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第5話 デイジー、美少女に遭う
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突然だけど、わたしは実は魔法を使えるわ。いかにも使えなさそうにしてたけど、実は使えるの。ごめんなさいね。
それで、その魔法は【動物の口内をきれいにする魔法】なの。
どんな動物の歯垢も歯石もとってしまうし、口内炎も歯肉炎も歯周病も治してしまうという魔法。
わたしの魔法さえあれば、動物はハミガキ要らずってこと。なかなか素敵な魔法でしょ?
だけど、武門貴族であるマルグリット家からすればまったく使えない魔法だったのね。治癒魔法ですらなく、なんと動物の口限定の魔法とは!ってね。
幼い頃に、決定的な出来事があったわ。
動物の歯を治すわたしを見たロンが早とちりして、パーティ中に治癒魔法の使い手としてわたしを紹介しちゃったの。
魔法の発現は早ければ早いほど強力な魔法使いになるのが通例らしい。当時三歳のわたしはその瞬間まで将来を嘱望されていたわけね。
だけど、パーティに来てた貴族のかすり傷を治そうとしてもちっとも治せなかった。代わりに、貴婦人が連れてた小型犬の口臭は治せちゃったのよね。
幼かったわたしは得意げに言ったものよ。
「わたし、ワンちゃんとかのおくちをきれいにできるのよ!すごいでしょ!」
これにパーティ会場は大笑い。
栄えある武門貴族のお嬢様の魔法が【動物の口内をきれいにする魔法】とは!ってね。
ロンやイザベラは羞恥に顔を染めて、それでも客前では笑顔を崩さなかったわ。
その日の夜から、わたしは地獄を見ることになったんだけどね。
けど、わたしは今回の人生で街を出歩くようになって気づいたの。
「ねえ、クロ。ペットブームなのかしら?」
「かもね」
街行く人々はいろんなペットを連れて歩いてたわ。
犬、猫、ミニドラゴン、亀、アルマジロ、小型の馬、毛むくじゃらの何か、空にはグリフォンにまたがる人などなど見たことのないものも含めて、いろいろな動物たちがいたの。
「これはビジネスチャンスかも…!」
「目を光らせてなにいってるの?」
「こうしちゃおれん!クロ!さっそく印刷屋さんにいくわよ!」
わたしは街に買い物にきてたその足で、印刷屋さんへと駆け込んだわ。
印刷職人の人に話をすると「嬢ちゃん、それなら自分で手書きした方が速いし、安いよ。ウチはわざわざ木彫りして作るところだからさ」って言われちゃった。
「そっかあ…」
残念。せっかくの素敵な思いつきだったのに…。
「どんなデザインにする?」
わたしがしょぼんとしていると、職人のおじさんはその場で紙を取り出して、ニヤリと笑ったの。
ステキだった。カッコいい大人っているのね。
「いいの!?」
「ハッハッハッ!未来のお得意さんにはサービスしないとな」
「ありがとう!え~とね、大きな黒猫が大きく口を開けてて、そこに〈どうぶつの歯医者さん〉って書いて欲しいの」
「おっ、なんだい。ずいぶんちゃんとしたイメージあるんだな」
「うん!」
わたしは肩にのっているクロを見て笑っちゃった。クロは大口のあくびをしていたわ。それってチラシのデザイン通りの顔だったのよ。
今、そのチラシを持っている美少女が目の前に立っているってわけ。
わたしと同じくらいの目の高さだけど、やっぱり緊張してるのか目を合わせてもくれない。
目をむりやり合わせようと下からのぞきこむと、照れたように顔を赤くしちゃう。
…かわいい!この娘とお友達になりたい!
