡単にいうと、手紙の内容は「学園で問題を起こした平民──エボニーを妻として引き取ってくれ」というものだった。 一方その話を聞いてしまった伯爵令嬢のオリーブは動揺していた。 ヴェルトとは静かに愛を育んできた。そんな自分を差し置いて、言われるがまま平民を妻に迎えてしまうのだろうか。 そんなオリーブの気持ちを知るはずもないエボニーは、辺境伯邸で行儀見習いをすることになる。 オリーブは何とかしてヴェルトを取り戻そうと画策し、そのことを咎められてしまう。もう後は無い。 オリーブが最後の望みをかけてヴェルトに自分を選んで欲しいと懇願する中、レィディアンスが静かに口を開いた。 「で、そろそろお前が彼女に嫌がらせをしている理由を聞かせてもらおうか」 「はい?」 ヴェルトは自分が何を言われたのか全く理解が出来なかった。 *--*--* 覗いてくださりありがとうございます。(* ᴗ ᴗ)⁾⁾ ★2/17 番外編を投稿することになりました。→完結しました! ★★「このお話だけ読んでいただいてもOKです!」という前提のもと↓↓↓ このお話は独立した一つのお話ですが、「で。」シリーズのサイドストーリーでもあり、第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」の「エボニーその後」でもあります(あるいは「最終話」のその後)。 第一弾「で、私がその方に嫌がらせをする理由をお聞かせいただいても?」 第二弾「で、あなたが私に嫌がらせをする理由を伺っても?」 第三弾「で、あなたが彼に嫌がらせをする理由をお話しいただいても?」 どれも女性向けHOTランキングに入り、特に第二弾はHOT一位になることが出来ました!(*´▽`人)アリガトウ もしよかったら宜しくお願いしますね!

悪役令嬢に転生したので、ゲームを無視して自由に生きる。私にしか使えない植物を操る魔法で、食べ物の心配は無いのでスローライフを満喫します。

向原 行人
ファンタジー
死にかけた拍子に前世の記憶が蘇り……どハマりしていた恋愛ゲーム『ときめきメイト』の世界に居ると気付く。 それだけならまだしも、私の名前がルーシーって、思いっきり悪役令嬢じゃない! しかもルーシーは魔法学園卒業後に、誰とも結ばれる事なく、辺境に飛ばされて孤独な上に苦労する事が分かっている。 ……あ、だったら、辺境に飛ばされた後、苦労せずに生きていけるスキルを学園に居る内に習得しておけば良いじゃない。 魔法学園で起こる恋愛イベントを全て無視して、生きていく為のスキルを習得して……と思ったら、いきなりゲームに無かった魔法が使えるようになってしまった。 木から木へと瞬間移動出来るようになったので、学園に通いながら、辺境に飛ばされた後のスローライフの練習をしていたんだけど……自由なスローライフが楽し過ぎるっ! ※第○話:主人公視点  挿話○:タイトルに書かれたキャラの視点  となります。

処理中です...