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1時間目②

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コリーヌを見守るハーバートは、服を脱ごうとするコリーヌを見てオロオロしていた。
彼の前で下着の紐も緩め、コリーヌは勢い良くそれを持ち上げて胸を出した。

プリンっと出た二つの双丘を目の前にして、彼の顔が吸い寄せられるように動く。
ハーバートは目を釘付けにしていた。

見られ過ぎて胸が熱く感じるほどで、コリーヌも顔から火が出そうだった。
「ハーヴィっ…!…モローニ伯爵!あまりまじまじ見ないでくださいましっ」
思わず昔の愛称を言いそうになって、言い直してから、コリーヌは彼の不躾な視線を避ける。
今から色々と感想を言って貰わなければならないというのに、無茶な事かもしれないけど、彼の目つきが余りにもあからさまだったからしょうがないと思う。
「あ…す…すまない」
段々と血走ってきた目を顔ごと反らして、ハーバートはきまり悪そうにしていた。

「はい…、触って下さい」
コリーヌはハーバートの顔を見れないまま、ギュッと目を瞑って少し胸を反らした。

一拍置いてから、コリーヌの胸にそっと何かが触れた。
思ったより冷たかったので、ビクリと少し体を震わせてしまうと、小さくハーバートが「大丈夫か?」と聞いてくる。
ううう、そんな優しい声を出さないで欲しい。
「ごめんなさい。少し冷たかったから。でも大丈夫よ」
コリーヌがそう言うと、ハーバートは少し安心して、息子のチャールズの方を見た。
「チャールズ、女性の体はとても繊細だ。特に体幹部は体温が高いから、冷たい手で触らないよう温度差に気を付けるんだぞ」
彼が父親らしく言った。
「はい、父上」
壁を見たままのチャールズが答える。

小さく息を吐いてハーバートはもう一度コリーヌの胸に手を寄せた。

コリーヌの心臓はバクバクと音を立てていて、ハーバートに聞こえてしまうのではないかというほど緊張していた。
まともにハーバートの顔が見れそうもなく、コリーヌは俯く。
最後に胸を人に晒したのは、亡き夫が生きていた5年も前の事だった。
子供ではない大人の男性。しかも昔好きだった彼の手が脇から持ち上げるようにそっと彼女の胸を触った。
鼻から小さく息が漏れ、コリーヌは緊張がバレないように毅然とした声を出す。
「ん……伯爵、感触を教えてあげて下さい…」
「あ…ああ…」
また血走った眼をコリーヌの胸に向けて、ハーバートは壊れそうなほど優しくコリーヌの乳房を包んでいた。
コリーヌの胸は巨大ではないが、ちょうど彼の大きな手に包まれる様な大きさだ。平均的だと思う。
彼の手に少し力が入って、コリーヌはまた鼻から息が漏れる。
どうしよう、ただの授業だと言うのに変な気分になってしまう。
コリーヌは下腹部の奥を意識していた。
「手が中に沈み込みそうに柔らかい」
「マシュマロみたいに白くて滑らか」
「食べ……いや、…ずっと触っていたいくらい心地良い」
次々とハーバートが赤裸々に感触と感想を言うものだから、恥ずかしさと、居たたまれなさでコリーヌの目には少し涙が浮かんできた。
あ、ハーバートの手のせいでなんだかゾクゾクして…
いやいや、何を考えているの、今は授業中なのよ。

「チャールズ様。モローニ伯爵は触るのが上手いですが、胸は決して強い力で触ってはっ…あ、いけませんっ。特に体が未熟な若い女性は痛いはず…です。」
ハーバートの両手の指が急にコリーヌの胸の先を摘まんで来て、変な声を出してしまった。
急な刺激を与えて来た彼を睨もうとして顔を向け、コリーヌは言葉を詰まらせた。

雄の欲を湛えたようなギラギラした表情のハーバートが、至近距離でコリーヌの目を見ていたからだ。

思わず唾を飲み込んで、コリーヌは肉食動物に睨まれた捕食者に様に体を硬直させた。
彼の指が少し力を込めて胸の頂きを弾きながら、掌底で胸全体を押し上げて来た。
はっきりと胸から下腹部まで電流の様な快感が走って、コリーヌは思わず息を飲んだ。
何が「破廉恥」よ!あなたの手の方が破廉恥じゃないのっ…
そう文句が言いたいのに、子供の前で取り乱すのも恰好が付かない。
変な声が漏れないように、ギュっと目を瞑って我慢した。
コリーヌは大人だ。はっきりと股の間に経験のある疼きを感じていた。

「胸の先は色が違う。唇の色と同じだ。乳暈にはすこしぶつぶつとした物がある…、乳頭が刺激で硬く…なってきた」
段々とハーバートの顔が近くなってきていて低い声が近くで響く。
ハーバートが好きな香水のベルガモットの香りがする。
「乳首は…っ特に繊細な場所、です。絶対に爪で引っ掻いたり、傷つけないでっください」
気丈にふるまうのにも限界がある。
もうやめて欲しくて、コリーヌは彼の手を除けようとする。
だが、その手はガシっとハーバートに捕まえられた。