わたしは生まれてはじめてそんなことを思ったわ。
「あの…」
「あ、ごめんなさい!どうぞなかへ入って!」
「どうも…」
楚々として家に入ってくる美少女にわたしはついニマニマしちゃった。
「…ヘンタイ?」
肩にのってたクロが目を見開いて見つめて来たわ。完全に犯罪者を見る目だったわね。
「ちがうわよ!最初のお客さんがこんなステキな子でうれしいってだけ!」
小声で言ったんだけど、距離がちかいから美少女はおびえてふりかえったわ。
「な、なんでもないのよ~!あっ!お茶とかいる?最近買ったおいしい紅茶があるんだけど!」
「…いえ、結構です」
絶対警戒されてる…。変な薬でも盛られると思ったのかもしれない…。
「あの…、歯医者さんは…?」
美少女は部屋のなかをきょろきょろしてた。ペットのために歯医者に来たら、おなじ年ごろの女の子しか見当たらないことに困惑しているみたいだったわ。
まあ、仕方ないわよね。
「あっ、わたし、わたし~!」
「え?」
「わたしが〈どうぶつの歯医者さん〉だよ!」
「そ、そうなんですか…」
「だいじょうぶだよ!ほら、魔法使いは早くに才能を発現させたものほど優秀だっていうでしょ?わたし、それだから!」
「は、はぁ」
わたしは自信たっぷりに言い切ったわ。なぜなら、店を開くにあたって市場で買って読んだ『顧客を逃がさず、虜にする鉄則接客術』にそう書いてあったから。
客の前では自信満々にふるまわなければならない。たとえ、自信がなくても。そう書いてあったのよ。
「デイジーって結構理論から入ろうとするよな~」って本を読んでる時言われたけど、足りない経験はまずは理論で埋めないとね。そうやって理合も手に入れたんだし。ずいぶん時間かかったけど。
「それでは、患者さんを見せてもらおうかな。そこのテーブルのうえにお願いします!」
言われて美少女は手に持っていたカゴをやや不安そうにテーブルのうえに置いたわ。
カゴには目の幅くらいの長方形の覗き穴が開いていて、患者のギラギラとした目が見えた。これはどんな狂暴な相手が出てくるかわかったものじゃないわね…。なかなかスリリングな仕事を我ながら選んだものだと思ったわ。
「じゃ、さっそく見せてもらえる?」
「はい」
「まあ!美人!」
美少女がカゴを開けると、そこにはとびきり美しい白猫が入っていたの。
わたしは思わず声に出してたわ。
「えへへ、ですよね」
美少女はうれしそうに白猫をなでた。美少女と美猫の組み合わせは絵にしてとっておきたいほどだったわよ。
「へぇ…」
見るとクロもわたしの肩から身を乗り出して白猫を見てた。鼻をヒクヒクさせてる。
「…ヘンタイ?」
美少女に聞こえないくらいの極小の声で言うと、じろりとクロはわたしをにらんだわ。
「シャー!」
白猫が急にイカ耳になったの。もしかして、猫にはクロが見えるのかしらね?
「わっ!急にどうしたの、ポー」
美少女が白猫の体をおさえてなだめたわ。白猫の名前はポーというらしい。
「ポーちゃんっていうのね。それで、ポーちゃんはどうしたのかしら?」
「あっ、はい。最近なんですけど、食事のときに口を気にするようになりまして。それで…」
美少女は、なんと涙ぐみはじめた。
「え?え?だいじょうぶ?どうしたの?」
わたしはあわてたわ。肩にのってるクロもソワソワして右肩と左肩を行ったり来たりしてた。
「ごめんなさい…。それで、昨日の夜、食べてたら、急にポーがぎゃっ!って叫んで走り回って。今朝もそうで。口の中を見たら、赤くなってて。たぶん、口のなかが痛いんだと思うんですけど。それで、チラシのこと思い出して…」
美少女はがんばって話してくれた。
わたしは胸が熱くなったわ。
だって、この子はほんとうにポーちゃんの心配をしている。
ここには、愛があるもの。
なら、頑張らないとね!
「任せて!」わたしは美少女の両肩をつかんで、まっすぐに目を見て言ったわ。「絶対に治すから!」
わたしはしゃがんで、ポーちゃんの目線になった。まだイカ耳のポーちゃんのあごを、白手袋ごしに指先でそっと包むように触れる。
力を発揮する。イメージするだけでよい。
一瞬球状の光がポーちゃんのあごを包んだ。
「はい!終わり!」
「え…?もう、ですか?」
「うん!もう治ったよ!ばっちり!」
あまりにあっさりしすぎてて、美少女は信じられなかったみたい。
「よかったら、口のなか見てあげて」
「はい」
美少女は「ポーちゃん、ちょっとごめんね」と言い、ポーちゃんの口をこじ開けた。ポーちゃんの耳はもうイカ耳ではなくなっていたわ。
美少女は陽の光を頼りにして、ポーちゃんの口のなかを点検した。じっくりと点検したあと、美少女は顔をあげて、まっすぐにわたしを見たわ。
「…赤くなくなってる!」
「でしょ?」
「はい!いつもの口臭もなくなってます!歯もきれいになってます!」
「そういうこと。ふふっ、これがわたしの魔法よ」
わたしは調子にのって指パッチンして人差し指を差し向け、ウィンクまでしたわ。
「うわー…」
クロの冷たい視線も気にならなかった。
気分がとてもよかったわ。さっきまで泣いてた美少女が今はとても喜んでくれているんだもの。
「試しにちょっとなにか食べさせてみようか?」
「あっ、ポーちゃんのおやつ持ってきてます!」
「いいね」
ポーちゃんは美少女に鶏肉のおやつをもらっておいしそうに食べた。叫びだすことも、走りまわることもなかった。ポーちゃんの口の中は完全に治ったみたい。よかったわ。
実はそんなに使う機会もなかったから、治らなかったらどうしようってちょっと思ってたのよね。これは秘密だけど。
「…すごい!」
「え?」
美少女は興奮気味にわたしを見つめてきたわ。目がキラキラしてる。
「あなたはすごい魔法使いですね!」
「…!」
わたしははじめてそんなことを言われて、しかもいきなりだったから心臓が飛び跳ねたわ。
ドキドキしちゃった。
「あ、あっはっはっ、いや~、キミみたいな可愛い女の子にそんなこと言われて、悪い気はしないな~、あっはっはっ!」
だからなのか、照れて変になっちゃった。
「どこのオッサンだよ」
クロは呆れていたわ。
美少女はなぜかモジモジしてたの。
「あの…」
「ん?」
「よく間違われるんですけど、ボク、女の子じゃないです…」
「んんっ?」
「ボク、男です…」
「はっ!?えっ!?お、男の子?男の子ってなに!?え?女の子とはちがくて!???」
コクンとうなずかれちゃったわ。
「ええっー!!!!」
盛大におどろいてしまった。まあ、そりゃそうよね。
「ごめんなさい…」
美少女、いや、美少年はなぜか申し訳なさそうにしていたわ。
「い、いや、人生長ければ、いろいろあるよね…???」
わたしは意味不明なことを口走ったけれど、わたしの長い人生でもこれはなかなかない衝撃だったわ。美少年は、それほどまでに美少女だったの。
「ま、まあまあ、あれだな!こちらこそ勝手に勘違いしてごめんなさいだね」
わたしは気を取り直すことにしたわ。鉄則接客術にもリカバリーがなにより大事と書かれていたのを思い出したから。
「そうだ!」わたしは手を打ち鳴らした。ちょうど大事なことに気づいたの。「わたしたち、自己紹介もまだだったよね!わたしはデイジー!ただのデイジーだよ!よろしくね!」
わたしは握手をしようと手をさしだしたわ。
美少年はちょっと気恥ずかしそうにしながらも、微笑んで手を伸ばしてくれた。
わたしたちは握手した。
手を振って、お互いに見つめ合って微笑した。
その時ちょっとだけ思ったのよね。
あれ?どこかで見たことあるかも?って。
美少年は言ったわ。
「よろしくお願いします。ボクの名前はルーファス。ルーファス・カレイドスです」
それで、その魔法は【動物の口内をきれいにする魔法】なの。
どんな動物の歯垢も歯石もとってしまうし、口内炎も歯肉炎も歯周病も治してしまうという魔法。
わたしの魔法さえあれば、動物はハミガキ要らずってこと。なかなか素敵な魔法でしょ?