目と目が合った瞬間、彼の琥珀色の目が近づいてくる。
いきなりコリーヌの口は彼の唇で塞がれ、否やの声が出せなくされた。

向こうを向いてはいるがチャールズがすぐ傍らにいるというのに、興奮していたせいかその唇が気持ち良いい。頭がクラクラしていてコリーヌは思わず舌を迎え入れてしまった。
ぬるりと舌が絡まり、コリーヌは鼻の奥がツンとして、胸が苦しくなってくる。
や…やだ…ぁ…どうしよう…授業…よ?
…ハーヴィ?…どうしちゃったの…?
踊り狂ったように心臓が早鐘を打っている。
香水の奥の男性らしい香りと、胸への刺激と、唇の感触でコリーヌは混乱した。
憧れていた事もあるハーバートとのキスだ。あ…胸が苦しい。

ちゅ…
二人の口から濡れた音が漏れて、正気に戻ったのか、彼は目を大きく開いてコリーヌから離れた。

急激に無くなった熱に、コリーヌの頭もスっと冷えた。

コリーヌは彼を見ないように目を逸らして、素早く身だしなみを直した。
無意識にコリーヌは太ももの内側に力を入れていた。
そんな自分に活を入れて、授業の資料を手にする。
「閨の時に性感を高める場所でもありますが、その後に重要な役目があります。チャールズ様もご存知だと思いますが、出産した後に子供に授乳をするための器官です。牛や犬猫にもあるように、胸の先に赤子が吸い付いて乳が出るのです。」
「一つ注意事項があるのですが、胸も容姿や体形と同じでそれぞれ大きさや形が違います。それのせいで悩んでいる人も多いですので、女性を揶揄ったり、安易に胸の大きさの話をするのはよくありません。」
毅然とした声を出せていたかしら?
胸を触られていた時は少し乱れていたかもしれない…
そ、それにしてもハーバートったら…きっと女日照りだったのね。久しぶりに女の体を触ってブレーキが利かなくなったのかしら…
さっきのハーバートの射るような眼差しを思い出してしまって、コリーヌは心の中のそれを締め出す。もうハーバートの方は見れなかった。

「もちろん褒められれば悪い気はしません。婚約者様ともいずれ関係が密になった時には素敵だと言ってくださいね」

すると、ハーバートが口を開いた。
「白くて柔らかくて、コリーヌの胸はとても…とても美しかった」
「あ…ありがとう」
コリーヌは俯いたままで返事をした。

さっきまで触られていた胸がムズムズする。
ちらりと確認した懐中時計はもう授業時間を過ぎようとしていた。

「もうこんな時間ですね。次回は性交渉までの準備を教えて行きます。今日の資料にももう一度目を通しておいてください」
チャールズはやっと壁からこちらに向き直ったが、目を伏せたままペコリとお辞儀した。
「はい。お待ちしています。今日はありがとうございました。」
彼の耳は少し赤くなっていた。いくら違う方を見ていても、気恥ずかしかったのかもしれない

…え?もしかしたら、私の声はそんなに上ずっていたかしら?嫌だわ…恥ずかしい。

色々考えて恥じ入っていると、急にそんな風にしたハーバートが小憎たらしい気持ちになり、彼を少し睨む。
ハーバートは他所を見ながら、コリーヌに左手を差し出していた。
先程胸を触っていきなりキスした癖に、紳士ぶってエスコートしようとしている彼が少し滑稽だった。
「玄関まで」
そう言い添えられてしまうと、エスコートしようとする手を無視することも出来なくて、コリーヌは手を置く。途端にまた胸がドキドキと煩くなってしまう。

居心地が悪い気分だが、完璧な所作で彼に誘導されると、従う他ない。
邸宅の玄関まで連れて来られた。
モローニ伯爵のタウンハウスは王都の南にあり、そこそこの規模の御屋敷だ。
王都市街のアパルトメントの一室に住むコリーヌはここまで乗合馬車でやって来たが、ハーバートに次からは交通費を先に出すから必ず辻馬車で来るようにと言われてしまった。

「それではまた一週間後に伺いますね」
今日の授業はハーバートとの諍いのせいであまり進まなかった。それに教えないといけないことが抜けていたかもしれない。馬車に乗ったら、すぐに今回の事を振り返って、次回に生かさないと…
と、真剣に次回の授業の事を考えていたら、ハーバートが馬車にコリーヌを誘いながらボソリと何かつぶやいた。
「…?」
コリーヌは馬車の中に入って座ってから、彼に首を傾げた。声が小さすぎて言葉が聞き取れなかったのだ。
「あの…『約束』をしただろう…だから…そろそろ考えて行かないか?」

「え?」
一体何のことだろう。このチャールズの閨教育は口約束で請け負った訳だけれども。

よく分からないことを言った彼に質問をしたかったが、ハーバートが身を引いたので馬車の扉が閉まった。
何か他に彼と約束した事があったかしら…?
コリーヌは馬車の中で1人で首を捻っていた。
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