だけど、武門貴族であるマルグリット家からすればまったく使えない魔法だったのね。治癒魔法ですらなく、なんと動物の口限定の魔法とは!ってね。
幼い頃に、決定的な出来事があったわ。
動物の歯を治すわたしを見たロンが早とちりして、パーティ中に治癒魔法の使い手としてわたしを紹介しちゃったの。
魔法の発現は早ければ早いほど強力な魔法使いになるのが通例らしい。当時三歳のわたしはその瞬間まで将来を嘱望されていたわけね。
だけど、パーティに来てた貴族のかすり傷を治そうとしてもちっとも治せなかった。代わりに、貴婦人が連れてた小型犬の口臭は治せちゃったのよね。
幼かったわたしは得意げに言ったものよ。
「わたし、ワンちゃんとかのおくちをきれいにできるのよ!すごいでしょ!」
これにパーティ会場は大笑い。
栄えある武門貴族のお嬢様の魔法が【動物の口内をきれいにする魔法】とは!ってね。
ロンやイザベラは羞恥に顔を染めて、それでも客前では笑顔を崩さなかったわ。
その日の夜から、わたしは地獄を見ることになったんだけどね。
けど、わたしは今回の人生で街を出歩くようになって気づいたの。
「ねえ、クロ。ペットブームなのかしら?」
「かもね」
街行く人々はいろんなペットを連れて歩いてたわ。
犬、猫、ミニドラゴン、亀、アルマジロ、小型の馬、毛むくじゃらの何か、空にはグリフォンにまたがる人などなど見たことのないものも含めて、いろいろな動物たちがいたの。
「これはビジネスチャンスかも…!」
「目を光らせてなにいってるの?」
「こうしちゃおれん!クロ!さっそく印刷屋さんにいくわよ!」
わたしは街に買い物にきてたその足で、印刷屋さんへと駆け込んだわ。
印刷職人の人に話をすると「嬢ちゃん、それなら自分で手書きした方が速いし、安いよ。ウチはわざわざ木彫りして作るところだからさ」って言われちゃった。
「そっかあ…」
残念。せっかくの素敵な思いつきだったのに…。
「どんなデザインにする?」
わたしがしょぼんとしていると、職人のおじさんはその場で紙を取り出して、ニヤリと笑ったの。
ステキだった。カッコいい大人っているのね。
「いいの!?」
「ハッハッハッ!未来のお得意さんにはサービスしないとな」
「ありがとう!え~とね、大きな黒猫が大きく口を開けてて、そこに〈どうぶつの歯医者さん〉って書いて欲しいの」
「おっ、なんだい。ずいぶんちゃんとしたイメージあるんだな」
「うん!」
わたしは肩にのっているクロを見て笑っちゃった。クロは大口のあくびをしていたわ。それってチラシのデザイン通りの顔だったのよ。
今、そのチラシを持っている美少女が目の前に立っているってわけ。
わたしと同じくらいの目の高さだけど、やっぱり緊張してるのか目を合わせてもくれない。
目をむりやり合わせようと下からのぞきこむと、照れたように顔を赤くしちゃう。
…かわいい!この娘とお友達になりたい!
わたしは生まれてはじめてそんなことを思ったわ。
「あの…」
「あ、ごめんなさい!どうぞなかへ入って!」
「どうも…」
楚々として家に入ってくる美少女にわたしはついニマニマしちゃった。
「…ヘンタイ?」
肩にのってたクロが目を見開いて見つめて来たわ。完全に犯罪者を見る目だったわね。
「ちがうわよ!最初のお客さんがこんなステキな子でうれしいってだけ!」
小声で言ったんだけど、距離がちかいから美少女はおびえてふりかえったわ。
「な、なんでもないのよ~!あっ!お茶とかいる?最近買ったおいしい紅茶があるんだけど!」
「…いえ、結構です」
絶対警戒されてる…。変な薬でも盛られると思ったのかもしれない…。
「あの…、歯医者さんは…?」
美少女は部屋のなかをきょろきょろしてた。ペットのために歯医者に来たら、おなじ年ごろの女の子しか見当たらないことに困惑しているみたいだったわ。
まあ、仕方ないわよね。
「あっ、わたし、わたし~!」
「え?」
「わたしが〈どうぶつの歯医者さん〉だよ!」
「そ、そうなんですか…」
「だいじょうぶだよ!ほら、魔法使いは早くに才能を発現させたものほど優秀だっていうでしょ?わたし、それだから!」
「は、はぁ」
わたしは自信たっぷりに言い切ったわ。なぜなら、店を開くにあたって市場で買って読んだ『顧客を逃がさず、虜にする鉄則接客術』にそう書いてあったから。
客の前では自信満々にふるまわなければならない。たとえ、自信がなくても。そう書いてあったのよ。
「デイジーって結構理論から入ろうとするよな~」って本を読んでる時言われたけど、足りない経験はまずは理論で埋めないとね。そうやって理合も手に入れたんだし。ずいぶん時間かかったけど。
「それでは、患者さんを見せてもらおうかな。そこのテーブルのうえにお願いします!」
言われて美少女は手に持っていたカゴをやや不安そうにテーブルのうえに置いたわ。
カゴには目の幅くらいの長方形の覗き穴が開いていて、患者のギラギラとした目が見えた。これはどんな狂暴な相手が出てくるかわかったものじゃないわね…。なかなかスリリングな仕事を我ながら選んだものだと思ったわ。
「じゃ、さっそく見せてもらえる?」
「はい」
「まあ!美人!」
美少女がカゴを開けると、そこにはとびきり美しい白猫が入っていたの。
わたしは思わず声に出してたわ。
「えへへ、ですよね」
美少女はうれしそうに白猫をなでた。美少女と美猫の組み合わせは絵にしてとっておきたいほどだったわよ。
「へぇ…」
見るとクロもわたしの肩から身を乗り出して白猫を見てた。鼻をヒクヒクさせてる。
「…ヘンタイ?」
美少女に聞こえないくらいの極小の声で言うと、じろりとクロはわたしをにらんだわ。
「シャー!」
白猫が急にイカ耳になったの。もしかして、猫にはクロが見えるのかしらね?
「わっ!急にどうしたの、ポー」
美少女が白猫の体をおさえてなだめたわ。白猫の名前はポーというらしい。
「ポーちゃんっていうのね。それで、ポーちゃんはどうしたのかしら?」
「あっ、はい。最近なんですけど、食事のときに口を気にするようになりまして。それで…」
美少女は、なんと涙ぐみはじめた。
「え?え?だいじょうぶ?どうしたの?」
わたしはあわてたわ。肩にのってるクロもソワソワして右肩と左肩を行ったり来たりしてた。
「ごめんなさい…。それで、昨日の夜、食べてたら、急にポーがぎゃっ!って叫んで走り回って。今朝もそうで。口の中を見たら、赤くなってて。たぶん、口のなかが痛いんだと思うんですけど。それで、チラシのこと思い出して…」
美少女はがんばって話してくれた。
わたしは胸が熱くなったわ。
だって、この子はほんとうにポーちゃんの心配をしている。
ここには、愛があるもの。
なら、頑張らないとね!
「任せて!」わたしは美少女の両肩をつかんで、まっすぐに目を見て言ったわ。「絶対に治すから!」
わたしはしゃがんで、ポーちゃんの目線になった。まだイカ耳のポーちゃんのあごを、白手袋ごしに指先でそっと包むように触れる。
力を発揮する。イメージするだけでよい。
一瞬球状の光がポーちゃんのあごを包んだ。
「はい!終わり!」
「え…?もう、ですか?」
「うん!もう治ったよ!ばっちり!」
あまりにあっさりしすぎてて、美少女は信じられなかったみたい。
「よかったら、口のなか見てあげて」
「はい」
美少女は「ポーちゃん、ちょっとごめんね」と言い、ポーちゃんの口をこじ開けた。ポーちゃんの耳はもうイカ耳ではなくなっていたわ。
美少女は陽の光を頼りにして、ポーちゃんの口のなかを点検した。じっくりと点検したあと、美少女は顔をあげて、まっすぐにわたしを見たわ。
「…赤くなくなってる!」
「でしょ?」
「はい!いつもの口臭もなくなってます!歯もきれいになってます!」
「そういうこと。ふふっ、これがわたしの魔法よ」
わたしは調子にのって指パッチンして人差し指を差し向け、ウィンクまでしたわ。
「うわー…」
クロの冷たい視線も気にならなかった。
気分がとてもよかったわ。さっきまで泣いてた美少女が今はとても喜んでくれているんだもの。
「試しにちょっとなにか食べさせてみようか?」
「あっ、ポーちゃんのおやつ持ってきてます!」
「いいね」
ポーちゃんは美少女に鶏肉のおやつをもらっておいしそうに食べた。叫びだすことも、走りまわることもなかった。ポーちゃんの口の中は完全に治ったみたい。よかったわ。
実はそんなに使う機会もなかったから、治らなかったらどうしようってちょっと思ってたのよね。これは秘密だけど。
「…すごい!」
「え?」
美少女は興奮気味にわたしを見つめてきたわ。目がキラキラしてる。
「あなたはすごい魔法使いですね!」
「…!」
わたしははじめてそんなことを言われて、しかもいきなりだったから心臓が飛び跳ねたわ。
ドキドキしちゃった。
「あ、あっはっはっ、いや~、キミみたいな可愛い女の子にそんなこと言われて、悪い気はしないな~、あっはっはっ!」
だからなのか、照れて変になっちゃった。
「どこのオッサンだよ」
クロは呆れていたわ。
美少女はなぜかモジモジしてたの。
「あの…」
「ん?」
「よく間違われるんですけど、ボク、女の子じゃないです…」
「んんっ?」
「ボク、男です…」
「はっ!?えっ!?お、男の子?男の子ってなに!?え?女の子とはちがくて!???」
コクンとうなずかれちゃったわ。
「ええっー!!!!」
盛大におどろいてしまった。まあ、そりゃそうよね。
「ごめんなさい…」
美少女、いや、美少年はなぜか申し訳なさそうにしていたわ。
「い、いや、人生長ければ、いろいろあるよね…???」
わたしは意味不明なことを口走ったけれど、わたしの長い人生でもこれはなかなかない衝撃だったわ。美少年は、それほどまでに美少女だったの。
「ま、まあまあ、あれだな!こちらこそ勝手に勘違いしてごめんなさいだね」
わたしは気を取り直すことにしたわ。鉄則接客術にもリカバリーがなにより大事と書かれていたのを思い出したから。
「そうだ!」わたしは手を打ち鳴らした。ちょうど大事なことに気づいたの。「わたしたち、自己紹介もまだだったよね!わたしはデイジー!ただのデイジーだよ!よろしくね!」
わたしは握手をしようと手をさしだしたわ。
美少年はちょっと気恥ずかしそうにしながらも、微笑んで手を伸ばしてくれた。
わたしたちは握手した。
手を振って、お互いに見つめ合って微笑した。
その時ちょっとだけ思ったのよね。
あれ?どこかで見たことあるかも?って。
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